「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」に対する提言

130823 「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」に対する提言
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「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」に対する提言

2013/08/23
医療事故情報センター
理事長 弁護士 柴田 義朗
名古屋市東区泉1-1-35 ハイエスト久屋6階
電話・052-951-1731 FAX・052-951-1732
http://www3.ocn.ne.jp/~mmic/ 

 医療事故情報センター(以下、当センターといいます)は、患者・家族の代理人として医療事故に関する事案を担当している全国の弁護士を正会員として構成されている団体です(設立:1990年・2013年8月1日現在正会員数659名)。
 当センターの正会員は、医療事故が繰り返され、多くの患者や家族が悲惨な被害を受けるという現実を、長年にわたって目の当たりにしてきました。このような医療事故被害の再発を防止することが、当センターの悲願です。
 全ての人には安全で質の高い医療を受ける権利があり、国はこの権利を保障するために、安全で質の高い医療を実現する責務を負っています。国がこの責務を果たすためには、独立性・中立性・透明性・公正性・専門性を備えた第三者機関を創設し、医療事故情報を収集して分析する事業と医療事故を調査する事業を実施する必要があります。そこで当センターは、かねてより、以下の意見書を発表し、かかる第三者機関の創設の必要性を提言してきました。

  • 医療安全機関(仮称)の創設を求める意見書(2012/6/13提出)
  • 「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」に対する意見について(2008/9/3提出)
  • 「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案-第三次試案-」に対する意見について(2008/5/8提出)
  • 「診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する試案-第二次試案-」に対する意見書(2007/11/2提出)
  • 「診療行為に関連した死亡の死因究明等のあり方に関する課題と検討の方向性」(平成19年3月厚労省試案)に対する意見書(2007/4/19提出)

  我が国においては、1999年に相次いで発生した痛ましい医療事故をきっかけとして、ようやく医療安全の重要性が認識されるようになり、国による医療安全 に向けた取り組みが開始されました。医療界からも、第三者機関の必要性が指摘されるようになり、2004年9月30日には、日本医学会に加盟する主要19 学会が、医療関連死の届出制度と中立的専門機関の創設を速やかに実現するために結集して努力する決意を示す声明を公表しました。そして2008年6月に は、厚生労働省によって医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案がとりまとめられました。しかしながら、現在もなお、医療事故情報の収集・分析と医療事 故の調査を担う第三者機関は設立されていません。
 こうした中、2013年5月29日に、厚生労働省の医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会において、「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」(以下、「基本的なあり方」といいます)がとりまとめられました。
 この「基本的なあり方」において、第三者機関を設置する方針が示されたことについては、国が医療安全を実現する責務を果たすための大きな第一歩をようやく踏み出したものと、当センターは評価しています。
 しかしながら、「基本的なあり方」に示された民間組織としての第三者機関の機能や組織、院内調査の内容等については、不十分な点や、現時点では具体化されていない点が多々あります。これらの点については、引き続き十分な議論を重ねつつ具体化を進める必要があります。
 そこで、当センターは、医療事故に係る調査の仕組み等を法制化する際に必要と考えられる点について、以下のとおり提言します。

第1 第三者機関の担うべき機能について

 「基本的なあり方」は、第三者機関の業務として以下の5点を挙げています。
    ① 医療機関からの求めに応じて行う院内調査の方法等に係る助言
    ② 医療機関から報告のあった院内調査結果の報告書に係る確認・検証・分析
    ③ 遺族又は医療機関からの求めに応じて行う医療事故に係る調査
    ④ 医療事故の再発防止策に係る普及・啓発
    ⑤ 支援法人・組織や医療機関において事故調査等に携わる者への研修
 しかしながら、医療事故の調査の中立性・透明性・公正性・専門性を確保するためには、第三者機関が次の業務についても担当することが不可欠です。

1 医療事故情報収集等事業

 第三者機関が医療事故の再発防止策を検討するためには、我が国で発生する医療事故の情報をあまねく収集したうえで、これを調査分析する必要があります。第三者機関の業務の中核は、事故情報の収集と医療事故の調査の二つであるはずです。
 しかしながら「基本的なあり方」においては、第三者機関が医療事故の届け出先とされているので、第三者機関が担うべき機能として医療事故情報の収集業務を掲げるべきです。具体的には、現在、日本医療機能評価機構が実施する医療事故情報収集等事業を、早期に第三者機関に移管し、事故情報を一元的に集約できる体制とすべきです。

