国の危機感は実を結ぶか?~厚生労働大臣医療事故対策緊急アピール

弁護士堀康司(常任理事)(2004年2月センターニュース191号情報センター日誌より)

坂口厚労大臣が異例のアピールを発表

  平成15年12月24日、坂口厚労大臣により「厚生労働大臣医療事故対策緊急アピール」が発表されました。

  このアピールは「医療事故が話題にのぼらない日がない程、最近、医療事故が相次いでおり、さらには医療事故に起因して医師が逮捕される等、あってはならない事件も起こっております。」との認識の下に、「この様な状況が続けば国民の医療に対する信頼が大きく揺らぎ、取りかえしのつかぬ事態に陥るのではないか」と強い危機感に基づいて、全国の医療関係者に安全管理対策の更なる推進を呼び掛けるとともに、厚労大臣が省内担当部局に対し、「人」「施設」「もの」の三つの柱を立てて安全対策の推進・強化を強く指示したことを明らかにした内容となっており、国の強い危機感を異例の形で国民に示したものと言えます。

行政処分だけではなく、再教育制度も視野に

  このアピールでは、まず「人」に関する対策として、臨床研修や生涯教育の充実、刑事事件とならなかった医療過誤等に対する医師法上の処分強化に加えて、処分を受けた医師らに対する再教育制度をも検討するとの方針が示されました。

  平成14年12月13日に医道審議会医道分科会が発表した「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」では行政処分の強化のみが強調されていましたが、単に処分を強化するだけでは再発防止は実現できませんので、再教育制度への言及はこれまでの対策からさらに一歩踏み込んだ動きとして、好意的に評価できそうです。

手術ビデオを患者に提供

  また「施設」に関する対策としては、第三者機関による事故事例情報の収集・分析・提供等と並んで「手術の画像記録を患者に提供することによって、手術室の透明性の向上を図る」との大胆な方針が打ち出されました。

  手術ビデオの提供については医療従事者の間でも賛否両論の大きな反響が広がっている様子ですが、医療の側から率先して、密室性の高い領域の透明性を実現しようとする姿勢が示されたことは、医療に対する信頼回復に大きく寄与するものと思われます。

患者参加の推進、輸血部縮小に対する警鐘も

  医薬品・医療機器・情報等の「もの」に関する対策としては、 患者自身がバーコードリーダーを所持して自ら薬や検査の確認をするというような例を挙げられています。患者も安全管理に参加するという視点が示されたところに、今回のアピールの新規性がうかがわれます。

  また、相変わらず発生し続ける輸血事故に対しては、特定機能病院等における輸血部門の強化といった対策が打ち出されています。これは国立大学病院の合理化策として輸血部や検査部等の中央管理部門が廃止・縮小される動き(参照:センターニュース172号ドクターインタビュー「輸血の安全を担って」柴田洋一医師)に対し、厚労大臣自らが強い警鐘を鳴らしたものと理解されます。

実行こそが信頼回復への道

  このように今回の緊急アピールは、これまでになく踏み込んだ提言となっています。今後はこの提言の実現の有無で、国としての「本気度」が問われることとなります。