医療過誤に対する行政処分の動向-民事訴訟判決に基づく処分数は増えず-

弁護士園田理(常任理事)(2006年4月センターニュース217号情報センター日誌より)

行政処分数が過去最多

  平成18年3月1日、厚生労働省により、医師34名、歯科医師24名、計58名に対する行政処分が発表されました。平成17年7月に発表された医師27名、歯科医師6名、計33名に対する行政処分と合わせ、平成17年度中に合計91名の医師・歯科医師に対し行政処分がなされたことになり、過去最多とのことです。

 ただ、報道によれば、厚労省は、このような行政処分増加の要因について平成16年以降法務省から判決結果の情報提供を受けられるようになったため処分漏れがなくなったことにあると分析しているようで、実際、発表された処分理由を見ても、多くが、医療行為と関係なく犯罪を犯し刑事事件の有罪判決を受けた事例であることが窺われます。

民事訴訟判決に基づく処分

  既に本欄でもご紹介しているとおり、平成14年12月に、医道審議会医道分科会で、刑事責任を問われなかった医療過誤についても、明白な注意義務違反が認められる場合などは、行政処分の対象とするとの方針が打ち出されていますが、今回の58名のうち刑事責任を問われなかった医療過誤について処分がなされたのは、わずか1名のみでした。旧富士見産婦人科医院の医師らに対する行政処分に続く2例目とのことで、具体的には、美容外科の医師が、全身麻酔下で豊胸手術を行った際、麻酔管理を十分行わなかった過失により患者を植物状態に至らしめたと民事訴訟判決(東京地方裁判所平成15年11月28日判決)で認定され、医療過誤を犯した後、医師が診療録や麻酔記録に虚偽記載をなしたとの認定も同判決でなされた事例でした。

棚ざらし状態が継続

  最高裁公表の統計データで、医事関係訴訟で一部認容も含めた認容判決は、平成16年は、年間約160件なされている計算になります(判決数は年405件、認容率は39.5%)。このように医療過誤が民事訴訟判決で認められた数からすると、平成14年12月に前記のような方針が打ち出されてから3年余り経過してようやく2例目というのは、やはり明らかに少ないと言えます。厚労省では患者から行政処分を求められた事例の多くに調査の手がついていない状態が続いているようです。

行政処分の動向には今後も注目

   国民の医療に対する信頼を確保し、適切な医療提供を期するという医師に対する行政処分制度の趣旨に照らし、少なくとも患者から行政処分を求める申立てがあった事例については、医療過誤の原因について迅速かつ的確な調査を行った上、当該医師に対する行政処分の要否について適切な結論を導き出す必要があります。

  報道によれば、厚労省は今国会で医師法などを改正し、これまで任意で行ってきた医師からの事情聴取やカルテなどの提出、医療機関への立入りなどを強制的にできるようにし、平成19年度から担当職員も増員して抜本的な体制整備に乗り出すとのこと。今後も行政処分の動向には注目していきたいと思います。