「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案-第三次試案-」に対する意見について

080508 「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等
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厚生労働省医政局総務課医療安全推進室 御中

意 見 書

2008/05/08

名古屋市東区泉1-1-35 ハイエスト久屋6階
医療事故情報センター      
   理事長 柴田 義朗
電話 052-951-1731
FAX 052-951-1732

 医療事故情報センターは、医療事故の被害回復と再発防止の実現を目的として、医療事故の被害者の側に立って活動している全国の弁護士を正会員とする団体です。1990年12月に設立され、2008年5月1日現在の正会員弁護士数は673名です。
 「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案-第三次試案-」に対する当センターの意見は、以下のとおりです。
 団体名、代表者氏名、意見本文のいずれについても公表を希望します。

第1 第三次試案全体に対する意見

 私たちは、医療事故の原因究明と再発防止のために「医療安全調査委員会」を創設することについては、国が、医療の安全確保を喫緊の重要課題として正しく認識し、安全な医療の実現に向けた第一歩を踏み出そうとするものと理解し、基本的に賛成する。
 しかしながら、「医療安全調査委員会」は、単に医療事故に関する刑事責任や行政責任を免責するための道具となってはならず、その創設にあたっては、多くの苦しみや悲しみを背負ってきた被害者・遺族、そして患者となる市民が納得し、信頼を寄せることができるよう、公正性・透明性・実効性が確保された制度として設計されることが不可欠である。
 そのためには、以下個別に述べるとおり、第三次試案に適切に修正を加えて制度が創設される必要がある。また、制度創設後も、運営状況の確認を怠ることなく、より公正性・透明性・実効性の確保された制度へと不断の修正を加えるべきである。
 特に、この制度の公正性・透明性・実効性を確保するためには、事故の届出が適切になされることが極めて重要であるが、第三次試案では、届出範囲の定義に恣意的な解釈の余地が残るため、制度の発足にあたり、この点の修正は不可欠である。また、第三次試案が想定する医療事故は、死亡事故の中の一部の類型(医原病型事故・作為型事故)に偏重しており、画像上の異常陰影の見落とし・検査の懈怠・診断の遅延等といった医師らの不作為を原因とする死亡事故については、届出がなされない可能性がある。さらに、重篤な後遺症を残した症例等、再発防止の検討が不可欠であるはずの重大な医療事故が対象外とされていることを失念してはならず、当面は、死亡事故のみを対象とするとしても、引き続き、医療事故調査制度の更なる拡充に向けた努力を継続する必要がある。
 なお、「医療安全調査委員会」がその責務を十全に果たすためには、十分な人的・物的資源が投入されなければならない。国は、医療安全の実現を国家的事業として位置付けた上で、十分な予算を確保し、真に実効性のある制度の創設に努めるべきである。
 また、医療関係者は、「医療安全調査委員会」の公正性・透明性・実効性ある運営に協力すること、並びに、公正性・客観性をもった院内事故調査を実施することを通じて、自律的に公正な事故調査を行う医療文化を育むべく、最大限の努力を尽くすべきである。

第2 「1 はじめに」(1)~(5)について 

1 医療安全の確保を、医療政策上の重要課題として位置付けたこと、死亡事故の原因究明・再発防止が国民の切なる願いであるとの認識に基づいて試案を作成したこと、医療関係者に、その願いに応えるよう最大限の努力を求めたことについて、高く評価する。

