医療事故調査制度の施行に係る意見書

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医療事故調査制度の施行に係る検討会

座長 山本和彦 様

医療事故調査制度の施行に係る意見書

                                                                      2015/01/30

                                                            医療事故情報センター

                                                      理事長 弁護士 柴田 義朗

                                                                                

                                        名古屋市東区泉1-1-35 ハイエスト久屋6階

                                          電話・052-951-1731 FAX・052-951-1732

                                                        http://www.mmic-japan.net/


 医療事故情報センターは、患者・家族の代理人として医療事故に取り組む全国の弁護士を正会員として構成される団体であり、医療事故の被害回復と再発防止を目的して、長年にわたり様々な活動を続けて参りました(1990年設立。2015年1月1日現在正会員数663名)。

 発生した医療事故を調査分析して教訓とし、同種事故の再発防止につなげることは、長きにわたり、多くの医療事故被害者、そして私たちの悲願でした。そのような中、横浜市立大学事故、都立広尾病院事故を契機として、やっと、国・医療界もふくめた医療安全の取り組みや議論が始まりました。それが医療に対する国民の信頼を回復するためにも必要なことでもありました。

 これまでに私たちは、医療事故から学び、安全で質の高い医療の実現を願う立場から、以下の意見書を発表し、医療事故調査のあり方や第三者機関の創設の必要性を提言してきました。


・「診療行為に関連した死亡の死因究明等のあり方に関する課題と検討の方向性」(平成19年3月

 厚労省試案)に対する意見書(2007/4/19提出)

・「診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する試案-第二次試案-」に対する意見書

 (2007/11/2提出)

・「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案

 -第三次試案-」に対する意見について(2008/5/8提出)

・「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」に対する意見について(2008/9/3提出)

・医療安全機関(仮称)の創設を求める意見書(2012/6/13提出)

・「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」に対する提言(2013/08/23提出)

・医療事故調査制度の創設を迎えて (2014/6/18提出)

 

 平成25年5月29日に「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的あり方」(以下、基本的あり方といいます)がとりまとめられ、平成26年6月、地域医療・介護総合確保推進法が成立して医療法(以下、「法」といいます)が改正され、平成27年10月1日より、医療事故調査制度(以下、「本制度」といいます)が施行されることとなりました。

 こうして、すべての医療機関に対して、診療に関連した予期せぬ死亡事例を第三者機関である医療事故調査・支援センター(以下、「センター」といいます)に報告し、調査を実施することを法的に義務づけた制度が成立したことは、不十分なものとは言え、現段階での我が国の医療安全の到達点として、私たちは高く評価しています。

 こうした本制度の成立の趣旨や経過から、本制度において、公正性・中立性・透明性・専門性が堅持されることが重要であることは自明であり、これらの理念の下に省令等が制定されなければならないことは申し上げるまでもありません。特に、本制度は、医療事故の発生した当該医療機関がみずから調査を実施することを基本とする制度であり、先行して実施されている診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業(以下、「モデル事業」といいます)や産科医療補償制度における原因分析(以下、「産科医療補償制度」といいます)のように第三者が調査を実施する制度の場合と比較しても、より一層、公正性・中立性・透明性の確保が重要です。

 ところが、昨年11月に厚生労働省医政局長の私的諮問機関として設置された医療事故調査制度の施行に係る検討会(以下、「検討会」といいます)における議論では、残念ながら、このような公正性・中立性・透明性の確保を目指すための建設的な議論が重ねられているとは言いがたい点があると感じられます。

  私たちは、これまでにも事故調査の公正性・中立性・透明性の確保が重要であることを上記意見書において指摘してきましたが、あらためて、本制度の施行にあたり留意されるべき点について、以下のとおり意見を述べます。

 本制度が、医療事故被害者にも、国民にも十分に信頼される制度して運用が開始されることを切に希望します。

 【意見の骨子】

※白抜き番号の項目は、検討会で論点にすら上げられないままとなっている事項である。

第1 医療事故の定義について (意見の詳細p6以下)

1 例示や客観基準の組み合わせを提示することによって恣意的解釈を排除することが必要であるこ

  と(検討会第2回資料1・2頁関連)

 

