これまでの調査分析は中止?!~モデル事業、存亡の危機

弁護士園田理(常任理事)(2011年6月センターニュース279号情報センター日誌より)

これまでの調査分析は中止?!

 日本医療安全調査機構の下で継続実施されている「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」では、去る4月22日、平成23年度第1回運営委員会が開催されました。

  同委員会では、それに先立って開催された理事会で、補助金の執行が東日本大震災の影響により不確実であることから、今後の事業運営方針として、

1) 前年度受け付けた事例は、本年11月末を目途に速やかに終了させ、

2) これまでの調査分析モデルでの事例受付は中止し、

3) 新たな調査分析協働モデルを東京・北海道地域で年度内に10例程度試行し、

4) 法制化の実現に際し、東京に新体制の事務局を設置する、

との方針が決定された旨報告がなされたようです(配布資料3)。

運営委員会からの再考依頼

 公表されている運営委員会の配布資料の末尾に、運営委員会委員長を務める樋口範雄氏から機構ないし理事会に対する再考依頼書が添付されています。

  樋口委員長は、再考依頼書の中で、この理事会決定について、次のような疑問を呈して、運営委員会の意見を聞くことなどを要請しています。

1) 医学界(医学会)が、事故分析と再発防止を図ることのできる仕組みが患者のためにも医師のためにも必要だと考えるに至り、日本医学会加盟の主要 19 学会が、平成16年9月に、「医療の安全と信頼の向上のためには、予期しない患者死亡が発生した場合や、診療行為に関連して患者死亡が発生したすべての場合について、中立的専門機関に届出を行なう制度を可及的速やかに確立すべきである。われわれは、…在るべき『医療関連死』届出制度と中立的専門機関の創設を速やかに実現するため結集して努力する決意である。」との共同声明を出した「原点」に立ち返る必要がある。もはや中立的専門機関の創設に向けて努力する必要はなくなったのか。

2) これまでモデル事業の意義も困難もじかに感じてきており、将来第三者機関ができることがあった場合に実際に中心になって働くはずの地域代表者らに、一切相談もせず、新たな方向性を打ち出し、彼らを「切る」のは適切か。

3) 通常、苦しい時代には、新たな試みは控えるのが賢明なのに、むしろ従来型をやめようとするのは、これに乗じてモデル事業自体を縮小させ、第三者機関の実現をあきらめたりやめようとしたりしているのではないか。

4) 予算執行の確証がなくとも、もう少し時期を見てから判断するのが通常の対処。予算面を国だけに頼ったモデル事業のあり方自体を考え直す契機にすることも考えられる。しかし、今回の理事会決定がそのどちらでもないのは疑問。

  開催された運営委員会においても、多くの運営委員から、理事会決定に対する異論が続出し、その結果、運営委員会として、理事会に対し決定の再考を求め、その結論が出るまではこれまでの調査分析モデルでの事例受付を継続する、ということで議論が取り纏められたようです。

果たして理事会の再考結果は?

 樋口委員長が指摘されたとおり、日本医学会加盟の主要 19 学会が出した、平成16年9月の共同声明で、「医療の過程において予期しない患者死亡が発生した場合や、診療行為に関連して患者死亡が発生した場合に、異状死届出制度とは異なる何らかの届出が行われ、臨床専門医、病理医及び法医の連携の下に死体解剖が行われ、適切な医療評価が行われる制度があることが望ましいと考える。…届出制度を統括するのは、…第三者から構成される中立的専門機関が相応しいと考えられる。このような機関は、死体解剖を含めた諸々の分析方法を駆使し、診療経過の全般にわたり検証する機能を備えた機関であることが必要である。」と述べられていた中立的専門機関のモデルとして、平成17年9月、モデル事業が開始されました。

  未だ中立的専門機関創設の目途が立っていない状況で、事例受付を中止してしまうことは、医療界が中立的専門機関創設へ向けての努力を放棄し、「原点」を葬り去ることに他なりません。

  また、「運営委員会では、本モデル事業の運営方法等の検討を行う」(厚労省HP)とされていましたが、理事会が運営委員会に事前に諮問等することなく事例受付中止を独断で決定してしまうのは、運営委員会の役割を無視するものと言うべきです。

  運営委員会の意見を踏まえ、理事会がどのような再考結果を出すのか、注目されます。