 診療行為が人体に対する侵襲を前提とし、一定の危険性が伴うものであり、場合によっては、死亡等の不幸な帰結につながる場合があり得ることはそのとおりである。
  しかしながら、医療界全体として真摯に医療安全を希求する取り組みを開始したのは、ほんの10年前のことにすぎない。それゆえ、現在もなお、医療安全対策は十分なものとは言えず、正しい知識や教育に基づいて診療行為が実施されていれば回避しえたはずの医療事故も、残念ながら引き続き発生している。
  発生した医療事故に対し、医療界の側から、真摯に向き合おうとする姿勢が見られるようになったことは大変望ましいことであるが、中には、適切な同僚評価(ピアレビュー)がなされれば、医療過誤と指摘されることになるはずの事例であるにも関わらず、患者の側から指摘されるまで、十分な原因究明等の作業さえ実施されないまま放置されているようなケースも、少なからず見受けられるのが現状である。
  一般論として「医療に不確実性が伴う」ことは事実であるが、そのことによって、1つ1つの事故について丁寧に原因を究明していく作業の重要性には、何ら変化を生じるものではない。医療事故の死亡原因を究明する制度は、こうした視点に基づいて設計されることが不可欠である。

 医療安全向上のために、解剖や診療経過の評価を通じて、医療死亡事故の原因究明・再発防止を実現する仕組みが必要であるとの認識に、強く賛意を表する。また、遺族が真相究明・再発防止を願う一方で、これまでそうした願いを実現するための行政の対応が不十分であったことを踏まえて、あらたに、医療死亡事故の原因究明・再発防止のための制度を創設することに、強く賛同する。第三次試案の提案する制度の具体的な内容については、届出範囲や届出義務の点をはじめとして、不十分な点が散見されることは事実であり、不断の修正や見直しは不可欠であるが、今、医療安全実現にむけた明確な行動のスタートを切らなければ、医療に対する国民の信頼を回復する機会は失われるであろう。医療界は、同制度の創設に向けた行動を開始すべきであり、政府は、医療安全の実現が国家的課題であると位置付けた上で、今般創設される制度によって、真に医療安全が実現されるよう、十分な予算と人員を確保し、その実効性の担保に向けた最大の努力を尽くすべきである。 

第3 【委員会の設置】について

 (6)及び(7)のとおり、医療死亡事故の原因究明・再発防止を行い、医療の安全の確保を目的とした国の組織(委員会)を創設することに賛同する。

 (8)の設置場所については、委員会が厚生労働省をはじめとする国の関係機関への建議や、厚生労働省が所管する国立の医療機関における事故調査も行うことになることに鑑み、各省庁からの独立性と、実効的権限の確保を実現するために、委員会は内閣府の下に、国家行政組織法3条に基づく独立行政委員会として設置するべきである。

 (9)のとおり、委員会が、中央の委員会と、地方ブロック単位で設置される委員会及び事例毎に置かれる調査チームによって構成されることに賛同する。調査チームの設置は、事例発生後、速やかに行われるべきであり、調査チームのメンバーについては、事前の人選に基づくリストが準備される必要がある。

 (10)の調査チームの構成については、現行のモデル事業において行われているように、患者代理人としての業務に精通した弁護士を加えることによって、公正性を確保することが必須であると考える。

 地方委員会及び中央の委員会が(11)及び(12)のとおりの役割を担うことに賛同する。

 (13)の各組織の構成については、いずれについても患者代理人としての業務に精通した弁護士を加えることによって、公正性を確保することが必須である。また、中央の委員会及び地方委員会には、安全工学の専門家等の参加が不可欠であり、医療関係者のみならず、医療安全に関わるすべての分野の専門家の叡智を結集し、総合的かつ科学的な観点から再発防止策を立案・建議できる組織とすることが不可欠である。

 (14)のとおり、個別事例関係者が調査に従事しないことは容認できると考えるが、当事者たる遺族及び当該医療機関に対しては、十分なヒアリングを実施し、また調査結果について丁寧な説明を受ける機会が確保されることが必要である。また、(14)の述べるとおり、中立性と高い倫理観をもつ委員が任命されることは不可欠である。

