診療行為に関連した死亡の死因究明等のあり方に関する課題と検討の方向性」(平成19年3月厚労省試案)に対する意見書

070409 「診療行為に関連した死亡の死因究明等のあり方に関する課題と検討の方
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厚生労働省医政局総務課医療安全推進室 御中

意 見 書

名古屋市東区泉1-1-35 ハイエスト久屋6階
医 療 事 故 情 報 セ ン タ ー
   理事長 柴田 義朗
電話 052-951-1731
FAX 052-951-1732

 医療事故情報センターは、医療事故の被害回復と再発防止の実現を目的として、医療事故の被害者の側に立って活動している全国の弁護士を正会員とする団体です。1990年12月に設立され、2007年4月4日現在の正会員弁護士数は650名です。
 「診療行為に関連した死亡の死因究明等のあり方に関する課題と検討の方向性について」に対する当センターの意見は、以下のとおりです。

1 「策定の背景」に対する意見

本項目全体について

* 患者が、診療行為に関連して死亡したとき、遺族は、その死因が何なのか、その臨床経過はどうであったのかについて、まず、事実を明らかにしてほしいと強く願っている。愛する家族がどうして死亡したのかという事実を知ることが、遺族が、その死を受容するために必要な第一歩だからである。そして、この事実を明らかにして遺族に報告することは、診療契約の当事者である医療機関に課せられた法的義務でもある。

  さらに、診療関連死の死因を究明し、臨床経過を評価することによって、同じような診療関連死の再発を防止するために、あるいは、より安全な医療を実現するために、さまざまなヒントを見いだすことができる。これは、当該医療機関にとっては勿論のこと、広く臨床現場における重要な教訓となる。この教訓を当該医療機関、その他の多くの医療機関に認知させ、実施させることによって、より安全な医療が実現することは、患者の死を無にしたくない遺族の願いである。そして、このことは、安全な医療を受けたいすべての市民の共通の願いでもあり、さらに、真摯に医療に取り組む医療者、医療機関の願いでもある。

  しかしながら、昨今の特定機能病院を中心とした一部の医療機関による院内事故調査委員会の実施、あるいは、「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」(以下、「モデル事業」という)を除いては、我が国において、上記の願いを叶えうる制度は、存在していない。

  よって、今般、貴推進室が、診療行為に関連した死亡の死因究明等のあり方についてパブリックコメントを募集して議論を始め、制度設計に着手されようとすることについては、積極的に支持するものである。と同時に、この制度が、かならず、遺族の真相究明及び再発防止の願い、市民と医療者、医療機関の医療安全の願いに叶う制度として創設されるよう強く期待するものである。つまり、本制度は、真相究明、再発防止、医療安全を制度の基本理念として制度設計されることが必須であると考えるものである。

* 以上の視点から、診療関連死の死因究明などの制度として、後述のとおり国が設置すべき調査組織は、次の事項を所管事務とすべきである。

  1. 診療関連死の死因ならびに臨床経過を中立・公正に究明すること(原則として解剖を実施する必要がある)
  2. 1.によって明らかにされた事実をもとに、再発防止策、より安全な医療を実現するための方策(以下、単に「再発防止策」という)を策定すること
  3. 1.及び2.の結果を、当事者(遺族・医療機関)双方に対して、速やかに報告すること
  4. 個人情報に配慮しつつ、1及び2の結果を、最大限公表し、広く他の医療機関に周知徹底すること
  5. 当該医療機関における2の再発防止策の実施状況を、一定期間後に検証すること

* なお、モデル事業における実績や、モデル事業によって明らかになった問題点や課題などを公表し、これを踏まえて、本制度のあり方が、検討されるべきである。

* また、厚生労働科学研究「医療事故の全国的発生頻度に関する研究」(主任研究者:堺秀人東海大学医学部付属病院副院長)による調査の結果などを踏まえ、診療関連死の年間総数を想定し、その数に応じた規模の解剖実施体制と調査組織を整備する必要がある。本制度を具体的に制度設計するに当たっては、この点に関する基礎情報を明らかにした上で、改めてパブリックコメント等による幅広い意見の集約を行うことが必須である。

