不当な開示拒否がなされないよう監視を!-個人情報保護法による診療情報開示-

弁護士園田理(常任理事)(2005年2月センターニュース203号情報センター日誌より)

個人情報保護法による診療情報開示

  個人情報保護法が本年4月から施行されます。個人情報取扱事業者が本人から当該本人が識別される保有個人データの開示を求められたときには、遅滞なく書面の交付等の方法により当該保有個人データを開示すべき義務を負うことになります。この個人情報取扱事業者には多くの医療機関が含まれ、保有個人データには患者の診療情報が含まれますので、多くの場合、患者が医療機関に対し自己の診療情報の開示を求める法的権利が認められることになります。

限界・問題点-個別法制定の必要性-

   ただ、同法による診療情報開示には、いくつかの限界あるいは問題点があります。

  第1に、保護の対象たる個人情報が「生存する」個人に関するものに限定され、亡くなった患者の診療情報はこれに含まれません。

  第2に、義務付けられる個人情報取扱業者から、取扱個人情報数が過去6ヶ月のいずれの日においても5,000を超えない業者が除外されており、この除外要件に該当する医療機関は法的義務を負いません。

  第3に、開示により本人又は第三者の権利利益を害するおそれがある場合(法25条1項1号)や当該業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合(同2号)には、全部又は一部を開示しなくてもよいとされており、これらを理由に医療機関より開示を不当に拒まれるおそれがあります。

  このように個人情報保護法による診療情報開示では、患者の自己決定権や、患者や遺族のプライバシー権・知る権利の保障という観点から、明らかに不十分です。同法成立時の衆参両議院の附帯決議でも、医療に関わる分野は国民から高いレベルでの個人情報保護が求められているとして、政府に対し個別法制定の早急な検討を要請しており、弊センターも、厚生労働省宛に、去る平成16年11月30日付けで個別法の制定等を求める意見書を提出したところでした。

個別法制定は当面見送りに

  ところが、厚労省内の検討会では、12月24日付けで「医療分野の個人情報については、…現段階においては、…個別法がなければ十分な保護を図ることができないという状況には必ずしもないと思われる」との取りまとめがなされてしまいました。非常に残念です。

  同検討会では同日付けで「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」も策定されました。その中で、・亡くなった患者の診療情報開示についても生存患者に対すると同様に遺族に対し行う、・取扱個人情報数が5,000以下の医療機関に対しても個人情報保護法上の義務を遵守するよう努力を求める、とされてはいますが、法的拘束力はありません。やはり、今後も粘り強く個別法制定を求めていく必要があります。

不当な運用の監視を

  また、上記ガイドラインでは、診療情報開示をしなくてもよいとされる、開示により本人又は第三者の権利利益を害するおそれがある場合の具体例として、患者と家族との人間関係が悪化するおそれがある場合や患者本人に重大な心理的影響を与えるおそれがある場合を挙げています。かかる場合に開示しなくてもよいとするのは、患者の自己決定権、プライバシー権や知る権利に基づく重要な利益が医療機関の安易な判断で制限されるのを容認するもので不当というべきです。上記のような理由で診療情報開示が不当に拒まれることのないよう不断に監視していくことが必要だと思います。