『岐路に立つ医療過誤訴訟』~総会記念シンポジウムを開催

弁護士堀康司(常任理事)(2003年6月センターニュース183号情報センター日誌より)

鑑定人経験者や病院側弁護士を交えて開催

   平成15年5月24日、医療事故情報センター総会恒例のシンポジウムが愛知県産業貿易館で行われました。今年は『岐路に立つ医療過誤訴訟』と題し、ここ数年の医療過誤訴訟を巡る急激な変化の実情と今後の展望について、病院側弁護士や鑑定人経験者を交えて意見交換を行いました。

患者側の期待と危惧

  シンポでは、まず、鈴木利廣弁護士(東京)が、患者側代理人の視点から医療過誤集中部を中心とした実情を説明し、これまでの問題点が医学の側の封建的体質と司法の側の専門家依存体質に由来していたことを指摘した上で、集中部では既に相当の意識改革が進んでいることが紹介されました。

  患者側弁護士の間でも集中部に対する期待派と危惧派が混在する中、(1)裁判官の転勤等で一時的改革に留まることはないか?(2)集中部以外の裁判所はどう変化するのか?(3)審理標準化の動きの中で、個別事件の特殊性が切り捨てられないか?(4)経験を積んだ裁判官が職権主義化し、結論先取り傾向の下で両当事者の納得が軽視されないか?といった4点については、期待派を自認する鈴木弁護士としてもなお慎重な評価が必要と考えているとのことでした。

当事者の納得の大切さ

  つづいて金田朗弁護士(大阪)から、病院側代理人としての視点から、大阪での新審理方式の状況が紹介された上で、4つの大学医学部との間で構成されている関西の地域ネットワークについて基盤をより広げるべき必要性があることや、集中部裁判官が集積した知識を事件間で流用することについては原理原則(弁論主義)との関係で危うさもあると感じていることが述べられました。

  また、金田弁護士からは、病院側としても、医療現場で不足していたインフォームドコンセントを訴訟の場を借りてもう一度やり直しているという意識で訴訟を担当しており、専門化する裁判所の側でも独りよがりに陥ることなく患者や家族が納得できる解決をめざすことが大切であることが指摘されました。

医療の側には自衛の動きも?

  また、我妻堯尭医師(国際厚生事業団)からは、実際の鑑定経験を踏まえて、近時の鑑定人に対する配慮の変化が紹介された上で、根強く残る医療界の封建性が鑑定内容を歪めてきたという問題点が指摘されました。

  我妻医師からは、日米の分娩環境の違いを踏まえないまま低酸素性虚血性脳症に関する米国産婦人科学会の委員会意見が引用されること等々例に挙げながら、産婦人科分野の訴訟防衛的な動向が紹介され、最後に産科事故防止に向けての具体的な提言をもいただきました。

社会の強い関心~会場は市民でほぼ満席

  以上のパネラーからの発言の後、名古屋、長野等の状況やカンファレンス方式の鑑定の評価なども含め、最後まで活発な意見交換がなされました。

  必ずしも市民向けのテーマ設定ではなかったにも関わらず、会場は多数の一般参加者でほぼ満席状態となり、報道機関3社がTV取材に来訪するなど、医療過誤裁判に対する社会の関心の強さを改めて感じたシンポとなりました。

  なお、今回は事前に各地の集中部裁判官に対してもパネラーとしての参加を呼びかけたのですが、諸般の事情で実現には至らず、その点が大変心残りでした。今後も裁判所には積極的な参加を呼びかけていきたいと考えています。