第三次試案からさらに後退?~医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案の問題点

弁護士園田理(常任理事)(2008年9月センターニュース246号情報センター日誌より)

法案大綱案につき検討中

  厚労省が去る6月13日に公表した、医療死亡事故の原因究明・再発防止の役割を担う医療安全調査委員会の設置法案(仮称)大綱案について、当センターも意見書を提出すべく検討中です。

  常任理事会での議論内容を踏まえ、厚労省が本年4月に公表した第三次試案から大綱案がさらに後退してしまったのでは?という問題点に絞り述べたいと思います。

異常死が医療機関内の報告だけで対外的届出不要とされてしまう点

  7月号センターニュースの本欄でも述べましたが、第三次試案では、医療機関が対外的な届出を行った場合に初めて、医師法21条に基づく異常死の届出を不要とするとされていたのに対し、大綱案では、死体を検案した勤務医が医療機関の管理者に医療事故死等だと報告するという内部的な手続だけで医師法21条の異状死届出が不要とされ、勤務医からの報告後、管理者が対外的に届出をしたことを要しないとされています。

  しかし、このような医療機関内の手続では、大綱案のように、管理者に、報告を受けたことや勤務医との協議経過、医療事故死等への該当・非該当の判断をした理由などを記載した記録を作成・保存させたとしても、なお不透明感は払拭できません。記録の作成・保存によって手続も煩雑になってしまいます。そもそも医療事故死等と疑われるものも含めて広く届出をさせ原因究明を図る制度趣旨からして、死体を検案した医師が医療事故死等に該当すると判断した場合には、管理者に重ねて届出の要否を判断させる必要はないはずです。勤務医自身が対外的に届け出る負担も、ホットライン、FAX、ウェブサイト、メールアドレス等を整備することで大きく軽減することができます。

  したがって、勤務医に直接対外的届出をさせるなどして、第三次試案のとおり、勤務医あるいは医療機関の管理者のいずれかにより対外的に医療事故死等の届出がなされた場合に初めて、医師法21条に基づく所轄警察署への異常死の届出が不要とされるべきです。

  なお、当センターは、第三次試案が、医療機関の管理者が故意の届出懈怠や虚偽届出を行っても体制整備等を命ずる行政処分を科すに止め、刑事罰は科さないとしていた点について、刑事罰の対象とすべきだとの反対意見を述べていましたが(本年5月8日付け意見書)、医療事故死等に該当するか否かにつき大綱案のように医療機関の管理者に勤務医とは別個独立の判断をさせてしまうのであればなおさらのこと、故意・重過失の届出懈怠や虚偽届出に対し厳格に刑事罰の制裁を科すべきでしょう。

調査チームが法律関係者の参画を得て構成されるか不明確な点

  第三次試案では、地方委員会の下に事例毎に置かれる調査チームについても法律関係者の参画を得て構成するとされていたのに対し、大綱案では、中央委員会や地方委員会の委員と異なり、調査チームを構成する臨時委員、専門委員については、「法律その他その属すべき中央委員会又は地方委員会が行う事務に関し優れた識見を有する者」のうちから任命されることが明記されていません。

  しかし、調査チームの調査結果に透明性・公正性・中立性を確保するためにも、調査チームにおいて適正・的確に診療経過等の事実経過の認定を行うためにも、そして、医療事故調査に付随する質問、調査等の処分権限が適正に行使されるためにも、調査チームに患者側代理人業務に精通した弁護士を中心とした法律実務家の参画が必須であり有用です。第三次試案のように法律関係者が調査チームにも参画することを今後の法案化や法律成立後の運用に際して明確化ないし実現化していくべきです。