産婦の内診を看護師に任せる違法な業務慣行は早急に改善を

弁護士堀康司(常任理事)(2005年1月センターニュース202号情報センター日誌より)

国に申入書を提出

  平成16年11月18日、医療事故情報センターは、厚生労働大臣に宛てて「保健師助産師看護師法の遵守徹底に関する申入書」を提出しました。

  この申入書を提出した経緯は次のとおりです。

厚労省通知の撤回を求めた日本産婦人科医会

  平成16年9月13日に発せられた厚労省医政局看護課長通知は、「産婦に対して、子宮口の開大、児頭の下降度等の確認及び分娩進行の状況把握を目的として内診を行うこと(但し、その際の正常範囲からの逸脱の有無を判断することを行わない)」は「診療の補助」(保健師助産師看護師法5条)には該当せず、「助産」(同法3条)に該当するとの判断を示しました。

  これに対し、日本産婦人科医会は、同年10月8日、厚労省医政局長宛に要望書を提出し、同通知の撤回を求めました。

  同医会の要望書は、看護師による助産行為が広く行われているという違法な実態を追認せよと迫る趣旨のものですので、当センターは、上記の申入書を国に提出し、違法な業務慣行の実態を早急に調査の上で、産科関係者に対してこうした業務慣行を改めるよう強く指導せよと申し入れました。

厚労省担当者との意見交換

  申し入れの後、同年12月1日には厚労省担当者(看護課長補佐ら)と面談して意見交換をし厚労省としては、1)看護師による産婦内診は違法であると認識しており同通知の撤回は考えていない、2)同医会の要望書によって、看護師による産婦内診が広く行われていることをはじめて知るに至った、3)助産師の数自体は足りているので、日本看護協会を通じて就職あっせんの促進を図っている、との説明でした。

  厚労省担当者によれば、同医会には口頭で通知を撤回しない旨を伝えたが、同医会は要望書に記載した見解を改めておらず平行線のままであったそうです。そうであれば、厚労省は、違法な業務慣行が存在することも、看護師による産婦内診を禁じた通知が開業医らに周知徹底されていないことも認識しているわけですから、早急に実態を調査の上で、通知の趣旨を産科の現場に徹底させるために強く指導をすべきです。しかし厚労省担当者は、同医会に対しても折に触れて指導しますと繰り返すだけで、助産師の就職あっせん促進以外の具体的な対応策の説明はありませんでした。

医会要望書はHPから削除

  なお、ホームページに掲載されていた同医会の要望書は、当センターが国に対して申入書を提出する直前に削除されてしまいました(※2005年1月5日現在の状況に基づく)。「母子の生命健康を保護する」(同医会定款第4条)ことを目的とする社団法人の説明責任のあり方として、極めて残念な対応であると感じています。

分娩の安全の実現はいつになる?

  このままでは、今回表面化した違法な業務慣行は事実上温存されかねません。助産のトレーニングを受けている有資格者は医師と助産師だけです。このまま看護師が内診等の助産行為を続けることになれば、いつまでたっても安全な分娩は実現しませんし、助産行為をさせられる看護師の側の不幸も続きます。国は早急に実態を調査し、違法な業務慣行を一掃するよう指導を行うべきです。