2 「診療関連死の死因究明を行う組織について」に対する意見

(1)組織のあり方について及び(2)組織の設置単位について

 *医療安全の確保は、国の責務であり、国内における調査事業の統一性・一貫性を維持するためにも、組織の設置は、国が行うべきである。

 *具体的には、中央に統括機関を置いた上で、実質的な調査を行いうるよう、都道府県単位あるいは地方ブロック単位で支部を設置すべきである。

(3)調査組織の構成について

 *国が設置する調査組織は、後述する基準に基づいて設置される院内事故調査委員会の組織や構成の中立・公正性及び、院内事故調査委員会による調査の経過を監視・監督し、院内事故調査報告書を検証することを責務とするべきである。

 *自院では院内事故調査委員会を設置することが困難な小規模医療機関の場合は、法人格を有する学会等が院外事故調査委員会を設置することとし、国が設置する調査組織は、その院外事故調査委員会による調査の経過を監視・監督し、院外事故調査報告書を検証することをも責務とするべきである。

 *解剖については、国が設置する調査組織が解剖システムを構築して実施すべきである。そのためには、当該解剖を実施しうる法医学・病理学の専門家の養成と確保が必須である。かかる体制が整うまでは、その地域における当該医療機関とは別の医療機関において解剖を実施することを原則とすべきである(解剖実施可能な医療機関が当該地域に1箇所しか存在しない場合には、例外として当該医療機関内において解剖を実施することは当面やむを得ないと考えるが、その場合には、院外医師の立会等によって公正さの確保に配慮するべきである)。

 *国が設置する調査組織の構成員は、公正に選任されていることが必須であり、利益相反等がないことを外部から確認できるよう、透明性の確保には十分な配慮が必要である。また、当該事故の調査にふさわしい医療専門家と、医療安全に造詣の深い法律家・市民などが構成員となることは必須である。

3 「診療関連死の届出制度のあり方について」に対する意見

(1)について

 *診療関連死については、患者の死亡から24時間以内に、当該医療機関の管理者が、国の設置する調査組織へ届け出ることを、法的に義務づけるべきである。

 *届出の対象は、日本学術会議が平成17年6月23日に公表した「異状死等について-日本学術会議の見解と提言-」に示された「医療関連死と階層的基準」において異状死として届け出るべきとされた範囲を参考として、画定されるべきである。

 *上記届出義務が創設されるまでの間は、診療関連死は、従来どおり医師法21条の届出義務の対象となるが、上記届出義務が法的に規定された場合には、明文で医師法21条に除外規定を設けるべきである。

 *診療に関連して一定以上の重大な結果(重篤で永続的な障害等)を生じた事例についても、法的届出義務を課すことを今後検討すべきである。

4 「調査組織における調査のあり方について」に対する意見

(1)について

 *死因調査のためには、前述の仕組みによる解剖の実施を原則とすべきである。なお、必要に応じて画像撮影等の各種検査を行うべきである。

 *当該医療機関は、自らの責任の下で、十分な院内事故調査を行うべきである。

 *院内事故調査委員会の構成や調査手順については、国が、法令又はガイドラインによって公正さを担保しうる基準を定め、これを遵守させるべきである。

 *院内事故調査委員会は、半数以上の外部委員によって構成されるべきである。当該医療機関外の委員であっても、実質的には利益相反が生じる場合がありうるので、外部委員の要件については、厳格、かつ、具体的に定める必要がある。外部委員には、当該事故事例にふさわしい専門性を有する専門家のほか、医療安全に造詣の深い法律家・市民などが選任されるべきである。

 *院内事故調査委員会による調査では、遺族からの事情聴取を実施すべきである。

 *国が設置する調査組織は、院内事故調査委員会の組織や構成の中立・公正性ならびに、院内事故調査委員会による調査の経過を監視・監督し、院内事故調査報告書を検証する。また、国の設置する調査組織は、当該医療機関に対する立入調査を行う法的権限を持つものとする。

 *当該医療機関によって不公正な院内事故調査が行われた場合には、国は、当該医療機関に対し、保険医療機関指定取消等の厳しい処分を科すべきである。

 *院内事故調査委員会による院内事故調査が不公正・不適切と判明した場合には、国が設置する調査組織は、院内事故調査の中止を命じた上で、自ら当該事案についての調査を実施するものとする。

 *院内事故調査委員会による院内事故調査結果及びこれを受けた国の調査組織による調査結果は、必ず遺族及び当該医療機関に報告されるとともに、プライバシー情報に配慮した上で、検討された再発防止策とともに広く市民に知らせるとともに、全国の医療機関に対して迅速に周知をはかる仕組みを設けることにより、同種の有害事象の再発防止に役立てるべきである。