 (15)のとおり、委員会の業務を実効性あるものとするには、事務局機能の充実が不可欠であり、国家的事業として、十分な予算措置と人員配置がなされることを強く求める。

第4 【医療死亡事故の届出】について

 (16)のとおり、再発防止と透明性の向上等を図るために、医療死亡事故の届出を制度化することに、強く賛同する。

 届出義務の範囲については(17)のように、「誤った医療を行ったことが明らかか否か」を判断要素とすることには反対する。医療事故の再発防止を実現するためには、医療過誤であるか否かを問わず、広く医療事故事例を集積することが不可欠である。そうすることこそが、医療の透明性を向上させ、医療に対する信頼を回復することにもつながるはずである。
  特に、(17)の図表の述べる届出義務の範囲では、「以下の[1]又は[2]のいずれかに該当すると、医療機関において判断した場合」とされているが、「医療機関において判断した場合」という定義では、医療機関の恣意的判断の余地を残すおそれが多分にあり、医療の透明性の向上にはつながらない。
  それゆえ、届出義務の範囲は「行った医療に起因して患者が死亡した事案(行った医療に起因すると疑われるものを含み、死亡を予期しなかったものに限る)」と定義すべきであり、「医療機関において判断した場合」という文言は排除すべきである。また、画像上の異常陰影の見落とし・検査の懈怠・診断の遅延等といった医師らの不作為を原因とする死亡事故についても、原因を究明し、再発防止をはかることが不可欠であるから、「行った医療」には、不作為をも含むことを明確にすべきである。
  なお、届出義務は厳格に運用されることが求められるが、届出義務の範囲の定義から「医療機関において判断した場合」という文言を排除し、「行った医療」に不作為が含まれることが明確化された場合、届出義務違反に対するペナルティについては、画一的な運用ではなく、医療機関において届出義務範囲外と判断したことについての悪質性(過誤性が明白であるのに届けなかった等)の程度に従い、刑事処分・行政処分・その他のペナルティ等を実情に応じて使い分けることは許容できると考える。その場合には、悪質性の程度に相応したペナルティの在り方について、一定の指針が委員会から示されることが望まれる。

 (19)の医師法第21条については、届出義務の範囲が「行った医療に起因して患者が死亡した事案(行った医療に起因すると疑われるものを含み、死亡を予期しなかったものに限る)」と定義され、かつ「行った医療」には不作為を含むことが明確にされた場合には、改正を容認できると考える。この定義を採用して届出範囲を広く定めた場合の届出違反に対するペナルティについて、運用上の工夫の余地を容認することについては、上述のとおりである。
  医療事故死が届けられないままとなる定義や、届出範囲の判断に恣意性を許す定義が採用された場合には、医師法第21条の改正は賛同できない。

 (20)については、過誤性のない医療事故であっても再発防止は必要であり、過誤性のない医療死亡事故についても、届出の対象とすべきである。届出範囲を広く定めた場合の届出違反に対するペナルティに関し、運用上の工夫の余地を容認することについては、上述のとおりである。

 (21)のとおり、医療事故死の届出義務の判断を、当該医療機関の管理者が行うこととすることに賛同する。なお、当該医療機関の管理者が、当該医療死亡事故に関連する診療行為に関与している場合(特に個人病院等で想定される)については、一定の制度上の工夫が必要となると考える。

 (22)では、故意に届け出なかった場合や、虚偽の届出を行った場合については、その悪質性に鑑み、明確に刑事罰の対象とすべきであって、これらを医療機関内の体制不備のための届出義務違反の場合と同一視することについては、強く反対する。故意の届出懈怠や、虚偽の届出は、交通事故を起こした上での「ひき逃げ」行為に相当するものであり、強い非難を加えるべきである。
   なお、届出義務違反に対して画一的に刑事罰を科するのではなく、悪質性の程度に鑑みて、刑事処分以外に行政処分等を活用し、実情に応じた運用を行うことについては、容認できると考える。