2 院内調査の方法に関する主体的な助言・指導業務

 「基本的なあり方」では、第三者機関が院内調査の方法等に係る助言を行うのは、医療機関から求めがあった場合に限定されています。これは極めて不適切です。院内調査に真剣に取り組もうとしない医療機関は、第三者機関に助言を求めません。現在の制度設計では、助言や指導を最も必要とする医療機関に対して、第三者機関が全く役割を果たせず、院内調査の中立性・透明性・公正性・専門性が実現されない結果となることは明らかです。
 従って、第三者機関には、医療機関からの助言の求めの有無に関わらず、主体的に助言・指導を実施する権限を与える必要があります。
 具体的には、医療機関は、院内調査委員会の構成や検討スケジュール等といった調査方法の概要について、事故発生から早い時点で(遅くとも1ヶ月以内に)第三者機関に報告することを必須とすべきです(「基本的なあり方」においては、医療機関が遺族に対して調査の方法を記載した書面を交付することとされていますので、医療機関はこの書面を第三者機関に提出することで容易に報告を行うことが可能です。医療機関に第三者機関への院内調査の方法の報告を義務づけたとしても、医療機関に無用な負担を課すことにはなりません)。
 なお、調査方法のうち、解剖実施に関する方針については、事故発生の届出と同様に、遅くとも事故発生から24時間以内に第三者機関へ報告することを必須とし、適切な解剖の実施に向けた第三者機関による主体的な助言や指導の機会が失われないようにすべきです。
 そして、第三者機関は、医療機関から報告された調査方法(解剖実施の方針を含む)を審査し、調査方法が不適切である場合には、医療機関からの助言の求めの有無にかかわらず、第三者機関が主体的に助言・指導を行い、医療機関に対して是正を求めるべきです。仮に、第三者機関による助言や指導によっても調査方法が是正されない場合には、院内調査の結果を待つことなく、第三者機関が自ら調査することを可能とすべきです。
 また、第三者機関は、事前の助言や指導にとどまらず、院内調査の開始後に調査方法が不適切であるという事実が判明した場合にも、適宜、助言や指導を行うという役割を担う必要があります。

3 支援法人・組織に関する業務

(1)登録審査・再評価業務

 「基本的なあり方」では、院内事故調査委員会を外部から支援する法人等を「支援法人・組織」としてあらかじめ登録する仕組みを設けることとするとされています。
 このような支援法人・組織自体にも中立性・透明性・公正性・専門性が確保されていなければならないことはいうまでもありません。
 したがって、支援法人・組織の登録にあたっては、その法人・組織自体の中立性・透明性・公正性・専門性を十分に審査しうる要件を設定した上で、第三者機関が厳正な登録審査を行うことにより、支援法人・組織の登録制度の中立性・透明性・公正性・専門性を担保すべきです。
 この点に関して「基本的なあり方」では、支援法人・組織の例として都道府県医師会が挙げられていますが、極めて不適切です。都道府県医師会は、日本医師会及び引き受け保険会社とともに、日本医師会医師賠償責任保険を運営する主体であり(※)、都道府県医師会が院内調査に関わることは、利益相反に該当し、院内調査の中立性・公正性が阻害されます。そのため、当センターは、都道府県医師会を支援法人・組織に登録することには強く反対します。


       ※日本医師会サイト(http://www.med.or.jp/doctor/other/000227.html)より引用

もしもの時のための医師の賠償責任保険を設けています。
万一、医療事故が発生したときの保険として「日本医師会医師賠償責任保険」があります。これは、会員の医療事故によって紛争が起きた場合、賠償と紛争の解決を本会、都道府県医師会、保険会社の3者がバックアップする制度です。