 *国による調査組織は、当該医療機関に再発防止策の実施を命じ、一定期間後に、その実施状況を検証すべきである。

 *自院では院内事故調査委員会を設置することが困難な小規模医療機関の場合は、法人格を有する学会等が院外事故調査委員会を設置する。院外事故調査委員会の設置や構成、調査手順についても、国が法令又はガイドラインを定めて遵守させる。国が設置する調査組織は、院外事故調査委員会による調査の経過を監視・監督し、院外事故調査報告書を検証する。院外事故調査が不公正・不適切と判明した場合には、国が設置する調査組織は、院外事故調査の中止を命じた上で、自ら当該事案についての調査を実施する。調査結果の当事者への報告や公表・周知、当該医療機関における再発防止策実施の検証についても、上述の院内事故調査の場合と同様とする。

(2)について

 *当面は、死亡事例を届出及び国の設置する調査組織による調査の対象とするが、診療に関連して一定以上の重大な結果(重篤で永続的な障害等)を生じた事例についても、対象に含めるよう検討を継続すべきである。

 *遺族等からの申出によって調査を開始することも可能とする仕組みを検討すべきである。

 *遺族等の範囲としては、法定相続人に加え同居の親族あるいは3親等内の親族等も含めるような定めをすることが考えられる。なお、内縁・事実婚については、遺族等の範囲に含めるべきである。

 *解剖の必要性については、特段の事情のないかぎり、原則として解剖を必要と判断すべきである。解剖については、上述のとおり、原則として国が設置する調査組織が解剖システムを構築して実施すべきである。

 *従前の院内事故調査委員会との関係については、上述のとおり、委員会の構成や調査手順について、公正性を担保するための法令又はガイドラインを国が定めるとともに、一定規模以上の医療機関については、その設置を法的に義務づけるべきである。

 *調査過程における遺族等に対する配慮は必須である。院内事故調査委員会(小規模医療機関の場合は院外事故調査委員会)は、遺族等から必ず事情を聴取するとともに、調査の経過を随時遺族等に報告する。また、遺族等は、院内事故調査委員会(前同)が最終的な結論を出す以前に、意見を陳述することができるものとする。国の設置する調査組織は、遺族等から要請があった場合には、最終的な結論を出す以前に、意見陳述の機会を確保するべきである。

5 「再発防止のための更なる取り組み」について

 *前述のとおり、再発防止策の策定と実施は、本制度の目的そのものであり、この点がおろそかとされてはならない。

 *再発防止のための提言については、一定期間後に、当該医療機関における実施状況及び全国における対策の実施状況や同種事故の減少の有無等を調査し、提言の有効性を検証し、その結果を公表することが必要である。

6 「行政処分、民事紛争及び刑事手続との関係」について

 *国の設置する調査組織は、医道審議会に対して、調査結果を全件報告する。一定以上の悪質性を有する事案については、行政処分に関する意見を付して報告する。

 *事案の悪質性の判断においては、結果や態様の重大性のみならず、事前の事故防止努力の有無、事後の真摯な調査・反省・謝罪・再発防止の取り組みの有無等を重視すべきである。

 *事案によっては、事故の直接当事者となった医療従事者個人に対する行政処分ではなく、医療機関に対する何らかの処分(改善勧告制度や特定機能病院の承認の取消し等が考えられる)を行いうる制度ないし運用を検討すべきである。

 *民事上の過失の法律的判断を行うことは、国の設置する調査組織の所管事務とはせず、民事上の責任の有無については、最終的には裁判所の判断によるものとするが、国の設置する調査組織の調査結果を参照しつつ、裁判に至ることなく、迅速に賠償を実現する仕組みを別途検討する必要がある。また、医療事故における被害救済のためには、現在、産科医療の一部について検討されている無過失補償制度を、医療事故全般を対象とした制度として整備することも必要であり、さらに、死因究明を含めた事故調査と補償などの被害救済が統合された仕組み作りに向けた検討を進める必要がある。

 *結果や態様が重大であり、かつ、著しい悪質性(証拠の隠滅等)が認められる事案については、国の設置する調査組織は、捜査機関に対して直ちに告発するものとする。

以 上