医療事故調査・支援センターの源流を振り返る~19学会声明の志は継承されているか?

弁護士堀康司(常任理事)(2014年4月センターニュース313号情報センター日誌より)

法案の源流となった19学会共同声明 

 2004年9月30日、日本医学界に加盟する主要19学会は、1999年に発生した複数の重大な医療事故を契機として、医療安全を確保するための仕組みが欠けていることが社会的に認知されるようになったことを受け、「診療行為に関連した患者死亡の届出について~中立的専門機関の創設に向けて~」と題する共同声明を発表しました。それから10年近い歳月が経過しましたが、政府が今国会に提出した医療法改正法案には、医療事故調査・支援センターに診療関連死を届け出る制度の創設が盛り込まれており、この4月から5月にかけて国会審議が本格化する予定です。
 今回の法案は、10年前の19学会共同声明の志を継承するものとなっているでしょうか。少し長くなりますが、声明の一部を引用します(太字は筆者による)。

透明性に基づく信頼の向上

「医療事故が社会問題化する中、医療の安全と信頼の向上を図るための社会的システムの構築が、重要な課題として求められている。医療安全対策においては、医療の過程における予期しない患者死亡や、診療行為に関連した患者死亡の発生予防・再発防止が最大の目的であり、これらの事態の原因を分析するために、死亡原因を究明し、行われた診療行為を評価し、適切な対応方針を立て、それを幅広く全医療機関・医療従事者に周知徹底していくことが最も重要である。このためには、こうした事態に関する情報が医療機関等から幅広く提供されることが必要である。

  また、医療の信頼性向上のためには、事態の発生に当たり、患者やその家族のみならず、社会に対しても十分な情報提供を図り、医療の透明性を高めることが重要である。そのためには、患者やその家族(遺族)が事実経過を検証し、公正な情報を得る手段が担保される情報開示が必要である。」

検証機能を持つ中立的専門機関の創設

「医療の過程において予期しない患者死亡が発生した場合や、診療行為に関連して患者死亡が発生した場合に、異状死届出制度とは異なる何らかの届出が行われ、臨床専門医、病理医および法医の連携の下に死体解剖が行われ、適切な医学的評価が行われる制度があることが望ましいと考える。(中略)届出制度を統括するのは、犯罪の取扱いを主たる業務とする警察・検察機関ではなく、第三者から構成される中立的専門機関が相応しいと考えられる。このような機関は、死体解剖を含めた諸々の分析方法を駆使し、診療経過の全般にわたり検証する機能を備えた機関であることが必要である。」

すべての診療関連死届出の実現に向けた決意

 「以上により、医療の安全と信頼の向上のためには、予期しない患者死亡が発生した場合や、診療行為に関連して患者死亡が発生したすべての場合について、中立的専門機関に届出を行なう制度を可及的速やかに確立すべきである。われわれは、管轄省庁、地方自治体の担当部局、学術団体、他の医療関連団体などと連携し、あるべき「医療関連死」届出制度と中立的専門機関の創設を速やかに実現するために結集して努力する決意である。」

良識への期待

このように、19学会共同声明は、医療に対する社会の信頼を確保するために、①すべての診療関連死が届出が実現されること、②中立的専門機関が解剖実施を含む検証機能を持つこと、③遺族や社会による検証が可能となるだけの十分な情報が提供されることの実現を強く求めるものとなっていました。
 今回の法案に対し、一部の論者からは、医療事故調査・支援センターが個別事案に対する医学的評価を行うことや、同センターが個別事案の調査結果を公表することに反対する意見が出ているようですが、19学会共同声明に示された医療界の決意を置き忘れてしまった見解といわざるを得ず、大変に残念でなりません。
 今回の法案では、厚生労働省令等に委ねる部分が大きいため、19学会声明に含まれる上記の3つの要素が実現されるかどうか、未だ不透明な状況です。今後の具体化作業において、多くの医療関係者から、声明の決意と志を忘れることはないという声が上がらなければ、医療に対する信頼は向上しない結果となります。医療界の良識が示されることを強く期待したいと思います。