 (23)では、医療機関管理者からの届出がなく、遺族から届出があった場合について、「医師の専門的な知見に基づき届出不要と判断した場合」には届出義務違反に問われることはないとしているが、「医師の専門的な知見に基づき届出不要と判断した場合」という要件を設けることは不要である。届出義務違反の有無は、あくまで届出義務の定義に該当する医療死亡事故の届出があったか否かで判断すれば足りる(もちろん、遺族から届出がなされた事案であっても、医療機関管理者には届け出る義務のないケースはありうる)。

 (24)のとおり、届出手続や調査手順等について、医療機関からの相談を受け付ける機能を整備することに賛同する。同様に、医療死亡事故調査に関連して、遺族の側からの相談を受け付ける機能も整備すべきである。

第5 【遺族から地方委員会への調査依頼】について 

 (25)のとおり、医療機関が届出範囲に該当しないと判断した場合であっても、遺族が原因究明を求めて、地方委員会による調査を大臣に依頼できるとすること、及びこの調査依頼を医療機関が代行できるとすることに、強く賛同する。医療の透明性及び医療事故調査の透明性を確保するためには、遺族の側から調査を求めることも可能とすることが不可欠である。

 (26)のとおり、遺族からの相談を受け付ける機能を委員会及び都道府県等に設置された医療安全支援センター等に整備していくこと、委員会の役割や相談方法について、国が広く国民に周知することについて、賛同する。制度を創設するだけでなく、患者・遺族にとって実効性ある形で制度を機能させるためには、かかる相談体制整備や制度周知が不可欠である。

第6 【地方委員会による調査】について

 (27)について
(1)個別事例の調査の対象について、原則として遺族の同意を得て解剖が行える事例とすることに賛同する。
   ただし、解剖の諾否を遺族に確認する際には、医療機関が医療死亡事故調査の意義について、遺族に十分な説明することが必須である。これらの点について不十分な説明のまま、遺族が解剖を拒否し、その結果として調査の実施が回避されるという事態は、あってはならない。
  中央の委員会では、医療死亡事故調査手続の説明を死亡診断書の書式に記載する等、制度の説明や解剖の諾否を確認する際の手順、遺族に交付する説明資料について、ガイドラインや統一的資料を定めるべきである。そうすることが、診療現場において、遺族に解剖の諾否を確認する際の手続の混乱を防ぎ、診療現場の個々の医療従事者の負担軽減に繋がることともなる。

(2)[1]以下では、調査チームによる調査の手順として、まず医療機関から診療録等の提出を求めるとともに、医療関係者や遺族等への聞き取り調査を行うとされている。
   しかしながら、聞き取り調査は、解剖の結果を踏まえて行われることが非常に重要である。事故発生直後の聞き取り実施も必要ではあるが、調査チームによる調査手順としては、事故発生直後に診療記録や物(事故原因となった医療機器等)の状態を確認・保全する(第一次的には、当該医療機関が責任をもって診療記録や物等を保全するべきであり、一定規模以上の医療機関については、そうした保全体制の確保を法的に求めるべきである)とともに、できる限り速やかに解剖を実施し、その結果を踏まえた上で、医療関係者や遺族等への十分な聞き取り調査の実施が望まれる。

(3)[1]では、聞き取り調査を事務局が中心となって行うとされているが、聞き取りは非常に重要な作業となるため、事務局は別途聞き取り調査について十分な研鑽を積む必要がある。また、剖検結果を踏まえた上での聞き取り調査については、事務局ではなく、調査チームが中心となって行うことが望ましい。

(4)[2]では、解剖担当医が解剖を実施して結果をとりまとめるとし、死亡時画像診断等を補助的手段として活用することを今後の検討課題と位置付けている。現時点では、解剖を担当できる医師の人数等に制約があるため、死亡原因を確認するための現実的な方策として、補助的手段として死亡時画像診断等を積極的に活用していくことに賛同する。国はこうした診断にかかる費用に対し、積極的に予算を付すべきである。また、国は、早急に解剖担当医の増員・養成を実施すべきである。

