真に患者のための制度を-「産科医療における無過失補償 制度」に関する意見書を提出-

弁護士園田理(常任理事)(2007年2月センターニュース227号情報センター日誌より)

意見書を自民党検討会に提出

  医療事故情報センターは、昨年12月27日、自民党医療紛争処理のあり方検討会に宛てて「産科医療における無過失補償制度」に関する意見書を提出しました。

意見書提出の経緯

  日本医師会は、昨年8月に「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度」を制度化するための原案(日医原案)を取りまとめ、これを平成19年度予算の概算要求に対する要望として厚生労働大臣に提出しました。このような日本医師会の動向については昨年8月号や11月号の本欄も参照ください。

  このような日本医師会の要望を受け、自民党は、翌9月より上記検討会を設けて制度化に向けての検討を進め、昨年11月29日、「産科医療における無過失補償制度」の枠組みを公表しました。

  今回の意見書は、以上の経緯を踏まえ、日医原案に含まれる問題点などを患者側の視点で指摘し、患者のための制度として制度具体化を行うよう、自民党に求めたものです。

意見書の概要

提出した意見書の概要は次のとおりです。

 *医療事故の被害者は、単に金銭的な補償だけでなく、事故原因の究明と再発防止を願っている。制度目的として、i)脳性麻痺児とその家族に対する経済的な補償の実施に加え、・)分娩に関わる医療行為による脳性麻痺発生の原因究明と再発防止策の実施をも明確に掲げるべき。

 *事故原因の分析が形骸化しないよう、原因究明のための事実調査を行う組織は、都道府県単位で設置するべき。

 *事故原因の究明のためには、基礎資料となる診療記録の質の向上が必要。診療記録の標準化のためのガイドラインを設けてその遵守を徹底するとともに、診療記録の保存に関する関連法規の整備が必要。

 *事故原因究明のための事実調査の結果を記した報告書は、脳性麻痺児やその家族に交付するべき。また医療機関にも交付し、実際に再発防止策が実施されたか否かを検証するべき。

 *分娩に関連する医療行為以外の要因が唯一の原因となって脳性麻痺が発生したことを明白に確認できない症例については、一定の生下時体重や在胎週数を満たさない場合であっても、補償の対象とすべき。

 *医師賠償責任保険等の引受保険会社に対しては、公費投入を正当化しうるだけの、保険の運用に関する改革(収集した医療事故情報による事故再発防止、保険審査結果の当事者への説明など)を求める必要がある。

今後の動向

   厚生労働省は、来年度中に制度の運用開始を目指し、本年2月中に日本医療機能評価機構に無過失補償制度の運営委員会を設け、そこで補償の対象や金額、事故原因の究明のあり方など、制度の詳細をとりまとめる意向だと報じられています。

  検討の場が自民党から日本医療機能評価機構に移されるようですが、引き続き、制度の具体的内容が真に患者のためのものとなるよう注視していかねばなりません。