迅速化検証データから見えてきた医療過誤訴訟の姿 

弁護士堀康司(常任理事)(2005年9月センターニュース210号情報センター日誌より)

公表された迅速化検証報告書

 平成17年7月15日、最高裁判所は「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」を公表しました。この報告書は、平成15年に「裁判の迅速化に関する法律」が施行された後の審理期間を検証したものです。この中では、専門的知見を要する類型の一つとして医療過誤訴訟も検証対象とされており、平成16年4月から12月までの9ヶ月間に全地方裁判所で第1審が終局した医療過誤事件(719件)について様々な分析が加えられています。

  今回公表された資料からは、これまでの統計では明らかではなかった医療過誤訴訟の姿が浮かび上がってきます。

7件に1件は単独審理

  検証の対象とされた719件の医療過誤訴訟のうち、裁判官3名の合議で審理されたものは606件で、単独の裁判官によって審理されたものは113件でした。およそ7件につき1件が単独事件として審理されていることになりますので、合議事件が大半ではあるものの、単独事件も相当数にのぼることが明らかとなりました。

単独審理はどうして早い?

  平均審理期間については、合議事件が29.4ヶ月、単独事件が15.2ヶ月となっており、単独事件の方が1年以上短いことがわかります。

  規模の大きい裁判所(特に医療集中部が設置されている裁判所)では、ほぼ全件が合議で審理されているはずですので、113件の単独事件は、地裁支部等の小規模裁判所の事件が大半と思われます。こうした小規模裁判所では専門訴訟への対応体制が相対的に整っていないはずで、審理が長期化しているのではないかという印象を受けますが、統計的には逆の数字が出ています。

  事案の難易度が低いものだけが単独審理に割り振られている可能性もありますが、各地の医療集中部の平均審理期間でさえ1年半前後を要していることや、訴訟の初期の時点で難易度を判断して単独・合議の振り分けをすることの困難性等を考えると、小規模裁判所では十分な審理期間を確保しないまま訴訟が終結している可能性も否定できませんので、これまであまり注目されてこなかった単独事件の実情について検証の必要がありそうです。

鑑定実施率は2割超、集中部との差は顕著

  鑑定実施事件は719件中161件(22.4%)で、実施事件の平均審理期間は52.2ヶ月でした。非実施事件は558件(77.6%)で同19.9ヶ月となっていますので、鑑定が訴訟長期化の重要な要因であることがあらためて浮き彫りとなりました。

  このように2割を超す訴訟で鑑定が実施されていますが、東京地裁医療集中部における鑑定実施率が4~7%程度(「医療訴訟の現場から」東京弁護士会LIBRA Vol.4 No.3 p3,2004年3月)とされているとおり、各地の医療集中部の鑑定実施率は極めて低くなっていますので、全国的には十分に必要性を吟味しないまま鑑定が実施されている可能性があります。

専門委員関与は6件、短期終局傾向顕著

  専門委員が関与した事件は719件中6件(0.8%)で、平均審理期間は12.0ヶ月となっています(専門委員非関与事件は713件、同27.2ヶ月)。

  実数が少ないので今後の推移を確認する必要がありますが、専門委員関与事件は著しく短期間で終了する傾向にあるようです。本来証拠とはなりえない専門委員の「説明」による事実上の心証形成を経て早期終結している可能性の有無についても、引き続き検証が必要と思われます。