(5)[3]では、診療録等や解剖結果に基づき臨床医等の医療関係者がとりまとめた臨床経過の評価を基に、解剖担当医や臨床医、法律家等からなる調査チームが、各種調査検討を実施して調査報告書案をとりまとめるとされている。「臨床医等の医療関係者」が調査チームのメンバーを意味するのか否か、試案では判然としないが、調査チームのメンバーたる臨床医等とともに、当該医療機関内の院内事故調査委員会も、診療録等や解剖結果に基づいて臨床経過の評価の取りまとめを行うべきである(すべての医療機関において院内事故調査が実施されることが望まれるが、当面の間は一定規模以上の医療機関の場合に限定することは許容できる)。
   調査チームでは、当該医療機関の実施した院内事故調査委員会のとりまとめの結果を吟味しつつ、調査検討を実施し、調査報告書案をとりまとめるべきである。

(6)[3]では、調査チームによる評価・検討は、医学的観点からの死因究明とシステムエラーの観点を含む医療事故の発生の根本原因分析を実施することとし、医療関係者の責任追及を目的としないと付記されているが、この点についても賛同する。
    他方、[3]では、評価を行う際には、事案発生時点の状況下を考慮した医学的評価を行うとも付記されているが、前述のとおり、原因を究明し、再発防止策を検討する目的で評価が行われる以上、調査チームとしては、「再発防止に向けて臨床経過を振り返って今後の医療の安全の向上のために取り得る方策について提案する」というレトロスペクティブな視点からの調査を行うことを徹底すべきであり、事案発生時点の状況下を考慮した医学的評価を原則とすることには賛同できない。

(7)[4][5][6][7]に記された地方委員会等における調査手順ついて、おおむね賛同する。なお、作成された調査報告書については、遺族に交付するとともに、その内容については、地方委員会(調査チームを含む)から遺族に対して丁寧な説明を実施すべきである。

 (28)のとおり、調査報告書が医療関係者以外が理解しやすいよう十分配慮されることを希望する。

 (29)では、疾病自体の経過としての死亡であることが明らかとなった事例等については、地方委員会による調査は継続しないとされている。
  しかしながら、疾病自体の経過としての死亡である場合でも、その過程において再発防止のための教訓を含む事案は少なくない。例えば、末期癌の見落としのような事例では、仮に見落としがなくとも死亡時期に違いはなかったと考えられるような場合であっても、見落としの根本原因(検体の取り違え、画像読影体制の不備等)を究明していくことは、同種の事故の再発防止に大きく寄与することとなる。疾病自体による死亡であっても、その経過において、標準的な医療からの逸脱が見られる事例や、再発防止に資する経過を含む事例がありうる以上、地方委員会による調査を継続すべきである。
  また、調査を継続しない余地を認めるとしても、それはあくまで極めて例外的な場合に限定すべきである。そして、調査を継続しない場合には、制度運用の透明性を確保するために、地方委員会は、医療機関及び遺族に対し、その理由を書面によって報告するべきである。

 (30)のとおり、調査の進捗状況を遺族に伝えるとともに、遺族の感情を受け止め、それを地方委員会や更には医療機関と共有していく役割を担う事務局担当者(看護師等)の養成を図ることに賛同する。

 (31)のとおり、解剖担当医や臨床評価担当医等に対する研修を実施することに賛同する。なお、解剖担当医や臨床評価担当医以外の調査チームのメンバーについても、研修を実施することが望まれる。

第7 【院内事故調査と地方委員会との連携】について

 (32)のとおり、医療機関自身が当事者として院内事故調査を実施し、独自に原因究明を行うことは不可欠である。地方委員会及び調査チームは、院内事故調査結果をも踏まえて、院内調査が適正であるかどうか、適切な再発防止策が講じられているかどうか等の点についても、評価・検討を加えることとすべきである。