 また、支援法人・組織による外部支援の実施状況については、一定の情報が逐次開示されることが必要です。第三者機関は、定期的に支援法人・組織に対し、外部支援実施状況についての報告を求め、その中立性・透明性・公正性・専門性について再評価を行い、不適切な点については、第三者機関が支援法人・組織に対して是正に向けた助言や指導を行う権限を持つべきです。そして万一、不適切な点が是正されない場合には、第三者機関が支援法人・組織の登録を取り消すことができるようにすべきです。

(2)具体的事例に対するマッチング業務

 個別の事故に対して支援法人・組織が外部支援を行う際には、第三者機関が、事例の特性に応じて適切な支援法人・組織を選択し、個別事例と支援法人・組織とのマッチングを行うべきです。
 仮に第三者機関が関与しないまま、事故を届け出た当該医療機関が支援法人・組織を随意に選択できる制度とされた場合には、外部支援に期待される中立性・透明性・公正性・専門性は形骸化しかねず、調査結果に対する遺族や社会の信頼を得ることができません。個別事例における支援法人・組織の選択には、第三者機関が関与する制度設計とすべきです。

4 個別事例における再発防止策の検証業務

 医療事故の原因分析が行われたとしても、実際に、当該医療機関において、再発防止策が実施されなければ、医療の安全は実現されません。また、一定期間後に、当該医療機関が自ら再発防止策の有効性を検証し、その結果を第三者機関に報告させる必要があります。そして、検証の結果、再発防止策がなお不十分であれば、より有効な再発防止策を検討する必要があります。
 しかしながら「基本的なあり方」には、第三者機関の担う業務として、再発防止策の実施状況や実施後の有効性の評価といった事後的な検証業務が明記されていません。第三者機関には、一般的な再発防止策の普及・啓発業務に加えて、個別事例における再発防止策の検証業務をも担当させる必要があります。

5 国・地方自治体・医療関係団体等に対する提言業務

 「基本的なあり方」では、医療事故の再発防止策に係る普及・啓発が第三者機関の業務とされています。しかし、医療を安全にするためには、普及・啓発活動だけでは不十分であり、政策的な対応による制度改善が不可欠です。
 そのため、第三者機関は、普及・啓発にとどまらず、医療安全に向けた政策提言を定期的に行うことをも業務とすべきです。そして、第三者機関の提言を、国・地方自治体・医療関係団体等が真摯に受け止め、医療安全の実現に必要な施策が実施されるというサイクルが構築されるべきです。

第2 第三者機関への事例の届出について

1 全医療機関が診療行為に関連した死亡事例を第三者機関に届け出ることについて

 すでに述べたとおり、医療の安全を実現するためには、まず何よりも、幅広く事故情報を収集して集約する必要があります。しかしながら、現行医療法では、特定機能病院等の一部の医療機関に医療事故の届出義務が課されているものの、すべての医療機関における事故情報を公的に集約する制度は、今なお存在しません。
 こうした中、「基本的なあり方」において、すべての医療機関が第三者機関に対して診療行為に関連した死亡事例を届け出る方針が示されたことは、医療安全の実現に資するものとして、高く評価されるべきと考えます。

 そしてこの医療事故情報収集制度を実効あるものとするためには、届出は任意ではなく、法的義務とするべきです。

2 死亡事例以外について段階的に拡大する方向で検討することについて

 「基本的なあり方」では、死亡事例以外の事故についても段階的に調査対象としていく方針が示されています。医療安全の実現には、死亡事故以外の医療事故情報についても幅広く集約することが不可欠です。当面は、死亡事故から制度を整備するとしても、早急に制度運営を軌道に乗せた上で、重篤な後遺症が残った事例や、医療安全のための教訓を含む事例等を含むように、届出範囲を迅速に拡大していくことが強く望まれます。

