事故報告制度、平成17年の概況

弁護士堀康司(常任理事)(2006年5月センターニュース218号情報センター日誌より)

  日本医療機能評価機構は、本年3月、医療事故情報収集等事業第4回報告書を公表しました。この報告書では平成17年の1年間の集計結果が紹介されています。

任意参加は頭打ち?

  同事業では、法的報告義務の対象とされた施設と、任意に参加登録申請した施設の双方から事故報告を受けています。平成17年末時点で、前者は272施設、後者は283施設です。平成16年末以後の1年間であらたに43施設が参加登録していますが、新規登録件数は1月~4月に集中していますので、昨年前半までに任意参加施設数はほぼ頭打ちとなったようです。

施設間の温度差

 平成17年の報告件数は合計で1,265件でした。うち1,114件は報告義務対象施設からのものですので、任意参加の施設に報告を求めることの難しさがうかがわれます。

  また、報告義務対象施設でも、33施設からは年間10件以上の報告がなされている反面、96施設では1年間で報告が0件となっています。行った医療又は管理によって予期せぬ処置が必要となった事案については、過誤が明らかでなくとも報告の対象とされていますので、報告義務対象施設の約1/3で報告なしという結果からは、報告制度に対する施設間の温度差が強く感じられます。

死亡事例は143件

  報告義務を負う医療機関からの1,114件の報告中、死亡事故は143件、障害残存可能性が高度な事故は159件でした。死亡143件の概要別内訳は、治療・処置によるもの48件、療養上の世話によるもの18件、医療用具等によるもの11件等となっていますが、その他として50件が報告されており、死亡事故の多様性がうかがわれます。

警鐘事例の公表は6件に

  評価機構は、これまでに「共有すべき医療事故情報」を6例公表しています。

  薬剤に関連する事例としては、1)タキソールとタキソテールの取り違え、2)DIC治療の際の、高濃度のメシル酸ガベキサートの末梢静脈点滴による皮膚壊死・潰瘍形成(添付文書違反)、3)抗リウマチ薬メトトレキサート投与中の白血球減少による感染死(検査頻度不足)や、同剤の過量投与(以上第3回報告書)、4)インスリン投与準備に際して量を誤った例(看護師の知識・経験不足)(第4回報告書)が指摘されています。

  医療機器に関連する事例としては、5)心臓カテーテル穿刺部位の止血用デバイスに空気を注入して圧迫止血する際に、誤って動脈に挿入したシースに空気を入れて空気塞栓を生じたケースが紹介されています(第3回報告書)。

  医療処置に関連する事例としては、6)トイレにおける立位でのグリセリン浣腸による腸管穿孔が6件報告されたことが警告されており、うち2件について訪問調査が実施されています(第3回報告書)。

進む事例分析

  同事業では、現在、1)手術等による異物残存、2)医療機器の使用に関する事故、3)薬剤に関連した事故、4)医療処置に関連した事故を、重点分野に指定して分析中ですが、第4回報告書では、1)についての詳細な分析結果がレポートされています。

  平成17年4月以降、11件の訪問調査が行われているようですので、今後も具体的事例に着目した提言の継続が期待されます。