医療界の「公約」から5年~未だ実現しない診療関連死届出制度

弁護士堀康司(常任理事)(2009年10月センターニュース259号情報センター日誌より)

制度創設なき今日という日を迎えて

  現在からちょうど5年前の2004年9月30日、日本医学会加盟の主要19学会は、「診療行為に関連した患者死亡の届出について~中立的専門機関の創設に向けて~」という声明を発表しました。

  この声明は、医師法21条の異状死届出制度に代わる制度を創設することへの決意を対外的に宣言するものであり、医療安全実現に向けた医療界の「公約」とも言えるものです。

  不幸にして発生した医療事故が、そのまま患者・遺族にも知らされないまま埋もれてしまうことなく、中立的専門機関が事故発生を把握し、透明性の確保された調査が実施されることによって、医療安全の実現のための教訓が抽出される仕組みは、医療事故被害者の悲願です。

  しかしながら、声明から丸5年が経過した今日という日を、制度の実現を見ないまま迎えることとなったのは、誠に残念と言わざるを得ません。

もう一度、「公約」の内容を振り返る

   5年前、医療界は、どのような考え方に立脚して、どのような制度の創設を宣言したのでしょうか。あらためて声明原文に立ち返ると、次のとおりです。

1)制度創設を裏付ける理念

○解剖所見による公正な検証の必要性

 「医療の過程においては、予期しない患者死亡が発生し、死因が不明であるという場合が少なからず起こる。このような場合死体解剖が行なわれ、解剖所見が得られていることが求められ、事実経過や死因の科学的で公正な検証と分析に役立つと考えられる。」

○遺族の疑問への対応の必要性

 「診療行為に関連して患者死亡が発生した事例では、遺族が診断名や診療行為の適切性に疑念を抱く場合も考えられる。この際にも、死体解剖を含む医療評価が行われていることが、医療従事者と遺族が事実認識を共通にし、迅速かつ適切に対応していくために重要と考えられる。」

2)創設される制度の姿

○中立的第三者機関であること

「届出制度を統括するのは、犯罪の取扱いを主たる業務とする警察・検察機関ではなく、第三者から構成される中立的専門機関」

○診療経過の検証機能をもつこと

「諸々の分析方法を駆使し、診療経過の全般にわたり検証する機能を備えた機関であることが必要」

○法的根拠による公共性と全国的運営の確保

 「また、制度の公共性と全国的運営を確保するために、中立的専門機関は法的にも裏付けられ、その必要な機能の一部には医療関連の行政機関の関与が望ましい」

医療界は、原点に立ち返った決意を

  19学会声明は次の文言で結ばれています。


  「医療の安全と信頼の向上のためには、予期しない患者死亡が発生した場合や、診療行為に関連して患者死亡が発生したすべての場合について、中立的専門機関に届出を行なう制度を可及的速やかに確立すべきである。われわれは、管轄省庁、地方自治体の担当部局、学術団体、他の医療関連団体などと連携し、在るべき「医療関連死」届出制度と中立的専門機関の創設を速やかに実現するため結集して努力する決意である。」


  医療界には、制度創設の障害となった様々な要因を粘り強く克服して、5年前の「公約」を実現するという新たな決意と努力を、心から期待したいと思います。