第三者機関への報告範囲はどうあるべきか~医療事故調査制度のあり方に関する議論状況

弁護士園田理(常任理事)(2013年2月センターニュース299号情報センター日誌より)

調査機構企画部会から提言出される

 昨年2月に厚労省に「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」が設けられ、医療事故調査の仕組みのあり方などについて議論が続けられています。
 当センターも、昨年6月、「医療安全機関(仮称)の創設を求める意見書」を公表し、医療事故情報の収集や調査のあり方について提言をしたところです。
 そのような中、診療関連死の調査分析モデル事業を行っている日本医療安全調査機構(「調査機構」)は、昨年10月号の本欄でご紹介したとおり、昨年3月に運営委員会の下に企画部会を設置し、同部会で、調査機構を医療事故調査を行う第三者機関に発展させていく前提で、そのような医療事故調査を行う第三者機関のあり方を検討して来ていました。そして、昨年10月19日、企画部会は、検討結果を報告書としてまとめ、運営委員会に報告しました。

調査機構企画部会提言の概要

 調査機構企画部会による提言の概要は、次のとおりです。
○医療機関の管理者は、診療関連死で検証が必要と判断した事例を、第三者機関に、原則24時間以内を目途に報告する。年間報告数は、300~600事例を見込む。
○これにより医師法21条の異状死届出を行ったものとする(A案。第三者機関への報告制度創設により診療関連死を異状死届出の対象外とするとのB案も併記されていますが、運営委員会の議論では、B案では、第三者機関が「診療関連死」か否か判断しなければならない、そのためその定義も明確化しなければならない、「診療関連死」が第三者機関への報告も異状死届出もなされなかった場合のペナルティーをどうするかも問題となる、等の理由でA案に賛同する意見が多く出されています)。
○第三者機関の全国7箇所のブロック事務局(総合調整医、調整看護師で構成)が、院内型(院内で調査分析を実施し、報告書を第三者機関に提出)、協働型(院内調査に第三者機関から調査評価医を派遣)、第三者型(第三者機関が調査分析を実施)のいずれの調査方法によるかを定める。院内型:協働型:第三者型の割合比は概ね6:1:1を見込む。
○調査に当たり解剖・死後画像撮影(Ai)を原則とする。
○報告した医療機関に調査への協力義務を設け、義務違反には公表等の対応を考慮する。
○調査結果の報告書は第三者機関の中央審査委員会に提出され、再調査の必要性などが審査される。
○調査結果は個人情報を除いて公表し、医療機関へのアラートの仕組みなども工夫する。
 一昨年7月に日本医師会が公表した医療事故調査制度に関する提言では、診療関連死を異状死届出の対象外とした上で、すべて院内型で事故調査を行い、院内の分析能力を超えるものに限り第三者機関に調査依頼する、との内容が提言されていました。患者家族から第三者機関への調査請求も可能とはされていましたが、第三者機関に報告や調査依頼がなされる事故事例を極めて限られたものとし、公表され再発防止に活かされる医療事故情報も限られたものとしてしまうという問題がありました。
 これに対し、調査機構企画部会の提言は、報告対象に当該医療機関が検証が必要と判断したとの限定を付すことで医療機関ごとに恣意的な判断がなされてしまわないかとの懸念が残るものの、広く診療関連死全般を第三者機関に報告してもらうこととし、その代わり、報告がなされた件については異状死届出義務を履行したものとして報告を促す、第三者機関に報告された事例については、第三者機関が、調査方法を決め、調査結果の報告を受け、個人情報を除いて公表し、再発防止に活かす、というもので、より広く医療事故情報を収集し、再発防止に活かすことができるよう配慮がなされていると言えます。この点で評価に値するものだと思います。

医療界からの異論

 この調査機構企画部会提言に対し、医療界に異論を出そうとの動きが見られます。
 四病院団体(日本医療法人協会、日本精神科病院協会、日本病院会、全日本病院協会)協議会では、本年1月、院内調査を原則とし、医療機関が重要だと判断した場合に限って、地域に設置される院外事故調に評価・分析を依頼するなどの内容の提言案がとりまとめられ、答申される予定と報じられています。
 また、全国医学部長病院長会議も、本年3月に、医療事故調査制度の案を公表する方針だと報じられており、やはり院内調査を原則とし、当事者に不服があって初めて第三者機関による調査がなされるとの仕組みが提案される模様とのことです。
 よりよい制度が創設されるよう、引き続き議論状況を注視していきたいと思います。