3 届出の対象について

(1)発生が予期された場合の届出の必要性について

 「基本的なあり方」は、調査する対象を「診療行為に関連した死亡事例(行った医療又は管理に起因して患者が死亡した事例であり、行った医療又は管理に起因すると疑われるものを含み、当該事案の発生を予期しなかったものに限る)」と定義し、この定義に該当する事例を第三者機関に届け出ることとしています。この定義に従うと、当該事案の発生を予期できた場合は、第三者機関への届出を要しないこととなります。
 しかしながら、当該事案の発生を予期できた場合でも、行った医療又は管理に起因して患者が死亡したのであれば、その情報を集約し、原因分析を行えば、同種の事例に共通する要因や背景事情が明らかとなって、患者の死亡を回避する方策が明らかとなりうるはずです。実際に、産科医療補償制度においては、当該事案の発生を予期できたか否かに関わらず、広く分娩時脳性麻痺の事例情報が収集された結果、共通する背景事情が次第に明らかとなりつつあることからも、当該事案の発生を予期できた場合についても情報を収集する必要性が示されています。
 また、予期できたか否かという主観的要素を届出の基準とすると、当該医療機関の意向によって届出の範囲が左右される余地が大きく残されることとなり、医療事故届出、調査制度の透明性や公正性が妨げられるおそれがあります。
 以上から、当該事案の発生が予期されたか否かに関わらず、行った医療又は管理に起因して患者が死亡した事例、あるいは起因すると疑われる事例は、一律に届出の対象とされることが望まれます。
 ただ、本制度創設の段階では、当該事案の発生が予期された事例を届出や調査の対象外とするのであれば、少なくとも、「死亡という結果がごくわずかでも予期できたと言える以上、届出は不要である」といった誤解を避けるために、単に死亡の可能性が完全には否定できないというだけの理由では、当該事案の発生を予期していたとは言えないことを、定義上で明記すべきです。また、仮に死亡という結果自体は予期されていた場合であっても、死亡に至る主要な経過を予期していなかった場合(例:生命予後不良と考えられる状態で搬送されてきた患者が、院内で移動中にストレッチャーから転落し、その外傷によって患者が死亡したと疑われる場合等)は、「当該事案の発生を予期しなかったもの」に該当することをも、定義上に明記すべきです。
 なお、患者の死亡という結果の重大性に鑑みれば、当該事案の発生が予期された事例についても、院内調査及び第三者機関による調査の対象とされることが望まれます。ただ、当該事案の発生が予期されたすべての事例の調査を医療法上の法的義務とするか否かについては、当面の間、当該事案の発生が予期された事例とは異なる扱いとした上で、当該事案の発生が予期された事例の届出を通じて得られた情報に基づいて医療法上の義務として調査を行う事例の範囲の拡大を検討するという段階を踏むことも、考慮の余地があるものと考えます。

(2)不作為に起因する事例の扱いについて

 医療事故の原因となる診療行為には、作為と不作為の二種類があります。医療の安全と医療の質の向上を実現するためには、不作為による死亡事例(必要な治療行為が行われないことによって死亡した事例)についても届出の対象とし、調査を実施することが不可欠です。
 「基本的なあり方」においても、あえて不作為による死亡事例を除外するとはされていませんので、不作為による死亡事例についても当然に届出及び調査の対象とする方針であると理解されますが、今後の制度運用において疑義を生じないようにするために、不作為に起因する患者の死亡も届出及び調査の対象であることを明記することが必要です。

4 届出の手順について

 「基本的なあり方」では、厚生労働省が第三者機関への届出に関してガイドラインを設けることが予定されています。
 そのガイドラインには、最低限、以下の点が明記されるべきです。

(1)第三者機関に対する届出の主体について

 「基本的なあり方」においては、医療機関が届出の主体とされています。しかし、届出の中立性・透明性・公正性を確保するためには、遺族からの届出についても、第三者機関が受け付ける制度とするべきです。

(2)届出の期間について

 死亡事例の調査を適切に実施するためには、まずなによりも、中立性・透明性・公正性・専門性の確保された方法で解剖が実施されることが重要です。解剖の時期を失するようなことがあれば、事例の届出を受けた第三者機関が、当該医療機関からの助言の要請に適切に対応することは不可能となります。そのためにも、事例の発生から届出までの期間には制限を付すべきです。
 第三者機関が解剖の方法等について適切な助言を行うためには、事例発生から遅くとも24時間以内には届け出ることを、医療機関に義務づける必要があります。

第3 院内事故調査の中立性・透明性・公正性・専門性の確保について

 「基本的なあり方」では、院内事故調査の手順について、厚生労働省がガイドラインを策定することとされています。そのガイドラインには、院内事故調査の中立性・透明性・公正性・専門性を確保するために、最低限、以下の点が明記される必要があります。