2 医療上の管理に関するもの等が除外されてはならないこと(同資料1・3頁関連)

 

3 「当該死亡又は死産を予期しなかったもの」とは、「当該患者がこの時期にこのような経過を経て

 死亡するとは考え難かったもの」を指すものと理解すべきであって、抽象的・一般的な可能性を認

 識していたとしても、予期したものには該当しないと解すべきであること(同資料1・4頁関連)

 

4 報告相談窓口はセンターに必ず一元化すべきであること(同資料1・4頁関連)

第2 医療機関からセンターへの事故の報告について (意見の詳細p7以下)

1 法6条の10の「遅滞なく」とは、解剖実施及び同種事故発生防止が可能なタイミングにおける報

 告を求めているものと解すべきであること(同資料1・5頁関連)

 

2 報告事項は第一報とそれ以降の報告とで区分すべきであること

  第一報には解剖予定に関する情報が含まれるべきであること

  報告事項とされる「事故調査実施計画の概要」には委員構成や支援団体への支援要請予定等に

 ついても明記されるべきであること(同資料1・5頁関連)

第3 遺族への説明事項等について (意見の詳細p9以下)

1 父を確認できない母子死亡事案では、母の遺族を死産した胎児の遺族として扱うべきであること

 (同資料1・6頁関連)

 

2 遺族には、制度概要や解剖等に関する事項だけではなく、当該医療機関からセンターに報告され

 る予定の内容についても説明されるべきであること(同資料1・6頁関連)

第4 医療機関が行う医療事故調査の方法について (意見の詳細p10以下)

 事故調査委員会を組織し、同委員会が調査を担当するべきであること(同資料1・7頁関連)

 

 当該医療機関の管理者は事故調査委員会の構成員となってはならないこと(同資料1・7頁関連)

 

 当該医療事故に関与した医療従事者は、事故調査委員会の構成員となってはならないこと(同資料1・7頁関連)

 

 事故調査委員会には過半数の外部委員が加わり、外部委員が委員長を務めるべきであること

 (同資料1・7頁関連)

 

 事故調査委員会には、患者代理人としての業務に精通した弁護士を中心とした、医療関係者以

 外の者が構成員として加わるべきであること(同資料1・7頁)

 

 事故調査委員会による医療事故調査の際には、遺族からのヒアリングの実施を必須とすべきで

 あること(同資料1・7頁関連)

 

 医療従事者の知識・経験・資質の問題が事故発生に関与しているかどうかについても、十分な調

 査が尽くされた上で、更に根本原因に遡った検討が行われるべきであること(同資料1・7頁関連)

第5 調査の結果について (意見の詳細p13以下)

1 事故調査委員会は必ず報告書を作成し、これをセンターに提出するとともに、遺族に対しても報

 告書を交付すべきであること(同資料1・7頁、同11頁関連)

 

2 「再発防止策の検討結果」は報告書の必要的記載事項とすべきであること(同資料1・7頁関連)

第6 支援団体の在り方について (意見の詳細p14以下)

 支援団体として指定を受けるためには、公正性・中立性・透明性の確保された支援を行いうるだ

 けの体制の具備が必要とされるべきであること(同資料1・8頁及び9頁関連)

 

①支援団体内部に、医療事故調査を支援するための委員会(医療事故調査支援委員会)が組織さ

 れていること

 

②支援団体の運営する他の業務により調査支援業務が不公正にならないよう、支援団体内部にお

 ける医療事故調査支援委員会の独立性が確保されていること(とりわけ、賠償責任保険事業から

 の独立性が十二分に確保されていること)

 

③医療事故支援委員会の構成員や調査の手続の規約等に関する重要な情報が公表されていること

 

④医療事故調査支援委員会の構成員には、外部有識者(とりわけ患者の視点から医療安全の問題

 について意見を述べうる法律家)が参加していること

 

⑤医療事故調査支援委員会による支援の状況についての重要な情報が、定期的に開示されること

 

⑥国の設置する支援団体連絡協議会(仮称。内容は後述のとおり)に参加すること

 

 支援団体内に設置される医療事故調査支援委員会と賠償責任保険との間に、明確な独立性が

 確保されるべきであること(同資料1・8頁関連)

 

