厚生労働省医療安全対策委員会
医療に係る事故事例情報の取扱に関する検討部会 御中
医療事故情報センター
理事長 弁護士 柴田義朗
〒461-0001 名古屋市東区泉1-1-35
ハイエスト久屋6階
tel 052-951-1731/fax 052-951-1732
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~貴部会報告書(案)に対する意見~
当センターは、平成15年3月11日に開催された貴部会にて配布された報告書案について、以下のとおり意見を述べます。
1 第三者機関による事故事例情報の収集、分析の実施について
国が第三者機関を設置して医療に係る事故事例情報を収集・分析することに賛同します。
2 事故事例情報の収集ルートについて
第三者機関が医療事故事例情報を収集するにあたって、医療機関からだけではなく、患者からの連絡を含めた幅広いルートから情報を受け入れるという方針に賛同します。
3 事故事例情報の報告義務について
現時点での緊急対策としては、まず一部の医療機関に対して、一定の重大な医療事故についての報告を義務づけるという方針に賛同します。
4 報告義務を課す範囲について(義務的報告の主体)
対象とする医療機関や医療事故の範囲については、特定機能病院に限定する必要はなく、より幅を広げるべきであると考えます。
当面は特定機能病院に義務づけることからスタートするとしても、順次、臨床研修指定病院等にも広げることとし、最終的には全医療機関が一定の重大な事故事例については、義務的に報告するという制度を確立するべきです。
5 報告を義務づける範囲の定義について(義務的報告の客体)
報告を義務づける範囲については、1)結果の重大性 2)医療行為起因性の2点から定義をすれば必要にして十分であり、「医療行為に起因して人に死亡または永続的な高度な障害が発生した事例」と定義すべきです。
※なお、医療行為に際しては、医療を担う医療従事者らも危険にさらされることがありえます。そのため、この場合の「人」とは、患者さんに限らず、医療行為によって医療従事者やその他の第三者に被害が及んだ場合も含むものとすべきです。
この点、本年3月11日に開催された貴部会では、報告を義務づける範囲を定義するにあたって、「明らかに間違った医療行為」「当該行為実施前に予期できなかったもの」という主観的な要素の混入した定義が叩き台として提案されています。
しかし「何を明らかな間違いと考えるか」「何を予期できたと考えるか」という点については、主観によって左右されるため、各医療機関毎に認識がまちまちとなる可能性が高く、事故報告制度の公平性を損ねる可能性をはらんでいます。
また「明らかに間違ったかどうか」「予期できたかどうか」というような点は、十分な調査分析を踏まえないと結論がでないことが多く、報告の迅速性の妨げになる恐れもあります。
それゆえ、「明らかに間違った医療行為」「当該行為実施前に予期できなかったもの」というような主観的要素を定義に加えることは不適当であり、1)結果の重大性+2)医療行為起因性という2点のみに着眼して明確な定義を行うべきと考えます。
なお、報告を義務づけるべき事故事例については、作為によるものと不作為によるものを区別すべき必然性はなく、結果が重大な事例であれば、作為型であろうと不作為型であろうと、義務的報告の対象とするべき必要性に違いはありません。したがって、不作為による医療行為に起因する事故事例についても一定の範囲で報告義務を課すべきです。
仮に、現時点では、不作為型の事故について定義することに困難性が認められる場合であっても、将来的には任意の事故事例報告の集積を通じて一定の類型化が可能となるはずです。したがって、制度の開始時点で、やむを得ず作為型を念頭において報告義務を課すという制度にならざるを得ない場合であっても、将来的には、作為型不作為型を問わず重大な事故事例についてはすべて報告義務を課す制度へと発展させるべく、今後も更なる検討を継続すべきです。
6 第三者機関の調査権限について
事故事例情報を分析して医療の安全につなげるためには、背景事情等をも含めた十分な情報が収集される必要がありますが、貴部会内でも意見が出ているとおり、十分な情報を収集することには多大な困難が伴います。
