産科医療補償制度の動向~分析体制は具体化へ、求償調整は これから

弁護士堀康司(常任理事)(2009年6月センターニュース255号情報センター日誌より)

制度加入の進展

  本年3月25日、産科医療補償制度の第3回運営委員会が開催されました。

  公表された配付資料によれば、全国3,293分娩機関のうち、3,267機関が加入(99.2%)済で、特に病院については加入率100%に達したとのことです(3月24日現在)。また、妊産婦情報の登録は、61万4,290件で、分娩済みを除く件数は41万6,843件とされています(前同)。

6部会体制で原因分析

  同制度には、1)運営委員会、2)審査委員会、3)原因分析委員会、4)再発防止委員会、5)異議審査委員会、6)調整委員会を設置するとされています。このうち、原因分析委員会には、産科医3名、小児科医・助産師・弁護士各1名の合計6名による部会を、当面6つ設置するとの方針が示されており、本年9月ころの立ち上げが予定されています。

  部会では、1回あたり3件程度の事案分析を予定しているとのことで、事例数が漸次増加した後の2012年9月期時点では、月平均67件の事案に対し、6部会をそれぞれ月4回程度開催して対応する計画が示されています。

求償調整の明確化は次回に持ち越し

  上記の調整委員会については、有責事案の求償調整を判断する部門として、調整委員会が不定期に開催され、「原因分析の結果、重大な過失が明らかであると思料された事例について、補償金の調整(求償)を行うことについて審議を行う」とされています。

  同会合議事録によれば、この表現では重大な過失でないものは調整されないと理解されてしまうため、重大な過失でなくとも調整が必要な部分があることを明確にすべきではないかと、委員から指摘されたようです。この点について、事務局からは、重過失ケースは調整委員会に諮って事前調整を行い、その後に訴訟等で過失が認定されたケースについては、事後的に連絡が入る仕組みになっているので、医賠責保険を使ったケースは、標準約款に基づく事務的な調整により、必ず求償対象となると説明されましたが、この点の明確化については、次回運営委員会において、更に説明がなされることとなりました。

仮想事例の検討を開始

  本年5月19日には第4回の原因分析委員会が開催されました。ここでは仮想事例を用いた模擬部会を実施し、報告書のあり方を議論した模様です。

  今回の仮想事例は、自宅で生理痛様の痛みを自覚した妊婦が、3時間後に医療機関に連絡し、外来受診後に胎盤早期剥離に対する迅速な対応を受けたものの、児に障害が残ったというものです。事前に公表された仮想事例の原因分析報告書では、この事例について、今後の産科医療の向上のために検討すべきではないとされていましたが、より早期の外来受診のために、妊娠後期や電話受信時の療養指導のあり方について検討が必要ではないかとの指摘を受け、報告書の記述の修正案が作成されたようです。

  仮想事例では、医療機関に到着後の診療経過に特段の問題点がないと考えられたことから、当初の報告書において、改善すべき事項はないとされたと推測されます。しかしながら、本制度の目的が、脳性麻痺を回避するための改善点の分析にあることに鑑みれば、医療機関到着以前の経過も含めて、分娩経過全体をレトロスペクティブに検討し、脳性麻痺回避のための最善の方策を分析するという作業手法が、今後より浸透していくことが望まれます。その意味で、報告書の修正案が示されたことは、正しい方向性につながる動きとして評価できると思います。