「特定看護師」法制化、混迷のまま議論は政治の場へ

弁護士松山健(嘱託)(2012年1月センターニュース286号情報センター日誌より)

看護師特定能力認証制度

 厚労省のチーム医療推進会議は、看護業務検討ワーキンググループ(WG) を設置し、チーム医療の推進において重要な要素となる看護業務について検討してきました。関連する「特定看護師(仮称)養成調査試行事業」(平成22年度開始。以下、「養成試行事業」)及び「特定看護師(仮称)業務試行事業」(平成23年度開始。以下「業務試行事業」)が現在も進行中です。 平成23年12月7日の第10回会議では、11月7日の前回会議でWGから提示された「看護師特定能力認証制度骨子(案)」に対する意見書が取りまとめられました。

背景及び目的

 現在、看護師が行っている医行為の中には「診療の補助」に含まれるか否か明確ではない、高度な知識・判断が必要とされるものが相当の範囲で存在します。米国では、医師の監督の下に処方や手術の補助を含む医行為を行うことができるPA(フィジシャン・アシスタント、医師助手)、医師の指示なくして初期診療と処方が一定範囲で認められるNP(ナース・プラクティショナー、診療看護師)という中間的な資格がありますが、これらを参考に、個々の医行為のうち、特定の医行為(特定行為)について、診療の補助の範囲に含まれることを明確にするとともに、その実施方法を看護師の能力に応じて定めることにより、医療安全を確保しつつ、適切かつ効率的な看護業務の展開を図ろうというのが制度趣旨です。以下、WGの示す制度骨子(案)を紹介します。

制度骨子(案)

1) 特定行為 

 骨子(案)は、特定行為を「医師又は歯科医師の指示の下、臨床に係る実践的かつ高度な理解力、思考力、判断力その他の能力をもって行わなければ、衛生上危害を生ずるおそれのある行為」とし、特定行為に関する規定を保健師助産師看護師法に置き、具体的内容(診療の補助の範囲内)については下位法令で規定する予定とします。

 【WGの示す 医行為4分類イメージ図】

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↑ |B1:特定行為                           |A:絶対的医行為

侵|例:褥瘡の壊死組織のデブリードマン 等           |例:手術執刀、処方 等

襲|→医師の包括的指示の下、認証を受けた看護師が実施 |→医師のみが実施

性 ========================================

 ・ |C:一般の医行為                          |B2:特定行為

行|例:尿道カテーテル挿入 等                     |例:脱水の判断と補正(点滴)等

為|→看護師一般が実施                        |→医師の具体的指示の下、安全管

                                                                                理体制整備の上、看護師一般が

                                                                                実施

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                     指示の包括性・判断の難易度→

2)特定能力認証

   厚生労働大臣は、以下の要件を満たす看護師に対し、「特定能力認証証」を交付するとします。従来仮称されていた「特定看護師」との名称は用いられていません。

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① 看護師の免許を有すること

② 看護師の実務経験が5年以上であること 

③ 厚生労働大臣の指定を受けたカリキュラムを修了すること 

④ 厚生労働大臣の実施する試験に合格すること 

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   カリキュラム及び試験の具体的な内容については、看護の基盤強化と医学的知識を学ぶための大学院修士課程相当(2年間)程度及び8ヶ月程度の2つの修業期間のカリキュラムを念頭に置き、専門分野を通じた教育を含め養成試行事業の実施状況等も踏まえ引き続き検討するとします。

3)特定行為の実施要件

(1) 厚生労働大臣から能力の認証を受けた看護師が、能力認証の範囲に応じた特定行為について、医師の指示を受けて実施する場合  (B1の類型)

  この場合には、医師による包括的指示(医師が患者の病態の変化を予測し、その範囲内で看護師が実施すべき行為をプロトコールを用いる等により事前に指示すること)があれば足りるとされます。 

(2) 看護師が、特定行為を実施しても衛生上危害を生ずるおそれのない業務実施体制で、医師の具体的な指示を受けて実施する場合 (B2の類型)

  行為のマニュアルを整備すること、特定行為それぞれに対する講習、技術トレーニング等を実施すること等が求められるものの、この場合、一般の看護師も特定行為を実施できるとされます。

  「衛生上危害を生ずるおそれのない業務実施体制」の具体例については、業務試行事業の実施状況等も踏まえ、引き続き検討するとされます。

骨子(案)に対する意見

 12月7日の会議での意見のとりまとめでは、現在の看護業務の中に、診療の補助に含まれるか不明確で、高度な知識や判断が要求される医行為があり、医療安全の観点から教育が必要との認識で一致することを確認するとともに、特定行為の明確化と実施する看護師の条件(教育や安全管理体制)を法制化することについては、賛成意見だけでなく、特定行為を法令で規定することで一般の看護師が行う業務ではないと誤認され、現在行われている行為が事実上実施されなくなる等現場に混乱をもたらしかねない、医師と看護師の責任関係が曖昧化する懸念がある等慎重意見も併記される内容となりました。

今後

 チーム医療推進会議の翌日の12月8日、社会保障審議会医療部会で検討がなされましたが、 骨子(案)が大筋で了承されました。厚労省は来年3月の法案提出を目指しており、今後、法制化の議論は政治の場に移ることになります。

  日本医師会が指摘するように、本制度は、介護職のたんの吸引等医行為の一部容認(2010年9月本欄)のように患者・家族ら国民から求められて出てきた議論ではなく、チーム医療推進に名を借りた医師不足対策との評価もあります。国民の生命に関わる重大な問題だけに、今後の慎重な国民的議論が望まれます。