消費者安全委に学ぶ医療事故調査制度

弁護士堀康司(常任理事)(2013年4月センターニュース301号情報センター日誌より)

消費者安全調査委員会の発足

 昨年10月1日、消費者庁に消費者安全調査委員会(消費者安全委)が設置されました。消費者安全委は、消費者事故を調査し、原因を究明して再発拡大を防止する組織であり、他の行政機関による消費者事故調査結果を評価する役割も担うほか、内閣総理大臣に対する勧告や、関係行政機関への意見具申など権限も与えられています。

調査申出制度と対象の選定

 消費者安全委が扱う範囲は、航空・鉄道事故を除く生命身体事故とされており、製品等に起因するものだけではなく、役務による事故も対象とされています。調査対象は消費者安全委が選定します。指針では、公共性(個別事情によるものではなく、同種事故発生可能性があること)、被害の程度、単一事故による多数被害者発生可能性、多発性等の要素を総合判断して行うこととされています。
 また、消費者安全委に対しては、被害者に限らず何人でも、所定の申出書を提出する方法による調査申出が可能とされており、実際に、本年2月27日までの間に58件の申し出がありました。

調査の方法

 消費者安全委には、報告徴収、質問、物件提出・留置・保全、現場保全等の権限が与えられています。また、独立行政法人や事業者、民間団体、学識経験者らへの調査委託も可能とされています。調査の実務は、事故調査部会が行うこととされており、昨年12月27日時点では、消費者安全調査委員2名、臨時委員14名、専門委員24名が部会に所属しています。

医療事故調査との対比において

  消費者安全委は役務による生命身体事故をも扱いますので、医療事故も対象範囲に含まれています。選定の方針によれば、個別の医療過誤事件が調査の対象とされる可能性は乏しいと考えられますが、広く普及する医療機器の不具合や誤った用法等が関連する医療事故などについては、対象とされる余地は十分にあるはずです。そうした親和性にも鑑みた場合、医療事故調査制度の制度設計を考える上で、消費者安全委が行政に対する勧告や意見具申の役割を担っていることや、具体的調査実施に関して一定の権限が付与されている点は、非常に参考になるものと思われます。
 また、家庭内を含む幅広い領域で生じる消費者事故の情報を集約して再発防止へとつなげるために、被害者や遺族に限らず誰でも調査申出が可能とした上で、調査対象を選定するという点も、医療事故調査との関係で重要な示唆を含むものと考えられます。

院内調査に妥当性をもたらすには

 消費者安全法では、消費者安全委のメンバー自らが事故原因に関係する可能性がある場合や、原因事業者と密接な関係を持つ場合には、事故調査に従事してはならないとされています。かかる規定に照らせば、消費者安全委が原因事業者に調査を委託することは明文で禁じられてはいないものの、原因事業者への調査委託は行い得ないと解釈されますし、実際の運営でも原因事業者への委託は予定されていないようです。
 医療事故調査制度に関する議論では、第三者機関による調査に院内調査をどう位置づけるかが一つの論点となっていますが、医療事故を院内調査に委ねるというあり方は、消費者事故等の他の領域における事故調査の原則論からすると、中立性や透明性の観点に照らして非常に特異であると言えます。
 医療現場における自律的な安全文化の醸成の必要性や、医療事故調査を要する対象の数の見通し等に鑑みた場合、院内事故調査の必要性や重要性は否定されるものではありませんが、上記の原則論からすれば、第三者機関を設置しないまま院内事故調査に委ねるという制度設計では、中立性や透明性の確保は到底おぼつかないものと言わざるを得ません。また、本来は例外的であるはずの院内調査について、社会的にその妥当性が承認されるようになるためには、第三者機関から推薦される外部委員を過半数とするなど、中立性や透明性の確保のための一定の枠組みが不可欠となるはずです。
 今後も、他の領域の事故調査制度の実情にも視野を広げながら、医療安全に向けた制度設計が議論されることが期待されます。