「機器誤作動」をなぜ除外?~事故報告範囲検討委員会の結論の不可思議 

弁護士堀康司(常任理事)(2004年1月センターニュース190号情報センター日誌より)

検討委員会が出した結論

  昨年12月9日、厚労省の事故報告範囲検討委員会は、医療機関に報告を求める事故事例の範囲についての検討結果を発表しました。

 <報告を求める範囲>

1 明らかに誤った医療行為や管理上の問題により、患者が死亡若しくは患者に障害が残った事例、

  あるいは濃厚な処置や治療を要した事例

2 明らかに誤った行為は認められないが、医療行為や管理上の問題により、予期しない形で、患者

  が死亡若しくは患者に障害が残った事例、あるいは濃厚な処置や治療を要した事例

3 その他、患者の重症度の軽重を問わず、医療現場に対する警鐘的意義が大きいと考えられる事

  例

※ 報告対象外:医療行為や管理上の問題とは何ら関係もなく予期せぬ結果となった場合

  例)・疾患の自然経過にともなう事例

    ・治療を行っていた疾患とは別の疾患の発症(心筋梗塞等)

    ・薬剤による副作用・アナフィラキシーショックや医療機器の誤作動による事例等

不作為型も報告範囲へ

  医療事故情報センターは平成15年3月に提出した意見書において、「結果が重大な事例であれば、作為型であろうと不作為型であろうと、義務的報告の対象とするべき」と主張してきましたが、今回の検討結果では「管理上の問題には、療養環境の問題の他に医療行為を行わなかったことに起因するもの等も含まれる。」と付記されていますので、この点は一歩前進したと評価できます。

「予期」の有無での区別は必要か?

 他方、私たちは、報告範囲は 1)結果の重大性 2)医療行為起因性の2点から定義すれば必要にして十分であり、「明らかに間違った医療行為」「当該行為実施前に予期できなかったもの」というようなあいまいな判断要素を混入させるべきではないと主張してきました。

  その観点からすると、今回、明らかな過失が認められない事故についても報告対象としたことや、警鐘的意義の大きい事例をも報告対象としたことは、当初より一歩踏み込んだものとして評価に値すると言えそうです。

  しかしながら上記範囲2において「予期しない形で」との要件が盛り込まれたために、なおも著しい曖昧さが残されたままとなっています。

薬剤副作用や医療機器誤動作も報告させるべき

 また、報告除外の例示として、「疾患の自然経過に伴う事例」などの他に「薬剤による副作用・アナフィラキシーショック」「医療機器の誤作動によるもの等」が挙げられていますが、これらを除外するべき理由はありません。

  確かに医療機関には、平成15年改正薬事法77条の4の2により厚労大臣に対する医薬品・医療用具副作用事故報告義務が別途課せられていますので、今回の除外例示によって薬剤や医療機器に起因する事故の報告そのものが不要となるわけではありません。

  しかし、医療現場における事故情報は、一元的に集約されてこそ、総合的な安全対策に資するはずです。今回の検討結果によれば事故報告は第三者機関(日本医療機能評価機構)宛てになされることが予定されていますが、薬事法上の報告は厚生労働省医薬局長通知(医薬発第0515014号)によって厚生労働省医薬局安全対策課宛になされることとされていますので、事故情報の分散化が強く危惧されます。

  更にいえば、薬剤や医療機器に由来する事故であれば、同種の物品が他医療機関にて使用されている蓋然性が高いため、ほとんど常に「医療現場に対する警鐘的意義が大きい」はずですので、除外例とするのは全く不適切です。

平成16年度からの運用に向けて

 今回の検討結果に基づく事故報告制度は、省令を改正の上、来年度から運用開始される予定となっています。総合的な医療安全対策を検討するために必要な基礎データのすべてが第三者機関に集約されるよう、あらためて報告範囲の定義からあいまいな要素を排した上で、報告除外範囲の例示についても早急に再検討することが求められます。