 (33)のとおり、一定の規模や機能を持たない病院について、医療法上の安全管理委員会の業務として、地方委員会に届け出た事例に関する調査を行い、再発防止策を講ずることを位置付けることに賛同する。また、安全管理委員会は、地方委員会に届け出た事例のみならず、遺族から地方委員会による調査の依頼があった事例についても、同様の調査及び再発防止策の対象とすべきである。

 (34)では、院内で調査・整理された事例概要や臨床経過一覧表等の事実関係記録を、地方委員会における検証・審議の対象とするとされているが、そうした事実関係記録だけでなく、院内事故調査報告書そのものについても、検討・審議の対象とし、透明で実効性のある院内事故調査の実施を促していくべきである。

 (35)のとおり、一定規模や機能を持つ病院については、医療安全委員会に事故調査委員会を設置して院内において医療事故調査を行うこと、院内事故調査に、外部の委員が参画することに賛同する。調査の透明性・公正性を確保するためには、単に院外の者が参加すれば足りるとするのではなく、中立公正に同僚評価をすることが可能な医師や、患者代理人業務に精通し、患者・遺族の視点で調査に参加できる弁護士が参加するよう求めていくべきであり、かかる院内事故調査の組織や手順等については、医療法等により法的な規範を設けるとともに、その詳細については、中央の委員会が指針やガイドライン等を策定するべきである。
  また、自施設で事故調査を実施することが困難な中小病院や診療所について支援体制を検討することにも賛同する。学会等の団体には、こうした支援体制の確立について、積極的に協力することが望まれる。

 (36)のとおり、地方委員会が、調査チームによる解剖結果を、できる限り速やかに当該医療機関及び遺族に情報提供し、院内調査を適切に実施するための資料として活用できるようにすることに賛同する。速やかな情報提供のためにも、国は、解剖を担当可能な医師の養成・増員や、地方委員会の事務局体制の充実に努めるべきである。 

第8 【中央に設置する委員会による再発防止のための提言等】について

 (37)のとおり、中央の委員会が、関連各種学術団体と協働して全国の医療機関に向けて再発防止策の提言を行い、関係行政機関に対して勧告・建議を行うことに賛同する。実効的な勧告・建議を行いうるよう、中央の委員会は、医療に関連する省庁(例:厚生労働省、文部科学省=医学教育等、経済産業省=医療機器規格等、総務省=消防庁=救急体制等、財務省=医療費等)から独立性が確保されるとともに、十分な権限が与えられる必要がある。そのためには、中央の委員会は、内閣府の下に、国家行政組織法3条に基づく独立行政委員会として設置されるべきである。

 (38)のとおり、中央の委員会が、日本医療機能評価機構が、医療事故情報収集等事業を通じて分析・収集した情報をも踏まえて、再発防止策を検討することに賛同する。医療安全調査委員会では、死亡事故に関する情報を集約することとなるが、実効性ある再発防止策を検討するためには、同種事故(死亡に至らないものも含む)や周辺のヒヤリ・ハット事例を参照することが非常に必要である。

第9 【捜査機関への通知】について

(39)では、地方委員会は、故意や重大な過失のある事例その他悪質な事例について、捜査機関に適時適切に通知を行うこととし、医師法第21条の届出を不要とするとしている。
   しかしながら、前述のとおり、本試案の提言する届出範囲の定義は恣意性を残す内容のものとなっている。届出範囲の定義に恣意性が残ったまま、医師法第21条の届出を不要とし、かつ捜査機関に対して通知をする事案に限定を加えることについては、賛同できない。

 (40)では、地方委員会から捜査機関に通知を行う事例を例示しているが、上述のとおり、届出範囲の定義に恣意性が残るのであれば、医師法21条の届出を不要として、かつ捜査機関に対して通知をする事案に限定を加えることについては賛同できない。
  なお、例示においては、故意の場合と重大な過失の場合を同列で論じているが、故意の場合は殺人罪であり、医療安全調査委員会の業務の範囲外となるものと考えるべきであるから、故意が疑われた時点で早急に捜査機関への通知を行うべきである。

