「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのための ガイドライン(案)」についての意見

041130 「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイド
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厚生労働省医政局総務課 御中

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医療事故情報センター
理 事 長  柴田 義朗

 当センターは、医療過誤訴訟の患者側代理人として活動する全国の弁護士577名(本日現在)が正会員として加盟する団体です。

 当センターは、1990(平成2)年の発足以後10年以上にわたって、医療における人権確立、医療制度の改善、診療レベルの向上、医療事故の再発防止、医療被害者の救済等のため、医療事故に関する情報を集め、とりわけ医療過誤裁判を患者側で担当する弁護士のための便宜を図り、弁護士相互の連絡を密にし、各地の協力医を含むヒューマン・ネットワークづくりを通して、医療過誤裁判の困難な壁を克服することを目的として、積極的な活動を展開しています(沿革や活動内容等は当センターホームページ http://www3.ocn.ne.jp/~mmic/ をご覧下さい)。

 当センターは、「医療機関等における個人情報のあり方に関する検討会」において策定された頭書ガイドライン案に対し、以下のとおり意見を述べます。

第1 意見の趣旨

1 医療機関が保有する患者の個人情報の取扱いや患者やその遺族に対する診療情報の提供のあり方については、患者の自己決定権や患者やその遺族のプライバシー権、知る権利を明確かつ十全に保障するという見地から、法的拘束力のないガイドラインという形式ではなく、個別的な法律制定がなされるべきである。

2 ガイドライン案が、個人情報保護法25条1項1号に該当し、医療機関等が患者に対し保有する診療情報を開示しないことができる場合として挙げる具体的事例は、いずれも、患者本人の自己決定権や知る権利に照らし、医療機関が患者本人に対し診療情報を開示すべき事例であり、ガイドライン案は診療情報を開示しないことができる場合を広く認めすぎていて相当でない。

3 個人情報取扱事業者が医療機関である場合、個人情報保護法25条1項2号にいう「当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある」ことを理由にして診療情報を開示しないことができる余地がない旨、ガイドライン上も明確にすべきである。

第2 意見の理由

1(1) すべて人は、その人格を尊重され、健康に生きる権利を有する。
 そして、患者は、どの様な治療をうけるか、受けないのか、どの医療機関で受けるのか、などを自分自身で決定するため、健康を回復、維持又は増進するため、医療機関から自己の診療に関する正しい情報の提供を受ける権利を有する。

 また、患者が上記のとおり自己の診療に関する情報を受ける権利を有することの帰結として、患者の遺族も、患者が、いかなる病状で、いかなる医療行為を受け、いかなる原因で死亡したかの情報提供を受ける権利を有する。遺伝性疾患や感染性疾患など疾患によっては、遺族にも固有に知る権利が認められる。
 他方、患者の病状や診療に関する情報は、これをみだりに第三者に開示されてはならず、高度の保護が必要であることは言うまでもない。

 このように、患者の自己決定権、自己情報のコントロールというプライバシー権の見地や知る権利の見地から、医療に関する個人情報については特に高度の保護が必要であり、個人情報保護法成立時の衆参両議院の附帯決議においても、医療に関わる分野については、国民から高いレベルでの個人情報の保護が求められているとし、政府に対し、個別法の制定について早急な検討を行うよう要請しているところである。

 (2) 平成17年4月から施行される個人情報保護法では、保護される対象の個人情報が「生存する個人に関する情報」に限定されていることや、規制対象となる「個人情報取扱事業者」から、取り扱う個人情報にかかる個人の数が過去6ヶ月のいずれの日においても5000を超えない業者が除外されていることなど、医療機関が保有する患者の個人情報の取扱いや患者やその遺族に対する診療情報の提供のあり方について、上述のような患者の自己決定権や患者やその遺族のプライバシー権、知る権利を明確かつ十全に保障したものとは到底言えない。

 (3) この度策定されたガイドライン案は、取り扱う個人情報の数が5000件未満の小規模事業者に対してもガイドラインの遵守努力を求めてはいるが、ガイドラインには、法的拘束力はない。患者が死亡した場合、遺族に対する診療情報提供についても、平成15年9月に策定されたガイドラインである「診療情報の提供等に関する指針」に委ねるに止まるため、同様に、法的拘束力はないことになる。これらは、いずれも法律上の義務として明確に位置づけられなければならない。

 (4) 患者 の自己決定権や患者や その遺族のプライバシー権、知る権利を明確かつ十全に保障するという見地から、速やかにこれらを統括した医療機関における個人情報の取り扱いについての個別法を制定 されたく、意見の趣旨記載1のとおり意見を述べる次第である。

2 ガイドライン案では、個人情報保護法25条1項1号に該当し、医療機関等が患者に対し保有する診療情報を開示しないことができる場合として、次の具体的事例を挙げている。

(事例1)
・患者・利用者の状況等について、家族や患者・利用者の関係者が医療・介護サービス従事者に情報提供を行っている場合に、これらの者の同意を得ずに患者・利用者自身に当該情報を提供することにより、患者・利用者と家族や患者・利用者の関係者との人間関係が悪化するなど、これらの者の利益を害するおそれがある場合

(事例2)
・症状や予後、治療経過等について患者に対して十分な説明をしても、患者本人に重大な心理的影響を与え、その後の治療経過等に悪影響を及ぼす場合
 ところで、前記「診療情報の提供等に関する指針」も、開示の例外として、①診療情報の提供が第三者の利益を害するおそれがあるとき、②診療情報の提供が患者本人の心身の状況を著しく損なうおそれがあるとき、の2つを挙げ、①の具体例として上記(事例1)の場合を、②の具体例として上記(事例2)を挙げている。

 しかし、そもそも、前述のような患者の自己決定権、医療機関から自己の診療に関する正しい情報の提供を受ける権利の重要性に照らせば、医療機関が患者に対しその診療情報を開示しないことができる例外的場合は、開示によって第三者のプライバシーが侵害される場合に限定されるべきであり、患者と家族との人間関係が悪化するおそれがあるとか、患者本人に重大な心理的影響を与えるおそれがあるといった理由によって、医療機関が安易に患者の自己決定権や知る権利を制限することは許されるべきでない。
 ガイドライン案も、上記「診療情報の提供等に関する指針」も、開示しないことができる例外の範囲が広汎に過ぎるのであり、意見の趣旨記載2のとおり意見を述べる次第である。

3 個人情報保護法25条1項2号は、「当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合」には、個人情報取扱事業者が本人から保有個人データの開示を求められても、その全部又は一部を開示しないことができるとしている。

 しかしながら、医療機関が患者から診療情報の開示を求められた場合にそれを開示することは、医療機関にとって診療契約上の債務を履行するもので「業務」そのものであり、前述のような患者の自己決定権や知る権利を全うさせるという点から「業務の適正な実施」に不可欠である。

 したがって、個人情報取扱事業者が医療機関である場合に、患者から診療情報の開示を求められたにもかかわらず、個人情報保護法25条1項2号にいう「当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある」ことを理由に診療情報を開示しないことができるという余地はないと解されるのであり、この旨は、ガイドライン上も明確にすべきである。

以 上