1 外部の医療専門家の関与が必須であることについて

 「基本的なあり方」では、医療機関は調査対象事例を第三者機関に届け出た上で、院内事故調査委員会を設置して速やかに院内調査を行い、当該調査結果について第三者機関に報告するとされています。このように、事故の発生した医療機関において院内調査を行う場合には、中立性・透明性・公正性・専門性の確保が特に重要となります。
 そのため「基本的なあり方」では、院内事故調査委員会が外部の医療の専門家の支援を受けることが原則とされています。
 この点は、中立性・透明性・公正性・専門性の確保に資する方針として高く評価できるものであり、ガイドラインにおいても、外部医療専門家の関与が必須であることが明記されるべきです。

2 外部委員が過半数を占めるべきであることについて

 院内事故調査委員会の中立性・透明性・公正性・専門性を実現するためには、外部の医療専門家の関与を原則とするだけでは十分とは言えません。院内事故調査委員会の構成員の大半が当該医療機関の関係者である場合には、少数の外部の医療の専門家の関与があったとしても、中立性・透明性・公正性・専門性を十分に確保することは困難だからです。 そのため、少なくとも院内事故調査委員会の構成員の過半数は、当該医療機関の関係者以外から選任することを要するとすべきです。

3 医療関係者以外の外部委員の関与の必要性について

 「基本的なあり方」は、院内事故調査委員会に医療以外の分野の外部専門家による支援については、必要に応じて行われるものとされています。
 しかしながら、事故調査の中立性・透明性・公正性・専門性を十分に確保するためには、医療関係者ではない委員、とりわけ、患者の視点を踏まえた意見を述べることができる弁護士の選任が重要です。
 また、医療事故調査においては、診療録等の資料や医療従事者や遺族といった当事者のヒアリング結果から、診療経過に関わる事実を適切に抽出・認定する必要があります。弁護士は事実認定作業の専門家であり、診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業や、産科医療補償制度における事故調査においても、弁護士が調査に加わることの有用性が高く評価されています。
 以上のような理由により、院内事故調査委員会には、医療以外の分野の外部専門家が広く選任される制度設計とすべきであり、とりわけ、患者の視点を踏まえた意見を述べることができる弁護士を原則として選任すべきです。

4 院内事故調査委員会の委員長は外部委員が就任すべきであることについて

 院内事故調査委員会の事務局は、当該医療機関内に置かれることがほとんどです。そこで、院内事故調査委員会の中立性・透明性・公正性・専門性を担保するために、外部委員が委員長に就任することを必須とすべきです。

5 委員に対する院内関係者からの働きかけの禁止について

 院内事故調査委員会は当該医療機関内で開催されます。また、院内関係者からも委員が選任されます。そのため、当該医療事故に関係した医療従事者や、当該医療機関の管理・運営に関わる関係者らが、調査委員会の委員に対し、委員会の議事等について、調査委員会の委員に接触して働きかけが行われた場合、院内事故調査委員会の中立性・透明性・公正性・専門性が著しく阻害されることは明らかです。そのため、ガイドラインには、何人も、院内事故調査委員会の議事に関し、委員に対して働きかけてはならないことを明記するべきです。

6 遺族からの事情の聴き取りを行うべきであることについて

 院内事故調査を実施する際には、関係者から、幅広く情報を集約することが不可欠です。被害者の遺族は、被害者に最も身近な存在として、被害者の症状等に関する重要な事実関係を直接認識しうる立場にあります。また、医療機関から被害者への説明に同席することや、場合によっては、被害者に代わって重要な説明と同意に関与することも少なくありません。
 このように、被害者の遺族は、診療経過に関する重要な事情を知りうる立場にありますので、被害者の遺族からも事情を聴き取ることを原則とすべきです。

7 遺族に診療記録一式の写しを交付すべきであることについて

 院内事故調査においては、診療記録が最も重要な資料とされます。そのため、院内事故調査の透明性を確保するためには、遺族に対してすべての診療記録の写しを早期に交付することが何よりも重要です。また、遺族から正確に事情の聴き取りを行う際には、診療記録に照らして記憶を喚起することが必要です。
 これらの理由により、院内事故調査の開始と同時に、遺族に対して診療記録の写しが交付されるべきです。

