いよいよ医療版事故調の創設が間近に

弁護士松山健(嘱託)(2014年3月センターニュース312号情報センター日誌より)

法律案提出

 「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」(以下「あり方」)が平成25年5月29日に厚労省から公表されていましたが、平成26年2月12日、「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律案」の一部として、医療事故調査制度に関する法律案(以下「法案」)が、平成27年10月以降の施行予定で第186回国会に提出されました。法案では「あり方」の「第三者機関」は「医療事故調査・支援センター」に、「支援法人・組織」は「医療事故調査等支援団体」との名称となりました。
 法案は、概ね「あり方」をそのまま法文化した内容となっています。したがって、「あり方」に関して指摘されてきた問題点はほぼそのまま引き継がれる格好になります。以下、紙面の関係で法案の一部のみをご紹介しますが、他の論点については医療事故情報センターホームページにて「『医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方』に対する提言」をご覧いただければと思います。

調査の対象

 かねてより医療事故としての報告の要否の判断に際して医療機関の解釈・評価を要する「予期」を基準にすることは問題とされているところですが、法案第6条の10では、病院等の管理者が医療事故調査・支援センターに報告すべき医療事故は「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったものとして厚生労働省令で定めるものをいう」と「あり方」の「当該事案の発生を予期しなかったもの」を「予期しなかったものとして厚生労働省令で定めるもの」という形で規定しています。単に「予期」の有無の判断を医療現場に丸投げするわけにもいかず、厚生労働省令で具体例を例示する趣旨かと思われますが、医療現場での判断に混乱を招かない例示は相当困難といわざるを得ません。

調査ルート

 法案は、条文の配置上、原則的に「あり方」同様、院内調査を原則とする規定となっていますが、第三者機関が自ら行う調査(以下「独自調査」)については若干、表現の仕方に相違が見られます。
 独自調査について「あり方」では、「院内調査の実施状況や結果に納得が得られなかった場合など、遺族又は医療機関から調査の申請があったものについて、第三者機関が調査を行う」とし、参考図解での調査の流れ図でも番号を付して院内調査の先行が示され、独自調査の二次的な位置づけが明確にされていました。これに対して、法案第6条の17では「医療事故調査・支援センターは、医療事故が発生した病院等の管理者又は遺族から、当該医療事故について調査の依頼があったときは、必要な調査を行うことができる」とし、必ずしも院内調査の先行を要件とはせず、病院等の管理者や遺族からの調査依頼がある場合に独自調査を認める規定となっており、院内調査と独自調査の二つのルートによる運用を可能とする含みが残されたと見ることができます。
 小規模の医療機関では、支援団体のフォローを受けたとしても、負担が大きく実質的に当該医療機関が調査主体として機能することが期待できない事例も想定されます。また、社会的に耳目を引くような事故等、性質上院内調査にそぐわない事例もあり得ます。そのような事例でも硬直に院内調査の先行を貫いていては、院内調査の実施後に遺族や当該医療機関から独自調査の申請がなされる事例が頻発し、院内調査と独自調査の二段階制が形骸化することも考えられるので、事故の種類や態様、医療機関の規模等の実情に応じて、医療機関や遺族の希望を踏まえて院内調査と独自調査を使い分けられる余地を残すことには意義があると思われます。

これからが本番

 法案提出まで紆余曲折があったところ、法案提出に漕ぎ着けたことは、法制化に向けた大きな前進と評価でき、この法案のこれからの審議を見守る必要があります。そして、法案では、前記の「当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったもの」をはじめとして多くの事柄が厚生労働省令の定めに委ねられているばかりか、院内調査の手順は法案では全く定められておらず、今後、厚生労働省令で定まるガイドラインが極めて重要となりますので、こちらも厳しく見守っていく必要があります。