しかも現時点では、個別の医療機関には事故事例を調査して情報を収集・分析するだけのノウハウが蓄積されていませんので、個別医療機関の自発的調査に依拠するだけでは十分な情報が集積されないことは明らかです。
従って、少なくとも一定の重大な事故事例(結果の重大性と同種事故の頻発可能性から判断することになります)については、第三者機関に事故事例を個 別に調査する権限を付与することで、重大な事故の再発防止を当該医療機関任せにすることなく国を挙げて積極的に取り組む姿勢を示すことが必要です。
なお、第三者機関に調査権限を与えることは、第三者機関が率先して事故事例調査のノウハウを蓄積することになりますので、蓄積されたノウハウを各医療機関に伝達することによって、わが国の医療機関全体の調査能力の向上を図ることが可能となります。
7 第三者機関における事故事例情報の分析体制について
第三者機関は、収集した情報を迅速かつ有効に分析することのできる能力を備えるべきです。過去、医療の分野では、他の産業分野と比較して、事故事例情報を安全対策につなげるノウハウの積み上げが不十分であったという残念な歴史がありますので、医療関係者だけで固めた組織で調査・分析・検討を行うことは極めて非効率的かつ非合理的です。従って、第三者機関内で事故事例情報の調査・分析・検討にあたる担当者については、すでにさまざまなノウハウを積み上げてきた他産業分野の安全対策の専門家を多数登用し、医療界の外部にすでに存在するさまざまな叡智を、大胆かつ積極的に第三者機関へと導入するべきです。
また、第三者機関は、自ら積極的に情報分析にあたるだけでなく、医療関係の各種学会等の専門団体と連携し、それらの専門団体が自ら安全対策を策定・提案することを可能とする基礎資料等を提供するべきです。
特に、一定の専門分野において同種の重大事故が相次いでいるような場合には、その分野の専門団体に対して、第三者機関が検討作業の基礎となる資料を提供するとともに、期限を定めて安全対策を迅速に答申するよう強く勧告し、専門団体からの答申結果の合理性・適正性等についても厳密な事後評価を下すというような、外部と連携した勧告的・提案的活動についても、第三者機関は 精力的に取り組むべきです。
8 情報分析結果のフィードバックについて
同種事故の再発を防止するために、第三者機関が事故事例情報を分析した結果については、迅速かつ有効に、全医療機関に対してフィードバックされる仕組みを構築すべきです。特に深刻な被害が予想される事例や、再発可能性が高い事例などについては、いたずらに最終結果を待つだけではなく、検討中に置いても随時、警告的情報を発表することが望まれます(医薬品の安全性に関する情報提供のシステムと同種の仕組みが必要であると考えます)。
なお、少なくとも、実際に重大な被害が生じた事故事例や患者さんの側から提供された事故事例については、分析結果について、患者さんの側に個別のフィードバックがなされるべきです。
9 第三者機関の組織や予算措置等について
第三者機関が全国から収集した貴重な情報を十分に生かすためには、事故事例を調査し、情報を収集・分析して、医療の安全のための対策を迅速に提言することが必要です。そのためには、第三者機関に十分な予算と人員(最低でも年間数十億円規模、人員は数十名単位)を手当すべきです。
なお、第三者機関が真に中立的立場を維持することが可能となるように、第三者機関のポストが、いわゆる「天下り」によって占拠されることのないように、関係者の任用等については中立性維持と信頼性確保に最重点を置いた厳格な運営がなされるべきです。
10 まとめ
医療事故の被害者は、医療事故の再発防止を強く願っており、第三者機関による医療事故事例情報の収集・分析は永年望んできました。
当センターとしては、医療事故事例の収集・分析を行う第三者機関が早急に設置され、設置後も医療事故事例の十分な収集・分析がなされる制度に改革されるよう心より要望します。
また、医療事故の再発防止制度と被害者の救済制度は、いわば車の両輪です。実際に発生した被害者に対する救済を放置したままでは、再発防止のための政策について医療事故被害者をはじめとする国民の理解を得ることはできません。今回の報告書で提案されるシステムが、被害者救済につながるシステムへと発展するように、更なる検討を継続することを強く求めます。
以 上