弁護士松山健(嘱託)(2011年1月センターニュース274号情報センター日誌より)
厚労省Ai活用検討会
異状死や診療行為に関連した死亡の死因究明のための死亡時画像診断(Ai:Autopsy=解剖 Imaging=画像診断。CTやMRIで死体の内部の器質的病変を調べて死因究明を行う手法)の活用方法などについて検討する厚労省の「死因究明に資する死亡時画像診断の活用に関する検討会」(第1回平成22年6月)の第8回会合が12月17日に開かれました。検討会では、当初、年内の報告書とりまとめを目途に論点整理が進められてきましたが、年明けの会議まで持ち越しとなりました。以下、議論の背景と検討会での議論の概要をお伝えします。
背 景
死亡時の原因検索手段としては、司法解剖、行政解剖及び病理解剖がありますが、日本では、検視官や法医・病理解剖専門医の不足、5大都市にしか監察医制度がないこと、遺族の心理的抵抗から病理解剖の承諾が得られにくいことなど複合的な要因により、年間110万人の死亡者数に対し、解剖率は3%に満たないと報告されています。これに対して、Aiは、解剖に比較して人的負担および経済的負担が小さく、遺族の承諾を得やすい面があり、犯罪死の見逃し防止や正確な死因究明のために活用できるとして注目されてきました。このような背景のもと、すでにAiを実施している病院は35.8%に上るとの日医のアンケート結果が公表されています。
論 点
検討会の論点整理は次の通りです。
1.Aiの意義(【1】有用性と限界及び位置づけ、【2】対象となる遺体、【3】応用範囲)
2.実施体制等の整備(【4】施設・設備の要件、【5】人的要件、【6】医療機関内外の連携、【7】全国的な体制、【8】専門家育成、【9】運用基準)
3.その他(【10】資料保存と情報公開、【11】遺族への説明、【12】費用負担のあり方)
論点が多岐に亘るため、紙面の関係で、1.Aiの意義のみに絞って議論状況をご紹介します。詳しくは、厚労省のWebで議事録等が公表されていますのでご確認ください。
Aiの意義
【1】有用性と限界及び位置づけ
検討会は、当面、Aiに用いる機器としては、MRIの有用性は否定しないとしつつも、現在、全国の多くの医療機関に設置され一般化しているCTを用いることを想定していますが、Aiは体表面のみの観察よりも多くの情報が得られるため、解剖が許可されていない部位から一定の情報が得られるなど有用性が認められるとします。もっとも、臓器・組織や疾患の種類の違いや撮影・読影技術の違いによって診断精度に差が生じることもあり得るなどの限界があることに留意する必要があり、Aiのみで死因究明ができるわけでなく、病理解剖や体液分析、生前のモニタリング情報などと組み合わせて総合的な死因把握を行うための一手段として、解剖の代替ではない別次元の検査との位置づけをすべきとしています。
【2】対象となる遺体
そして、Aiを活用すべき対象としては、原則として自然死以外の死因が明らかになっていない遺体とします。導入に際しては、対象となる遺体によって実施場所を監察医務院などの専門施設に限定して行うことが望ましく、一線病院でのAiは、院内における病理解剖不承諾例や異状死、救急搬送時または搬送直後の死亡などの院内死亡を原則とするように対象を絞っておかないと臨床機能を損なう恐れがあるのではないかとの議論がなされています。
【3】応 用
診療行為関連死の死因解明への応用については、研究課題テーマとして試験的な運用を行って問題点等の検討を行うのが妥当ではないかとします。
また、異状死の死因究明に関する応用については、小児虐待に関して、骨幹端骨折は剖検では絶対に診断できないが画像では判明しうるものがあるなど、Aiの応用領域といえるが、適応や施行のガイドラインの未整備による混乱や小児画像専門医の圧倒的不足等が検討課題とされています。
まとめ
従来、「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」とは積極的に関連付けない議論であったところ、12月17日に資料として公表された事務局作成の報告書骨子(案)は、12月7日にモデル事業運営委員会が示した、今後Aiを実施して解剖の参考にするとの新たな運用案に平仄を合わせるように、モデル事業での活用について積極的に触れている点等について、委員から異論が出されるなどしており、年明けの最終的な報告書の公表を見守る必要があります。