行政独自の処分は見送り~医道審が行政処分を答申

弁護士堀康司(常任理事)(2004年3月センターニュース192号情報センター日誌より)

答申傾向に変化なし

  2月3日、医道審議会医道分科会は医師・歯科医師合計34名の行政処分を答申しました。しかしながら今回の答申も従来どおり刑事事件の処分を後追いしたものにとどまり、行政処分としての独自性は発揮されませんでした。

「不誠実な事後対応」への視線の欠如

  報じられたところによると、今後の処分対象者の選定基準の議論の中では、1)いわゆるリピーター、2)リピーター以外でも、患者が死亡するなど結果が重大な場合、3)医事に関する重大な不正があった場合、の3点が指摘されたとのことです。

  しかし、上記基準では、事故そのものの態様について触れられてはいますが、事故後の対応の適否については触れられていません。

  医療被害者は事故後の不誠実な対応について強い怒りを覚えています。医療事故市民オンブズマンが昨年12月にまとめた調査によれば、法的行動をとった医療事故被害者のうち、75.2%の方が「事故後の病院側の態度が許せなかった」ことを法的行動を選択した理由(複数回答)に挙げています。同じ事故を起こした場合でも、すぐに被害者側に事実を適切に報告した事案とそうでない事案とでは、処分の内容に差異を設けるべきですし、そうすることが「事実を知りたい」という被害者の願いをかなえる制度設計につながるはずです。

被害申立てはたなざらし状態

  同分科会では、報道事例や国民からの申立て等によって処分対象者に関する情報を得るとしています。

  国民からの申立ての対応窓口としては昨年7月に医師資質向上対策室が設置されましたが、すでに寄せられた多数の申立てについては、被害者側からの詳細な事情聴取を行うこともなく、形ばかりの報告を医療機関に求めただけで事実上たなざらしにされているというのが実態です。この状態を解消するには正確な事実関係を素早く行政が把握する仕組みが不可欠ですが、そのためには、被害者に対して正直かつ詳細に事後報告した医療機関以外は淘汰されるという仕組みが必要となります。

慈恵医大青戸病院事件が試金石に

  今回の審議結果からすると、刑事事件を後追いしない行政処分の第1例目は慈恵医大青戸病院事件となりそうですが、この事件では病院長らによって「ご遺族が不満を持たれても、また医療についての大きな不信感を抱かれても仕方のない報告、説明」(同大学事故調査委員会報告)がなされたとされています。

  今後の答申が、手術担当者の処分に終始して病院管理者の事後対応の是非をも問うものとならなかった場合には「行政は不誠実な事後対応を黙認した」と非難されてもやむを得ないのではないでしょうか。