 当該医療機関の管理者が支援団体に支援を求める際には、センターからの必要な情報の提供

 及び支援を踏まえた上で支援団体が選択されるべきであること(同資料1・8頁関連)

 

 国は、厚生労働省・センター・支援団体・医療事故被害者団体等によって構成される支援団体連

 絡協議会(仮称)を設置し、各支援団体による公正性・中立性・透明性の確保(とりわけ支援の恣意

 性や不統一性の解消)に努めるべきであること(資料1・8頁及び9頁関連)

第7 医療事故調査・支援センターの組織について (意見の詳細p17以下)

 医療安全を実現するためには、情報の集約が不可欠であり、複数のセンターが指定されるべき

 ではないこと(同資料1・12頁関連)

 

 センターは、全国で8~10箇所程度の地方組織を設置するべきであること(同資料1・12頁関

 連)

 

 センターは、院内事故調査の検証のみならず、必要に応じて、自ら第三者機関として調査を行う

 ことができるだけの体制を備えるべきであること(同資料1・14頁関連)

 

4 センターの行う調査についても、報告書が作成された上で、これが当該医療機関及び遺族の双方

 に必ず交付されるべきであること(同資料1・15頁) 

 

5 センターが行う調査の費用を遺族に負担させることは適当でないこと(同資料1・16頁関連)

 【意見の詳細】

第1 医療事故の定義について

1 例示や客観基準の組み合わせを提示することによって恣意的解釈を排除することが必要であること(検討会第2回資料1・2頁関連)

 参議院厚生労働委員会附帯決議(以下、「参院附帯決議」という)にもあるように、地域や医療機関毎に報告すべき医療事故が恣意的に解釈されることのないよう、医療事故の定義については、ガイドライン等を用いて標準化することが必要である。その際には、日本医療安全調査機構が実施してきたモデル事業における実践を踏まえ、一般的定義に加えて、例示や客観的基準等を組み合わせる工夫が必要である。

 医療法上、本制度の対象を「人的・物的コストをかけて分析すべき事案に限定する」ことは全く予定されていないのであるから、分析すべき事案に限定するか否かは検討会における議論の対象とすべきではない。

 そもそも、コストをかけて分析すべき事案か否かを、調査を行う前から、当該医療機関に遅滞なく判断させることは極めて困難であり、報告の時点でそのような区別を設けることは円滑な制度運営の観点からも不合理である。

2 医療上の管理に関するもの等が除外されてはならないこと(同資料1・3頁関連)

 医療法において「医療に起因し、又は起因すると疑われるもの」と規定されている以上、およそ「医療」に含まれる事象に起因する医療事故はいずれも本制度の対象とされるべきであり、医療上の管理に起因する医療事故や、医薬品・医療用具の取り扱いにかかる事例等が除外されてはならない。

 そもそも本制度の目的は医療の安全の実現にある。医療の管理や医薬品等の取り扱い等に起因する事例を除外することは、医療全体の安全の実現を困難とする結果を招くため、本制度の目的に照らしても極めて不合理である。

3 「当該死亡又は死産を予期しなかったもの」とは、「当該患者がこの時期にこのような経過を経て死亡するとは考え難かったもの」を指すものと理解すべきであって、抽象的・一般的な可能性を認識 していたとしても、予期したものには該当しないと解すべきであること(同資料1・4頁関連)

 「当該死亡又は死産を予期しなかったもの」とは、「当該患者がこの時期にこのような経過を経て死亡するとは考え難かったもの」を指すものと理解すべきである。

 医療法が「当該死亡又は死産」と規定している以上、予見の対象を、患者一般における抽象的な死亡の可能性であると解釈することは法の文言に照らしても不可能と言わざるを得ない。予見の対象はあくまで当該患者に関する個別具体的な死亡の可能性であり、一定の確率で生じうる有害事象であっても、その有害事象が「当該」患者に生じることが具体的に予期されていなかったのであれば、「予期しなかったもの」に該当すると解するべきである。

 「一定の確率で起こる過誤、比較的頻回に報告されている過誤」を予期されているものとして本制度の対象外とされてはならない。上記のとおり、法の文言からもかかる解釈が許される余地はない。また、頻回に報告される事例であるほど、対策立案の必要性は高いはずであるが、報告の対象外とされてしまった場合、安全対策の結果として発生頻度が低下したか否かを判断することすら困難となり、医療安全の実現という本制度の目的の実現が阻害される結果となり、不合理である。

