公的資金で損保会社が潤う?~産科医療補償制度の収支

弁護士園田理(常任理事)(2009年1月センターニュース250号情報センター日誌より)

補償開始に伴い出産育児一時金が増額される

  いよいよ、平成21年1月1日以降に出生した児から、産科医療補償制度による補償が開始されます。

  この補償制度の補償開始に伴い、健康保険や国民健康保険に基づく保険給付として支給されてきた出産育児一時金の額が、平成21年1月1日より3万円増額されます(これまでは35万円であったものが38万円に増額されます。ただし国民健康保険などで一部支給額に違いあり)。

  この3万円という金額は、補償制度において分娩機関が運営組織((財)日本医療機能評価機構)に掛金として1分娩当たり3万円を支払うとされていることに対応しています。分娩機関が運営組織に支払わなければならない掛金3万円の分だけ出産費用が増額される可能性があるため、それを公的医療保険の財政で賄い、妊産婦に新たな負担を負わせないようにするものです。

補償制度の余剰金は損保会社へ

  公的医療保険の出産育児一時金の額を3万円増額すると決めるに当たり、去る平成20年9月12日、厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会で審議がなされていますが、審議経過の中で注目すべき内容が明らかになっています。補償制度に投入される上述のような公的医療保険の資金を元手にして、損害保険会社が多大な利益を上げる可能性があるという点です。

  すなわち、分娩件数は現在、年間100万件余りですが(平成19年の出生数は厚労省の統計で108万9,818です)、これに3万円を掛けた合計300億円くらいが補償制度の収入に当たり、ここから事務経費として52.4億円が支出されます。

  他方、補償対象者数は年間500~800人と推計されています。1人当たりの補償金額が一時金・分割金合わせ合計3,000万円ですので、1年間の補償対象者に必要な補償金額の合計が150~240億円と推計されます。

  補償対象者が推計上限の800人であっても損失が生じないように3万円という掛金額や出産育児一時金増額分が決められていますので、逆に、補償対象者が下限の500人程度に止まれば、1年当たりで90億円もの余剰金が補償制度の運営上生じる予定です。

  そして、この余剰金はすべて、補償制度の運営組織から保険料収入を得る損保会社の利益になってしまうということなのです。

  産科医療の崩壊を一刻も早く阻止するという理由で、民間の損害保険を活用する形で産科医療補償制度が立ち上げられましたが、投入される公的資金によって損保会社が多大な利益を上げる可能性があるという問題が浮かび上がって来ました。

事例数の地域格差

  上述の医療保険部会では、出席委員から、補償制度は民間の損害保険が活用されてはいるが、公的資金が注ぎ込まれており、その財務については透明性確保が必要だとの意見が出されていました。厚労省は、このような出席委員からの意見・疑問に答える形で、補償制度の収支状況については運営組織内の産科医療補償制度運営委員会に報告され公表することとしており、透明性の高い運営を行う、遅くとも5年後を目処に、制度内容について検証し、保険料の変更等について適宜必要な見直しを行う、と説明しています。今後の補償制度の収支状況を注視・監視していく必要があります。

  また、これまで損保会社には、医師賠償責任保険等の運営上多くの医療事故事案に関わってきていながら、審査過程の不透明、審査結果の理由に関する説明不十分、事故再発防止に役立つ医療事故情報の不提供といった問題点が指摘されてきました。損保会社が公的資金を原資に多大な利益を上げるようであれば、その分、医療安全実現に向けた公的活動を行うよう強く求めていく必要もあると思います。