学会が示した産科医療の将来像

弁護士堀康司(常任理事)(2007年5月センターニュース230号情報センター日誌より)

日産婦学会が産科医療提供体制の将来像を提示

   4月12日、日本産科婦人科学会産婦人科医療提供体制検討委員会は、「わが国の産婦人科医療の将来像とそれを達成するための具体策の提言」と題する最終報告書を公表しました。

産科医療圏内で地域分娩施設群を構成

  この報告書は、産婦人科医の不足に対しては、産科医療のスタッフ配置状況を常時評価する体制を整備して、スタッフ不足に関する情報を地域に公開するとともに、労働条件を改善し医療資源の再配分による効率的運用を図ることで対応していくとの考え方に基づき、次のような具体像を提示しています。

 1)人口30万~100万人、出生数3,000人~1万人を目安として「産科医療圏」を設定する。

 2)分娩施設(産科病院、診療所、助産所等)は「地域分娩施設群」を形成し、相互に連携して、群内で正期産の緊急帝王切開(30分以内を目指す)・緊急手術に常時対応する。全ての分娩施設は緊急時の体制に関する情報を公開する。

 3)産科医療圏には24時間体制で緊急対応が可能な「地域産婦人科センター」(産科医10名以上を目標)を置く。同センターは臨床研修・研究の中心施設としての役割をも果たす。

 4)大学病院や総合周産期母子医療センター等は、産婦人科医療の「中核病院」を構成する。中核病院の役割を明確化し、情報公開と機能評価を行う。総合周産期母子医療センターは、都道府県内の各産科医療圏の連携の中心に位置付ける(同報告書p14イメージ図参照)。

医療紛争解決システムの提案

  また、この報告書は「現行の制度では、不幸にも医療事故の当事者となった場合、患者側には事実関係を明らかにし、補償ないし救済を受ける権利を行使するためには、医療機関側に対して法的手段に訴える以外に方法はない」「医療事故の中には責任が問われなければならない事例もあるが、その多くは、専門家による調査によらなければ、当事者にとってすら事実関係が明確でない複雑な経過を含んでいる」との認識を示しつつ、医療事故関連の紛争は、

(ア)ADR機関による患者・医療側双方の感情的軋轢の解消

(イ)原因究明機関による事実関係と責任の所在の明確化

(ウ)無過失救済制度による患者救済

(エ)必要に応じた刑事処分、民事訴訟、行政処分

という順序で解決が進められるべきである、と提言しています。


同一の地平で議論し合う素地に?

  この報告書は、看護師内診の容認を求める内容となっていますので、患者の側から見て見解が相違しうる点も含まれています(助産師の充足の必要性を明示した点は評価できますが、過渡期において看護師内診を容認することは、助産師の充足を遅らせるおそれがあります。その点にどう配慮するのか、具体策は明示されていません。また、看護師内診の安全性確保の方法も、具体的には提案されていません)。

  ただ、同検討会が、個々の産科医にとっての負担の大きい勤務形態を「診療科の特性として当然視して改善の努力を怠り、各施設における少人数での勤務状態を放置してきたという点で、大学医局等、産婦人科医の配置に関与してきたものにも責任の一端があると考えなければならない」との認識を示した点や、産科医療の実情に対する患者側の理解を求める前提として、分娩施設の情報開示を重視する姿勢を示した点からは、産科医療のあり方を同一の地平で議論し合える素地が、徐々に形成され始めたようにも感じています。

  今後、患者側から産科医療に対するさらなる提案をするにあたっても、この報告書に対する十分な検討・評価が不可欠だと思います。関心をお持ちの方は是非ご一読下さい。