 医療法上、予期の主体は当該医療機関の管理者とされている。しかし参院附帯決議に照らしても、管理者の恣意的判断によって報告対象事案が左右されてはならないことは当然である。管理者は、自身の主観的判断に留まることなく、「合理的な医療従事者であれば、当該患者の当該死亡が生じると事前に予期していたとは言えない事案であるか否か」との客観的な基準に照らして、予期の有無を判断すべきである。

4 報告相談窓口はセンターに必ず一元化すべきであること(同資料1・4頁関連)

 地域毎あるいは医療機関毎に報告の要否が恣意的に判断されることがないよう、医療事故調査・支援センター(以下、「センター」という)には、当該医療機関が報告に迷う事案の相談に応じる窓口を必ず設けるべきである。

 各支援団体に個別に相談窓口を設けた場合、窓口間の対応の統一性を確保することは容易ではない。その結果、同種の事案であるにも関わらず、相談先によって報告の要否の判断が分かれる結果が生じるおそれがある。窓口の乱立によって報告要否の判断が不統一となった場合には、本制度の公正性・中立性・透明性が阻害され、本制度が社会からの信頼を得ることは不可能となる。報告要否に関する相談窓口は、必ずセンターに一元化すべきである。

 報告相談窓口をセンターに一元化すれば、当初からセンターに情報が集約されるため、各支援団体の窓口に寄せられた情報を集約する作業は不要となるから、円滑な事務運営の観点からも、相談窓口をセンターに一元化することが合理的である。

 なお、窓口をセンターに一元化するとしても、各支援団体が、調査支援経験等を踏まえて、報告要否に関する相談の在り方に関する意見をセンターに伝えることは有用であり、我々はかかる意見交換の意義を否定するものではない。センターが、後述する支援団体連絡協議会(仮称)等を通じて、各支援団体から有益な情報や意見を集約し、よりよい報告相談窓口運営の実現に向けた努力を尽くすべきであることは当然である。

第2 医療機関からセンターへの事故の報告について

1 法6条の10の「遅滞なく」とは、解剖実施及び同種事故発生防止が可能なタイミングにおける報告を求めているものと解すべきであること(同資料1・5頁関連)

 当該医療機関の管理者がセンターに報告を行う目的は、センターが「医療事故調査の実施に関する相談に応じ、必要な情報の提供及び支援を行う」(法6条の16・5号)という業務を行うためには、まず第一に医療事故が発生したという情報がセンターに提供される必要があることに基づくものと解される。

 従って、法6条の10の「遅滞なく」との文言は、センターが必要な情報の提供及び支援を行うという業務を果たしうる期間内に報告がなされることを求めているものと理解すべきである。とりわけ、死亡・死産事故の調査においては解剖の実施が極めて重要であるから、センターが当該医療機関に対して解剖の体制や方法等について適切な情報の提供や支援を行うためには、解剖を実施しうる時期において当該医療機関から報告がなされていることが必要不可欠であり、剖検の実施可能時期については一定の時間的制約が伴うことに鑑みれば、「遅滞なく」との文言が指し示す期間は、医療事故発生から非常に近接した時期であると解することが、報告制度の目的に照らした合理的な解釈であると言える。

 また、センターは、「医療の安全の確保を図るために必要な業務を行う」(法6条の16・7号)とされているのであるから、本制度においては、医療事故が発生した場合には、センターが同種の事故が生じないよう速やかに臨床現場へ情報をフィードバックすることも当然にその業務の目標とされているものと解すべきところであり、とりわけ医薬品や医療機器等の関与により再発可能性の大きいと判断される事故については、早期に情報を得て対処する必要がある(医薬品医療機器等法68条の10第2項にも同種の制度はあるものの、十分な報告を当該医療機関が挙げることができていない場合等においては、本制度に基づいてセンターが早期の安全確保に向けて果たすべき役割は決して小さいものではないはずである)。