第10 「3 医療安全調査委員会以外での対応について」

 医療安全調査委員会の業務は、調査報告書の作成・公表及び再発防止のための提言をもって終了するとされている。
 しかし、医療安全を真に実現するためには、単に提言するだけではなく、一定期間経過後に、同種事故の増減を検証し、真に実効性のある提言であったかどうかを再評価した上で、提言の実践が不十分であれば、更なる提言を行うことが極めて重要である。それゆえ、医療安全調査委員会には、再発防止提言後の検証についても業務として担当させることが不可欠である。

第11 【遺族と医療機関との関係】について

 (41)のとおり、医療機関から患者・家族に対し、事故経緯や原因等について、十分な説明がなされることが重要であるとの認識に賛同する。医療安全調査委員会が調査を行う場合であっても、当該医療機関は、同委員会に調査を任せきりにするのではなく、自主的・自律的に自ら調査を進め、患者・家族と向き合う姿勢を示すことが不可欠である。

 (42)のとおり、事故発生直後から医療機関内での対応が適切になされるよう、患者・家族の感情を受け止め、真摯にサポートする人材を育成して院内に配置することに賛同する。小規模病院や診療所等において、こうした人材を配置することが困難な場合には、学会等の団体の協力による支援体制を設けることが必要である。

 (43)のとおり、地方委員会の調査報告書は、遺族に対して交付されることが必要であることはもちろん、当該医療機関に対しても同様に交付されることにより、安全対策等に活用されることが必要である。

 (44)及び(45)に示された、紛争解決に関する認識についてはおおむね賛同する。
  なお、医療機関と遺族との間の紛争の早期解決は重要であるが、単に紛争化したという表層的現象を収めるだけではなく、究極には医療事故の再発防止につながる形となっていなければ、真の解決と呼ぶことはできないと考える。
   また、紛争の早期解決は、医療機関・遺族双方の努力だけで実現されるものではなく、医師損害賠償保険の運営のあり方によっても大きく左右される。裁判外紛争解決制度の協議には、損害保険会社にも参加を求めた上で、医師損害賠償保険が早期紛争解決に資するよう運営されることを要請するとともに、損害保険会社に対し、保険の運用を通じて集積される事例情報の検討によって、医療安全実現のための有益な情報を社会に提供するよう求めていくべきである。 

第12 【行政処分】について

 (46)ないし(49)に述べられた行政処分のあり方の見直しについて、おおむね賛同する。
 なお、行政処分を医療事故の再発防止につなげるためには、個々の事例の根本原因を十分に吟味して処分を下すべきであり、従来のように刑事処分が下った医療従事者個人に対して機械的に行政処分を下すという運用は改められるべきである。医療事故の根本原因は多様であり、同一の医療従事者が同種の事故を繰り返すような場合など、主として個人の資質に基づく事故もありうるところであるが、多くの場合、単に個人の資質のみには還元できないシステム的な要因が含まれている。そうしたシステム的な要因については、個人に対する行政処分で改善を期待することは困難であり、医療機関やその開設者・管理者に対して、改善命令等を発令することが、システム的な要因の改善のために実効的であると考える。また、個人の資質に起因する事故に対して行政処分を下す場合であっても、その内容は、再発防止のための実効的な教育と連動するものであることが不可欠である。
 以上のように、行政処分制度の運用が現状よりも大幅に改善されることを前提とした上で、地方委員会は、医道審議会に対し、調査結果を通知することとし、地方委員会による調査の結果、改善命令等を要すると評価される事案については、通知の際に改善命令の内容等に関する意見を付すこととすべきである(なお、通知された事案すべてに行政処分が下されることを求める見解ではないことを、念のため付言する)。
 また、地方委員会からの通知内容を適切に評価・検討することができるよう、医道審議会の組織を実効性ある体制に改善することが不可欠である。