8 遺族の傍聴の希望は最大限尊重されるべきであることについて

 院内事故調査は、遺族にとって最愛の家族の死に関わる事柄を対象とします。調査の推移を見守りたいという希望は、遺族の心情に照らして当然のものです。院内事故調査の透明性を確保する視点からも、遺族の傍聴の希望は最大限尊重されるべきです。

9 報告書完成までの期間について

 「基本的なあり方」では、報告書完成までの期間についての言及がありませんが、原則として事故の発生から、一定期間(例:6ヶ月以内)に報告書が完成し、第三者機関に報告がなされる必要があります。
 第三者機関は、一定期間以内に報告書が完成しない事例については、医療機関に対して調査状況の報告を求めるとともに、必要な支援等を行い、早期の報告書完成を促進すべきです。

第4 第三者機関による調査について

1 独自調査について

 上述のとおり、第三者機関からの助言や指導によっても、調査方法等が適切に是正されない場合には、院内調査の結果を待たずに、第三者機関が自ら調査を行う余地を認めるべきです。

2 第三者機関における調査委員会の組織や調査の進め方等について

 第三者機関における調査においても、中立性・透明性・公正性・専門性を確保することは不可欠であり、医療関係者以外の第三者(とりわけ患者の視点を踏まえて意見を述べることができる弁護士)を委員に選任することが必要です。
 また、第三者機関による調査にあたっても、遺族からの事情聴取、遺族への診療記録の写しの交付、遺族による傍聴については、第3において院内事故調査委員会の場合について述べたことと同様の対応が必要となります。

3 第三者機関による調査の費用について

 第三者機関による調査の費用を遺族に負担させた場合、不適切な調査結果に対する不服の申立に対する抑制的な効果が生じるため、遺族に費用負担させる制度設計には反対します。仮に一部の費用を負担させるとしても、「基本的なあり方」の述べるとおり、申請を妨げることとならないような十分な配慮が必須です。
 なお、院内調査が適切に実施されないために、第三者機関が自ら調査を実施する場合には、遺族に対して費用負担を求めることができない制度設計とすべきです。

第5 第三者機関の組織のあり方について

1 地方組織の必要性

 調査の対象件数は、年間1000件を超えることが予定されています。第三者機関が中央に設置された単一の組織のみで業務を行った場合、個別事故の調査に対する第三者機関の関与が著しく形骸化する結果となることは明らかです。
 従って、第三者機関には、中央組織の下に、地方組織を設置することが不可欠です。

2 地方組織はブロック単位で設置すべきであること

 国内には、1県1医大というような地域もあるため、都道府県単位で地方組織を設置すると、地方組織の中立性・透明性・公正性・専門性の維持が難しくなります。また、特殊な領域の医療行為については、都道府県単位では専門家が存在しない地域もあり得ますので、専門性確保のためにも、都道府県よりは大きな地域単位で地方組織を設置する必要があります。事務コストの面でも、47の地方組織を設置するよりは、複数の都道府県を集約した範囲毎に地方組織を設置することが合理的です。
 そのため、地方組織はいわゆるブロック単位で設置すべきです。具体的には地方厚生局の設置エリア等を参考としつつ、地域性や交通の便等にも配慮し、全国で8~10箇所程度の地方組織を設置することが望ましいと考えます。

3 地方組織の設置にあたっては、診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業の人材を活用すること

 診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業を実施する地域では、同事業の実践を通じて、医療事故の調査の担い手となりうる人材がすでに養成されています。制度を効率的に立ち上げるためにも、地方組織を設置する際には、同モデル事業の組織や人材を十分に活用し、同事業の貴重な経験を第三者機関が継承できるようにすべきです。

第6 十分な予算措置と解剖制度

 医療事故情報の収集と調査分析事業を実効的な制度として立ち上げるには、十分な予算措置が必須です。医療の安全は、すべての国民の生命、健康、ひいては幸福に関わる重要事項であり、上述のとおり、その実現は国の責務であるからです。
 また、十分な事故調査には、解剖の実施が必須であり、各地で、これを可能とする制度整備を、十分な予算措置を伴う形で進めていくことが必要です。