恒常的な第三者機関を目指して~モデル事業の現状

弁護士園田理(常任理事)(2012年10月センターニュース295号情報センター日誌より)

社員拡大と企画部会設置

 診療関連死の調査分析モデル事業を継続実施している日本医療安全調査機構(調査機構)では、平成23年度、いつまでモデル事業を続けていくのか、むしろ調査機構においてなるべく速やかに医療事故調査の恒常的な第三者機関としての活動を開始するのがよいのではないか、との問題意識の下、第5回理事会において、社員拡大や企画部会設置などが決定され、同年度第4回運営委員会(本年3月19日開催)で報告されています。

  社員拡大というのは、日本の医療界全体の賛同を得て診療関連死調査分析事業を行っていくとの趣旨で、調査機構の社員をさらに勧誘し拡大していくということです。平成23年度中に既に基幹学会の19学会がすべて調査機構の社員に加入したとのことですが、平成24年度中にはさらに、臨床系の医学会など61学会に加え、日本歯科医学会、日本医療薬学会、日本看護協会のほかコメディカル関係4団体、合計68団体にも社員加入を呼びかける予定とのことです。

  企画部会設置というのは、モデル事業の運営委員会の下に、ワーキング部会として企画部会を設置するというものです。この企画部会では、具体的には、医療事故の調査分析を行う恒常的な第三者機関の、モデル事業の経験を踏まえた上での現実的で実現可能性のあるあり方を、厚労省で行われている「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」に対し、スピード感をもって提案すべく、検討を行うとのことです。

厚労大臣に対する要望

 恒常的な第三者機関を目指すとの方針の下、調査機構は、厚労大臣に対し、本年7月10日に、

①現行事業が、将来制度化される第三者機関に継承されること、

②制度化までは現行事業が平成25年度以降も補助金事業として継続されること(平成25年度予算は事業仕分けにより大幅に減額される前の平成22年並みの予算確保を要望)、

③全国的な事業展開に向けた取り組みが行える制度的、財政的措置を講じること

 を要望する書面を提出する予定だと、本年度第1回運営委員会(本年7月9日開催)で報告されています。

モデル事業の現況

 本年度第1回運営委員会では、モデル事業の現況などについても報告されています。

 事業実施地域が広がってきており、平成23年度には福岡地区に佐賀県支部が追加され、本年度から兵庫地区は神戸市だけでなく兵庫県全域で行われるようになったとのことです。

 モデル事業の受付状況は、平成22年度受付が33事例、平成23年度受付が26事例なのに対し、本年度受付は、年度が始まって3ヶ月経過したにすぎない時点で13事例、かなりハイペースのようです。

 死亡時画像診断の活用状況は、本年度受付13事例のうち、死亡時画像診断をモデル事業で実施したのが2事例、依頼医療機関で実施したのが3事例、実施していないのが8事例とのことで、まだ活用はあまり進んでいない様子です。

 協働型調査分析モデルが平成23年度から始まっており、本年7月9日時点で10事例あるとのことです。

企画部会の検討状況

 本年度第1回運営委員会では、企画部会での検討状況についても報告されています。

 企画部会は、本年6月18日に第1回部会が開催され、10月9日の第5回部会までの間に、医療事故の調査分析を行う恒常的な第三者機関の、現実的で実現可能性のあるあり方、具体的方策について、提言案を取りまとめる予定とのことです。

 日本医師会の「医療事故調査制度の創設に向けた基本的提言」をベースにしつつ、企画部会で出た意見や地域代表から出た意見を整理しながら検討を進めている状況が報告されています。

フィージビリティの強調

 本年度第1回運営委員会の議論では、企画部会での提言案は、実行可能性あるフィージブルな内容であること(フィージビリティ)が望ましいと強調されています。

 確かに、完璧な制度を創るべく議論するといつまでも議論がまとまらず空転し続ける危険があります。まずは小さくて不完全でも早く現実的なところで制度を創り出し、それを改良して育てていくことを考える方がいいのではないか、という面があります。ただ、フィージビリティを強調する余り、医療の安全と質の向上に本当に寄与しうるのか疑問ある制度に堕してしまう危険性もあります。

 調査機構は本年中に厚労省の検討部会宛に提言を出すと思われます。提言内容に注目したいと思います。