医療版事故調 平成27年秋に発足~患者・遺族を置き去りにしない制度に

弁護士松山健(嘱託)(2014年7月センターニュース316号情報センター日誌より)

法案可決

  平成26年6月18日、医療事故調査制度の創設を盛り込んだ「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律案」が参議院で可決され法律として成立しました。
 医療事故調査制度については、附則で、平成27年10月1日から施行されることとなっています。
 医療事故調査制度が創設されることになったことは、医療安全に向けての大きな前進として評価できます。

附帯決議

 もっとも、以前から法案としてご紹介しているように、本法は、事故調査制度の大枠を定めるのみであり、具体的な運用手順等の細目については「厚生労働省令で定める」とされています。したがって、今後、省令、ガイドラインがいかなる内容で策定されるか、第三者機関としていかなる団体が指定されるか等によって、具体的な制度の運用実態は大きく左右されることになります。
 6月17日の参議院厚生労働委員会で一括法案の採決後に可決された附帯決議のうち医療事故調査制度に関連する3項目でも、次のようにガイドラインの策定に際しての検討事項が指摘されています。
ア 調査制度の対象となる医療事故が、地域及び医療機関毎に恣意的に解釈されないよう、モデル事業で明らかになった課題を踏まえ、ガイドラインの適切な策定等を行うこと。
イ 院内事故調査及び医療事故調査・支援センターの調査に大きな役割を果たす医療事故調査等支援団体については、地域間における事故調査の内容及び質の格差が生じないようにする観点からも、中立性・専門性が確保される仕組みの検討を行うこと。また、事故調査が中立性、透明性及び公正性を確保しつつ、迅速かつ適正に行われるよう努めること。
ウ 医療事故調査制度の運営に要する費用については、本制度が我が国の医療の質と安全性の向上に資するものであることを踏まえ、公的費用補助等も含めその確保を図るとともに、遺族からの依頼による医療事故調査・支援センターの調査費用の負担については、遺族による申請を妨げることにならないよう最大限の配慮を行うこと。

患者・遺族を忘れられた存在にしない

 附帯決議ア・イにあるように、対象事故の定義・解釈や第三者機関や支援組織の中立性等の確保は極めて重要な課題ですが、ウに関連する遺族が制度から忘れられた存在になってしまわないよう注意が必要です。
・法文上の遺族の位置づけの不十分さ
 衆院厚労委員会の医政局長答弁では、「医療事故」(法第6条の10)は、医療機関の管理者が当該死亡・死産を予期しなかったものと定義されるので、まず、管理者が「医療事故」と認識し報告するところから初めて調査がスタートするのであり、遺族が第三者機関に調査依頼できるのも管理者の認識によって「医療事故」となることが前提という厚労省の認識が示されています。
 スタートボタンを管理者が握り、そのボタンが押されない限り、遺族は調査依頼もできず、仮に調査がスタートしても、調査開始時の「説明」(法第6条の10第2項)と調査終了時の調査結果の「説明」(法第6条の11第5項)以外は調査手続に遺族が関わる規定は法文上ありません。
 院内調査という事故の一方当事者たる医療機関が自分で調査を行うという仕組み自体、遺族には直ちには受け入れ難い違和感があるはずであり、実際の調査に際して逐次の情報提供もなく、調査結果が出るのを待ったはいいが、内容が納得のいくものでなく、改めて(費用まで持って)第三者機関に独自調査(法第6条の16第5号、同第6条の17第1項)を依頼しなければならないというのでは、その状況自体が遺族には大きな負担となります。
・遺族への情報提供の必要
 この点、第三者による調査制度を定める運輸安全委員会設置法及び消費者安全法でも、(情報の提供)と題して「調査委員会は、事故等原因調査等の実施に当たっては、被害者及びその家族又は遺族の心情に十分配慮し、これらの者に対し、当該事故等原因調査等に関する情報を、適時に、かつ、適切な方法で提供するものとする」(消費者安全法第34条。運輸安全委員会設置法第28条の2もほぼ同文)と規定するところであり、ガイドラインにおいて調査期間中の適時の情報提供が定められる必要があります。
・遺族の認識・意向を吸い上げることの価値
 また、このような遺族の心情面への配慮はもちろんのこと、被害者側の事実認識や疑問が一方的な観点に偏りがちな事実認定や評価を対立的視点によって照らして真相解明に奉仕する度合いでは、外部委員の関与に優ることもあり得るのであり、制度目的が紛争解決でなく原因究明と再発防止であるということは、遺族が蚊帳の外に置かれたままでよいということには決してつながらないはずです。調査の実を上げる実効的観点からしても、できる限り、遺族の認識した事実、心情、疑問等が調査のプロセスに反映されるガイドライン作りが求められます。

今後は公開の場での議論を

 省令やガイドラインの策定、第三者機関の指定などに関する議論が、今後、厚労省で行うであろうパブリックコメントの募集その他、公開の場での国民的議論となり、市民や医療事故被害者の視点が反映されるよう厳しく見守っていく必要があります。