脳性麻痺の回避可能性への言及は避ける?~産科医療補償制度の原因分析報告

弁護士園田理(常任理事)(2009年9月センターニュース258号情報センター日誌より)

原因分析委員会での検討進む

  本年7月から、産科医療補償制度による補償認定の申請が可能な時期になってきました。

  本年2月に、同制度運営部内に事故原因の分析を行う原因分析委員会が設けられ、7月から補償認定申請がなされうることを念頭に原因分析を円滑に実施していけるよう準備すべく、2月以降概ね毎月1回のペースで委員会が開催されてきています。

  委員会では、仮想事例を基にして原因分析報告書にどのような記載をなすべきかなどの原因分析のシミュレーションを行い、報告書作成マニュアルの作成が進められています(委員会での議論状況は、同制度のホームページ上に委員会の会議録や配付資料が公表されています。ご参照ください)。

家族に分かりやすく、疑問に答える記載に

  委員会が作成する報告書は、補償対象となった児の家族に渡されることが予定されています。家族にとっては、その報告書を読んで事故の原因が理解でき、疑問が解消されるようなものであることが望まれます。

  そのような観点から、本年5月19日に開催された第4回委員会では、仮想事例1に関する原因分析報告書の原案について、委員会で、次のような議論がなされていました。

 〇全体的に言葉が難しく一般の人だとほとんど分からない。特に「事例の概要」は家族に理解してもらい、その上で意見を出してもらうので、表現を平易にすべき。

 〇医学的な一般論や論理を前提に読まないと理解できない箇所は、そのような点の説明を追加すべき。

 〇家族はもっと早く対応していれば脳性麻痺は防げたのではないかと疑問を持っている。その疑問に対し答える姿勢を示し、できる限り詳しく論述すべき。

  このような議論を経て、第6回委員会配付資料中の報告書修正案では、事例の概要の表現がより一層平易化が図られ、医学用語の解説もかなり補充されるとともに、なぜ脳性麻痺発症の原因が常位胎盤早期剥離と考えられるのか、なぜ医療機関の対応が適切と判断されるのか、などについて、かなり詳細な説明がなされるようになっています。


脳性麻痺の回避可能性への言及は避ける?

  次いで本年6月9日に開催された第5回委員会では、仮想事例2に関する原因分析報告書の原案について議論がなされました。

  原案では、レトロスペクティブな視点からの診療行為についての改善事項として「午前5時10分、もしくは…午前5時30分以前に速やかに帝王切開によって児が娩出されていたら、脳性まひは回避出来た可能性があると考えられる」との言及がなされていましたが、委員会では、委員長を中心に次のような意見が出されました。

〇この点に言及すると、法的責任追及につながりやすい。報告書は、責任追及のためのものではなく、法的な判断をするものでもない。そのような表現は避けるべき。

  その結果、第6回委員会配付資料中の報告書修正案では、どうしていれば脳性麻痺を防ぐことができたか、という点についての言及が省略されてしまっています。

  しかし、この点については、委員からは次のような反対意見が出ていました。

〇脳性麻痺が防げたのか否かは再発防止策にとって極めて重要である。結果に関連のあった原因と、関連のなかった原因は意識して書き分けるべきで、結果に関連のあった原因について優先して対策を取らなければならない。結果との関連性を敢えてぼかして複数の再発防止策を同列に論じるのは説得力を欠く。

  もっともな意見です。どうしていたら脳性麻痺を避けることができたのか、それはどの程度の可能性なのか、という点は、再発防止策の優先度・重要度に関わるだけでなく、家族にとっても大きな関心事です。そのような点につき全く言及しないのは、家族に対する事故原因の説明という意味でも不十分です。今後の委員会での議論状況に引き続き注目していきたいと思います。