再開された「医療版事故調」検討会~医療界に問われる「公約の実現」 

弁護士堀康司(常任理事)(2008年12月センターニュース249号情報センター日誌より)

検討会が半年ぶりに再開

  厚労省の設置する「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等のあり方に関する検討会」は第13回の会合が本年3月12日に開催された後、長らく中断していましたが、10月9日に半年ぶりに再開されました。

 10月9日の第14回会合では、第三次試案と大綱案に対するパブコメの集約結果と、これらに対する「現時点における厚生労働省の考え」とのペーパーが配布されました。このペーパーでは、寄せられたパブコメに対する厚労省としての見解が示されています。

院内事故調査委員会と連携

  このペーパーの9項では、大綱案において必ずしも明確でなかった院内事故調査委員会の位置づけについて触れられています。これによれば、特定機能病院等については、医療法上設置が義務づけられている「安全管理委員会」の業務として、地方委員会に届け出た事例に関する調査を実施する仕組みとし、中小病院や診療所については、自施設での調査に伴う困難に対応するための支援体制を検討するとのことです。

  実効的な原因究明や再発防止のためには、国の設置する事故調査委員会に丸投げすることなく、各医療機関が自ら原因を考える営みが重要となります。厚労省が、院内事故調査との適切な連携の必要性をあらためて示した点は、評価に値すると考えます。

  しかしながら、適切な連携の具体的な姿については、まだ明らかにされているとは言えません。本年10月に富山で開催された人権擁護大会において、日弁連が提案した「院内事故調査ガイドライン」等を参考としつつ、地方委員会の調査チームと院内事故調査委員会の関わりのあり方について、より具体的な議論を進めていく必要があります。

医療関係者以外も調査チームに

  また10項では、地方委員会の調査チームは、医療関係者のみで構成すべきとの意見に対する厚労省の見解が示されています。その内容は、透明性・中立性・公正性の担保のためには、医療の専門家のみでなく、法律家や医療を受ける立場にある者等の参加も必要であり、医療の専門家以外の者も委員として任命することが必要との立場を、あらためて明確にするものとなっています。

  モデル事業等におけるこれまでの事故調査の実践を振り返っても、患者・遺族の視点から意見を述べることができるメンバーが調査チームに加わる事は、透明性・中立性・公正性の担保のために極めて重要ですので、今後も、こうした方針が堅持されることが必要です。

「公約」実現に向けて結集を

  引き続いて開催された、10月31日11月10日の会合では、合計6名の参考人からのヒアリングが実施されました。

  患者・被害者の視点に関わる関係者としては、医療過誤原告の会の宮脇正和会長が参考人として出席し、第三次試案が医療側に大幅に配慮した内容となったことから、偏向なき公正な事故原因究明がなされるかはなはだ危惧されるが、これ以上懸案の先送りは許されるものではないとの意見書を提出して、医療版事故調の早期設立を要請しました。

  他方、医療界からの参考人の中には、医療系の検討会メンバーとの間ですら、いささか感情的ともおもわれるやりとりを繰り広げる方もみられたようです。

  平成16年9月、日本医学会加盟の主要19学会が発表した声明『診療行為に関連した患者死亡の届出について~中立的専門機関の創設に向けて~』は、「われわれは、管轄省庁、地方自治体の担当部局、学術団体、他の医療関連団体などと連携し、在るべき「医療関連死」届出制度と中立的専門機関の創設を速やかに実現するため結集して努力する決意である。」と結ばれています。医療版事故調の創設は、医療界の公約とも言える政策課題です。今、社会からは、医療界の側から、公約実現に向けて、総力を結集した自発性ある取組みがなされるのかどうかが、問われています。

  創設までのプロセスにおいて、プロフェッションの名に相応しい医療界の姿を見られることを、切望して止みません。