産科医療補償制度の補償対象拡大へ~制度見直しに関する評価機構案と医療保険部会での議論

弁護士園田理(常任理事)(2014年2月センターニュース311号情報センター日誌より)

評価機構による制度見直し案

 日本医療機能評価機構(評価機構)の産科医療補償制度運営委員会では、平成24年2月より制度見直しの検討がなされてきていましたが、去る平成25年11月27日、検討結果が最終報告書として取りまとめられました。
 この報告書により提案されている制度見直しの概要は、以下のとおりです。
◆補償対象となる脳性麻痺の基準
・原則一律補償対象とする一般審査基準を、在胎週数33週以上かつ出生体重2,000g以上から、在胎週数31週以上かつ出生体   重1,400g以上に拡大
・個別審査で補償対象とする個別審査基準を、在胎週数28週以上で、(1)(2)いずれかに該当する場合とする(下線部が見直し変  更箇所)
(1)低酸素状況が持続し臍帯動脈血中の代謝性アシドーシス(酸性血症)の所見が認められる場合(pH<7.1)。
(2)低酸素状況が常位胎盤早期剥離、臍帯脱出、子宮破裂、子癇、胎児母体間輸血症候群、前置胎盤からの出血、急激に発症し  た双胎間輸血症候群等により起こり、引き続き、次の①~⑧のいずれかの所見が認められる場合
 ①突発性で持続する徐脈
 ②子宮収縮の50%以上に出現する遅発一過性徐脈
 ③子宮収縮の50%以上に出現する変動一過性徐脈
 ④心拍数基線細変動の消失
 ⑤心拍数基線細変動の減少を伴った高度徐脈
 ⑥サイナソイダルパターン
 ⑦アプガースコア1分値が3点以下
 ⑧生後1時間以内の児の血液ガス分析値(pH<7.0)
・上記各基準見直し後の補償対象者数は、年間635人と推計(推定区間481~789人)
◆掛金水準等
・掛金水準は、「見直し後制度において必要な保険料水準」から「剰余金の充当額」を差し引いた水準とする
・「見直し後制度において必要な保険料水準」は2.7万円程度(ちなみに、上記基準見直しをせず現行基準のままの場合は2.2万円  程度)
・保険会社から運営組織に返還される剰余金の見込額は、平成21年契約から平成26年契約の6年分で、補償対象者数を仮に毎  年481人とすると、合計約800億円
・剰余金の充当期間、充当額(充当期間20年だと0.4万円程度、15年だと0.5万円程度、10年だと0.8万円程度)は、保険料水準が確 定する段階で決定

医療保険部会で異論

 この評価機構による制度見直し案について、去る平成25年12月5日、厚労省の社会保障審議会医療保険部会で審議がなされました。同部会で審議されたのは、産科医療補償制度では、分娩機関が運営組織(評価機構)に1分娩ごとに掛金を支払っていますが、この掛金分は出産費用に価格転嫁され、その分妊婦には出産育児一時金が増額されて支給されるという形で、産科医療補償制度が実質的には公的な医療保険で賄われているからです。
 上記部会では、出産育児一時金を増額支給する立場にある全国健康保険協会、健康保険組合連合会、国民健康保険中央会といった団体の役員の委員を中心に、評価機構による制度見直し案に対し、概ね次のような疑問・意見が相次いで出されました。
・在胎週数33週と31週とで脳性麻痺発生率に統計学的有意差が認められなかったというだけで31週まで一律補償対象とするのが適当というのは、論理に飛躍あり
・沖縄県のデータに基づき補償対象者数の推計を行っているが、沖縄県が全国を代表する標本と言えるか
・現在も在胎週数28週以上については個別審査で補償対象とすることが可能であり、敢えて一般審査基準を見直さねばならない緊急性、必要性はあるか
・制度にリスクがないことが明らかになったのに、民間保険会社が制度変動リスク対策費の名の下に公的資金から利益を得るのは不適当
 結局、平成25年12月5日の医療保険部会では了承が見送られました。

補償対象拡大へ

 公的資金が投入されている以上、制度見直しに納得いく理由が必要だというのは理解でき、とりわけ損保会社が公的資金で多大な利益を上げるのにはきちんと歯止めをかけるべきです。
 しかし、脳性麻痺発症の原因分析がなされ、同様の事故再発防止策がまとめられ、産科医療の安全や質の向上が図られるという産科医療補償制度の意義、重要性を考えますと、できる限り制度の対象が拡大される方向で見直しが図られるべきです。
 平成26年1月20日の医療保険部会で再び制度見直しが議題に挙げられ、報道によれば、在胎週数を31週以上から32週以上に修正することで補償対象拡大が了承されたようです。補償対象拡大方針が決まったのは、一先ず評価できるのではないかと思います。