弁護士園田理(常任理事)(2010年1月センターニュース262号情報センター日誌より)
消費者庁が医療事故を非公表?!
消費者庁が消費者安全法に基づき厚生労働省から通知された医療事故を一切公表していないことがわかった、との新聞報道がありました。
昨年9月、内閣府の外局として消費者庁が設置されるとともに、消費者安全法が施行されています。
この法律では、行政機関の長などは、消費者事故が発生したとの情報を得た場合、それが重大事故のときは、直ちに内閣総理大臣にその事故の日時・場所、態様、被害状況などを通知しなければならない、と定められています(12条1項、同法施行規則9条2号)。
ここで重大事故というのは、消費者が死亡したり、一定以上の重篤な後遺症を残したり、治療に30日以上要する傷病を負ったりした場合のことを指します(同法施行令4条)。
内閣総理大臣は、このように事故通知を受けた場合、当該消費者事故と同種・類似の消費者事故の発生の防止を図るため消費者の注意を喚起する必要があると認めるときは、当該消費者事故の態様、被害状況その他の消費者被害の発生防止に資する情報を公表するものとされています(15条1項)。
このような消費者安全法の規定に基づいて厚生労働省から昨年9月以降に12月半ばまで医療事故が20件近く通知されていたのに、一切公表されていないという報道でした。
なぜ非公表?
なぜ非公表なのでしょうか?
報道によれば、消費者庁消費者安全課は、患者の個人情報保護の観点や、因果関係の判断が難しいため、原則非公表としてきたと説明しているようです。
しかし、事故に遭った患者が誰なのかを特定されないように配慮しながら、事故態様や被害状況を公表することは可能なはずです。
また、消費者安全法でも、事業者がその事業として提供する役務を消費者が利用したことに伴い生じた事故で、消費者の生命・身体に被害が発生したものは、原則として消費者事故に当たるとしています。例外的に、役務が通常有すべき安全性を欠くことによって被害が生じたのではないことが明らかな場合に限り消費者事故には当たらないとしています(2条5項1号)。つまり、消費者安全法自体が、役務の利用と被害発生との間に因果関係がない、ということが明らかでなければ、広く消費者事故に当たるとし、特に重大事故については必ず通知させ、それを公表することにより、同種・類似の消費者事故の発生防止を図ろうとしているのです。役務の利用と被害発生との間の因果関係判断が難しいとの理由で医療事故を原則非公表とするのは、法律の趣旨に反します。
消費者庁が医療事故に限って原則非公表としてきた理由は、全く理解できません。
医療安全のために是非公表を!
医療事故に関する情報は、同種・類似の医療事故発生を防止するための貴重な教訓が含まれています。医療の安全性を高めていくのに有用な情報です。患者の個人情報保護に配慮しつつも、これを埋もれさせることなく広く公表し、医療機関や患者に提供していくべきです。
現在、特定機能病院や大学病院、国立病院などで起きた医療事故については、医療法施行規則で事故報告が義務づけられ、財団法人日本医療機能評価機構によって事故情報が公表されています。しかし、まだ、ごく一部の大規模医療機関での事故情報に限られています。
報道によれば、消費者担当大臣が医療事故の公表について前向きな考えを示し、消費者庁も公表に向けた検討を始めたとのこと。公表の早期実施を期待したいと思います。