「ハーバード版謝罪マニュアル」を読み解く

弁護士堀康司(常任理事)(2007年1月センターニュース226号情報センター日誌より)

邦訳が完成

  本年11月、東京大学医療政策人材養成講座の有志が、ハーバード大学関連病院16施設が使用する、医療事故時の対応についての合意文書の邦訳を発表しました。「医療事故:真実説明・謝罪マニュアル~本当のことを話して、謝りましょう」との邦題が付されたこのマニュアルは、以下のサイトで全文が紹介されています。

■真実説明・謝罪普及プロジェクト

 http://www.stop-medical-accident.net/

マニュアルの構成

  内容は3部構成となっており、第1部では事故が起きた際の患者とのコミュニケーションにおいて配慮すべき点が非常に実践的に解説されています。第2部では事故の当事者となった医療従事者への支援の方法と事前の教育に関する点が述べられています。第3部では医療機関が医療事故を管理する上で必要となる理念と初期対応、さらには事故調査の手法等についてまとめられています。

全院的コンセンサスの大切さ

  ここで指摘されている点は、ある意味、当たり前のことばかりとも言えます。しかし、医療事故の相談を受けていると、事後説明が全くなされていなかったり、当初の説明内容が医学的に不合理であることが後日判明するようなケースに遭遇することがあります。また、大切な説明を立ち話で伝える、代理人間で話し合っている最中に医事課から直接遺族に対して医療費の支払が督促される等の不適切な対応を見聞きすることもあります。当たり前のことを1つ1つきちんと実施している医療機関は、まだまだそれほど多くないというのが実感です。

  このマニュアルの原題「A Consensus Statement of the Harvard Hospitals」からは、事故に適切に対処するためには、単にマニュアルが存在したり、リスクマネージャーが事故対応の技術を熟知しているだけではなく、病院全体としてのコンセンサスを形成している必要があることを強く感じました。

あるべき対応を引き出すための資料として

  病院がなすべきことと、事故に遭遇した患者の側が求めることとは、表裏一体の関係にあります。このマニュアルは、患者の側においても、事故後に病院から適切な扱いを得られているのかどうか、次に病院に何を求めればよいのか等を考える上でのわかりやすい指針として利用が可能です。マニュアルには携帯・掲示用のエッセンス版(全2ページ)が用意されており、要点が簡潔にまとめられていますので、エッセンス版を見るだけでも、本来あるべき対応がどのようなものかをイメージできると思います。

日本での定着を

  今回の邦訳を読んで、「本当のことを話して謝る」ことが世界のスタンダードであることをあらためて感じました。日本においても、この邦訳を手がかりとして、同様のコンセンサスの形成が進むことを期待したいと思います。