産科医療無過失補償制度の骨格まとまる-準備委員会報告書の概要-

弁護士園田理(常任理事)(2008年3月センターニュース240号情報センター日誌より)

準備委員会が報告書とりまとめ

  産科医療補償制度運営組織準備委員会(準備委員会)は、厚生労働省の委託事業として(財)日本医療機能評価機構に設置され、昨年2月から、産科医療において創設すべき無過失補償制度の内容について議論を行ってきていましたが、本年1月23日、報告書をとりまとめました。

  報告書で創設すべきとしている産科医療無過失補償制度の骨格は、以下のとおりです。

無過失補償制度の骨格

【制度目的】

・分娩医療事故で脳性麻痺となった児、家族の経済的負担の速やかな補償と、事故原因分析、事故防止に資する情報の提供などにより、紛争防止、早期解決、産科医療の質向上を図ることを目的。

【仕組み】

・分娩機関と妊産婦との補償契約に基づき分娩機関から児に補償金支払い。

・分娩機関は、上記補償金支払による損害担保のため、運営組織が契約者となる損害保険に加入し、保険料を支払う。

・分娩機関の保険料負担に伴い、分娩費用引上げを想定。国は、出産育児一時金を保険料相当額引き上げる。

・国は補償内容につき標準約款で公示し、各分娩機関はこれに即して補償約款を定める。

【補償対象者】

・原則として、出生体重2,000g以上かつ在胎週数33週以上で脳性麻痺となった場合で、重症度が身体障害者等級1級および2級に相当する者。

・在胎週数28週以上で、(1)(2)いずれかに該当する児は、個別審査。

 (1)低酸素状況が持続し臍帯動脈血中の代謝性アシドーシス(酸性血症)の所見が認められる場合(pH<7.1)。

 (2)胎児心拍数モニターで特に異常のなかった症例で、通常、前兆となるような低酸素状況が、例えば前置胎盤、常位胎盤早期剥離、子宮破裂、子癇、臍帯脱出等により起こり、引き続き、【1】突発性で持続する徐脈、【2】子宮収縮の50%以上に出現する遅発一過性徐脈、【3】子宮収縮の50%以上に出現する変動一過性徐脈、以上のいずれかの胎児心拍数パターンが認められ、かつ、心拍数基線細変動の消失が認められる場合。

・先天性要因(【1】両側性の広範な脳奇形、【2】染色体異常、【3】遺伝子異常)、新生児期の要因(分娩後の感染症)により脳性麻痺となった場合は除外(分娩時に感染したと疑われたり、分娩後に感染したと明らかでない場合、「分娩後の感染症」に該当しないとみなす)。

・推計では年間500~800人程度と見込む。

【補償水準】

・一時金:数百万円を対象認定時に支給。

・分割金:総額2,000万円程度を目処とし、20年分割で原則として、生存・死亡を問わず、定期的に支給(対象認定時に経過年分を支給)

【審査】

・補償対象か否かは、運営組織が審査。

・具体的には、産科医、小児科医が申請書類に基づき書類審査した後、判断困難事例中心に審査委員会が審査し最終決定。

・審査委員会は、毎月定期開催。産科医、小児科医、学識経験者等で構成。

【損害賠償金との調整】

・補償金と損害賠償金の二重給付防止のため、分娩機関に損害賠償責任がある場合は、分娩機関が損害賠償に関する金銭を自ら全額負担するとの考え方に基づき補償金と調整。

【原因分析】

・運営組織が実施。

・具体的には、産科医が報告書案を作成した後、原因分析委員会で検証・協議し最終確認。

・原因分析委員会は、毎月定期開催。産科医、助産師、学識経験者等を中心に構成。

・報告書は分娩機関と児・家族にフィードバック。

・分娩機関から運営組織への書類、データの提出を制度化。提出書類の種類、標準的に必要な記載事項、提出要領等を分娩機関に周知徹底。

【再発防止】

・運営組織内の再発防止委員会が、再発防止策の検討や公開の方法等につき協議・検討。再発防止策等を広く一般に公開、提言。

・再発防止委員会は、年数回程度開催。産科医、小児科医、助産師、患者の立場の有識者、学識経験者、関係団体等をメンバーとする。

【創設時期】

・平成20年度内を目指す。

形だけの原因分析、再発防止とならないように

  報告書が、無過失補償制度の目的として、脳性麻痺児や家族の救済と、事故原因分析を通じた産科医療の質向上を掲げたこと、原因分析報告書を児・家族にフィードバックするとしたことなどは評価できます。

  しかし、想定件数が平成18年8月の日本医師会原案より増えている中、制度の要である運営組織がどのような規模、体制となるのか、まだ明確ではありません。当該分娩機関が再発防止策を採ったかどうかの検証も予定されていません。1件1件の原因分析が十分になされうるのか。制度目的とされた原因分析・再発防止が形だけに終わってしまわないか。そんな懸念が拭い去れません。今後のより詳細な制度設計にも引き続き注目が必要です。