医学は建築に追いつけるか?~鑑定への対応の違い

弁護士堀康司(常任理事)(2003年1月センターニュース178号情報センター日誌より)

建築訴訟と鑑定

  建築訴訟は医療過誤訴訟と同様に専門的知識を必要とする訴訟類型ですので、鑑定人確保については医療過誤訴訟と同様の問題を抱えています。最高裁は平成13年7月に建築関係訴訟委員会を設置し建築訴訟における鑑定人確保に乗り出しました。最高裁の動きにに対する建築界の反応は、医療と鑑定の問題を考える上で極めて示唆的です。

日本建築学会の取り組み

  日本建築学会では、建築関係訴訟委員会に呼応して、会長直属の組織である司法支援建築会議を設置しました。同会議には4つの部会が設置され、鑑定人候補者選定を担当する支援部会では「鑑定人・調停委員の選任に当たって中立性、公平性を維持して行くために、その選任基準を策定中」(司法支援建築会議会報2号p1)です。また調査研究部会では、1)建築紛争の調査分析、2)鑑定・調停事例の調査分析、3)裁判例の分析を目的として活動しており、「現在、東京地裁よりいただいた最近の資料の分析手法の検討を行っており、一方で学会推薦の調停委員、鑑定人アンケート調査の結果をとりまとめ中で、その一部は近日中に運営委員会に提出する予定」(前同)とされています。これらの情報は日本建築学会のウェブサイトで同会議の運営規定や会議登録会員名等とともに公開されています。

  このように建築訴訟の分野では、鑑定人推薦の母体となる団体が、社会に向けて積極的に活動状況を説明しており、推薦基準の策定や鑑定結果の分析検討といった取り組みも始めています。

医学界の動向は?

  現時点で日本医学会には司法支援建築会議に相当するような組織は設置されていません。各学会でも、日本脳神経外科学会日本集中治療医学会、日本癌治療学会等のように鑑定人候補者選定のための委員会等を立ち上げたところもあるようですが、まだまだ少数派ですし、既に委員会を設置した学会のウェブサイトを見る限りでは、日本建築学会ほど積極的に情報を発信しているとは言い難い状態です。

組織としての公的な対応を

  公的機関からの鑑定人推薦依頼に適正に対応するには、インフォーマルな処理ではなく、組織として説明責任を果たしうるだけの公的な対応が求められます。

  日本医学会長は「訴訟に関連して、公正中立の立場にたつべき鑑定人を選ぶにあたり、裁判所から日本医学会にその世話をするよう依頼があった。こうして次第に、日本医学会は以前よりもさらに「信ずるに足る団体」になりつつある。」(日本医学会だより27号p1)と述べていますが、建築界に後れを取ることなく「信ずるに足る団体」となりうるかどうか、今まさにその真価が問われています。