消費者庁、医療事故情報を公表!

弁護士松山健(嘱託)(2010年6月センターニュース267号情報センター日誌より)

消費者庁が医療事故情報を公表

 本年1月の情報センター日誌 その34で、消費者庁が厚生労働省から通知された医療事故を一切公表しておらず、原則非公表の運用が判明した旨をお伝えし、早期の公表が望まれる旨お話ししました。

  4月30日、消費者庁は「消費者事故情報公表の法的論点の整理(役務分野に係る生命・身体被害事案に関する事故情報の特性を踏まえた留意点について)」と題する文書とともに厚生労働省から昨年9月以降に通知されていた15件の医療事故を含む消費者安全法に基づく通知事案に関する資料を公表しました(内訳は、院内感染が推定される事故や手術中に容体が急変した事故など死亡事故8件、残り7件はリハビリ中に骨折した事故等の重傷事故でした)。

  消費者庁は、今後も3カ月に1回程度、記者発表やホームページで公表していく予定とのことです。

医療安全のための情報となるか

 もっとも、今回の公表資料の掲載情報は、被害者や医療機関、疾患名、事故態様等の具体的な情報がすべて捨象された抽象的なもので、リハビリ中に骨折したという結果はわかるが、何がいけなかったのか、今後どう注意をすれば、同種事故が避けられるのか等、医療機関が教訓としてフィードバックしたり、患者側が、医療サービスを受ける際に、どう注意をすればよいのか参考にするための情報としては不十分であり、より具体的な情報提供が望まれます。

消費者庁だからこそ果たし得る役割とは

 この点、医療安全に関する情報については、財団法人日本医療機能評価機構が「報告書」、「年報」、「医療安全情報」を公表し、また、この4月から「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」を引き継いだ一般社団法人日本医療安全調査機構は、調査報告書の要点をまとめた「評価結果報告書概要」を公表しています。いずれも専門家等による原因分析を経て改善方策を含めた情報となっていますが、事例の収集母体が、かなり限定されることや一般消費者向けではないことなどから、万全の情報提供がなされているとはいえない状況です。

 かといって、多様な消費者被害の一分野にすぎない医療事故を専門的に分析・評価・対策を行うことは、消費者庁には期待すべきではないでしょう。消費者の視点から横断的に司令塔として消費者被害を防止することを期待される消費者庁には、むしろ医療事故を医療サービスに関する消費者被害の一分野として捉え、消費者の視点での素人感覚を徹底することが求められるところです。

公表基準~医療事故の特性~

  消費者庁も、自らの役割を検討し、発表文書では、そもそも医療を含む対人サービスに係る被害は製品等に関連する事故に比較して、個別性が高く汎用性が低い点、医療関係事案は、因果関係の判断につき高度の専門性を要する場合がある点、患者にとっては自らの生命・身体を維持・回復するためにサービスを受けるという一般の消費活動とは異なる非日常的な条件を伴う点等の特徴を有するとして、事故情報の公表には特に慎重な考慮を要するとします。

  その上で、・因果関係の判断に高度の専門性を要する場合は、消費者庁が広く消費者に向けて情報を公表しても事故の発生及び被害拡大の防止を実現できる可能性は低いとして、単に事故発生情報の公表にとどめ、具体的な情報提供に関しては、既存の日本医療機能評価機構等の専門機関の情報提供制度に明示的に結び付ける中継局的な公表のあり方も検討したいとします。

  他方で、・役務提供と被害発生の結びつきが比較的単純な場合や、患者取り違えのように役務提供者が注意を欠き、そのことが医療行為の専門性とは必ずしも連関せず消費者にも比較的容易に理解できるような場合等、因果関係の判断が比較的容易な場合や、・レーシック施術に際しての不衛生事案等、因果関係の判断の難易に関わらず、被害の再発・拡大防止の観点から、事故概要等を迅速に公表することが望ましい場合については、公表により消費者事故の発生・拡大の防止に寄与する可能性が高いとして、消費者事故情報として積極的に公表することが望ましいとします。

今後の運用に期待

 紛争化しない段階での事故情報も対象となる以上、医療機関の信用や患者のプライバシー等への慎重な配慮が必要であるため、上記のような基準で公表を行うことはやむを得ないところですが、美容、エステ、いわゆる自由診療型被害(レーシック、レーザー椎間板治療、包茎手術など美容整形)への対処については、比較的前向きの姿勢を示しているといえます。医療事故と消費者問題のはざまのケースは、患者側代理人としても、個別には解決できても、営業が続いて同種被害は発生し続けるというように根本的には手を付けられないままとなりがちで、対応に苦慮するところです。消費者庁が独自の役割を果たし得るか今後の運用を見守っていく必要があります。