 以上の諸点に照らせば、本制度に基づく報告のうち次項に述べる第一報を行うべきタイミングについては、少なくとも24時間を目安とすべきであることを通知において示すことが合理的である。仮に各種事例の多様性に鑑みて画一的な期間を明示することができないのであれば、最低限、解剖の実施が可能であり、かつ同種事故の発生を速やかに防止しうる期間内に報告がなされるべきであることについては、通知等において明示されるべきである。

 なお、同条の「遅滞なく」の期間を1ヶ月程度を目途とするものと解釈することは、本制度の報告義務の目的に照らして著しく不合理であるから、かかる解釈が許容されてはならない。

2 報告事項は第一報とそれ以降の報告とで区分すべきであること  第一報には解剖予定に関する情報が含まれるべきであること  報告事項とされる「事故調査実施計画の概要」には委員構成や支援団体への支援要請予定等についても明記されるべきであること(同資料1・5頁関連)

 当該医療機関からセンターに対して報告を行う目的は、センターが当該医療機関に対して適切に情報を提供し、適切な支援を行い得るようにすることを含むものである。従って、報告事項には、センターが当該医療機関に情報を提供し、調査を支援するために必要となる項目が含まれている必要がある。他方、報告には迅速性も求められる。そこで、報告事項は、第一報で最低限報告されるべき事項と、第一報以後の報告となってもやむを得ない事項とを区分した上で、それぞれの報告時期に関する目安を設けることが合理的である。

 第一報として報告されるべき事項としては、医療機関名・所在地・連絡先、事故発生日時・場所・診療を担当していた診療科、当該医療機関管理者、患者情報(性別・年齢・病名等)、第一報時点で得られた医療事故の内容に関する情報(この点については、後日の情報の整理によって訂正がありうることは当然の前提とされてよい)、解剖実施予定の有無・実施予定者・実施予定場所等が挙げられる。

 本制度は患者が死亡した事案を対象とするのであるから、適切に調査を実施するためには、センターが当該医療機関(とりわけ中小の医療機関)に対して、解剖の実施の方法や手順に関する情報を遅滞なく提供できるようにすることが重要である。

 従って、第一報の段階では、当該医療機関は、センターに対し、解剖実施予定に関する詳細な情報を提供する必要がある。そして、センターは、提供された情報に基づいて、もっとも適切と考えられる解剖場所・方法・実施予定者等に関する情報を当該医療機関に提供することによって、当該医療機関による事故調査を支援する必要がある。

 第二報の時点では、第一報後に判明した事故の概要に関する情報、それまでに得られた解剖所見に関する情報、それらを踏まえた上での医療事故調査の実施計画の概要等が報告される必要がある。

 本制度の施行にあたっては、これまでに我が国で行われてきたモデル事業や産科医療補償制度といった第三者による調査と同様の公正性・中立性・透明性・専門性を確保できるような仕組みを整えることが極めて重要である。従って、医療事故調査の実施計画の概要は必ず報告事項とされるべきであり、センターは、当該医療機関から報告された情報を踏まえて、当該医療機関が公正性・中立性・透明性・専門性の確保された調査を行い得るように、随時必要な情報の提供や支援を行うべきである。

 センターがこのような役割を十分に果たすためには、当該医療機関が実施しようとする調査の計画の具体的な内容について、十分な情報が共有されることが不可欠である。従って、医療事故調査の実施計画の概要として報告されるべき事項には、院内事故調査を行う組織(委員名・委員長名・外部委員名、組織編成に関する内規、支援団体への支援要請予定の有無・具体的要請先等)、調査スケジュールの目安、主な調査予定事項等といった具体的情報が含まれるべきである。

第3 遺族への説明事項等について

1 父を確認できない母子死亡事案では、母の遺族を死産した胎児の遺族として扱うべきであること(同資料1・6頁関連)

 胎児が死産となり同時に母が死亡し、かつ、父を確認できない場合に、胎児に遺族がないとすることに合理的理由を見いだすことはできないから、かかる場合には、母の遺族が、死産した胎児の遺族に該当するものと解するべきである。

2 遺族には、制度概要や解剖等に関する事項だけではなく、当該医療機関からセンターに報告される予定の内容についても説明されるべきであること(同資料1・6頁関連)

 「患者の安全に関する世界医師会宣言」(注1)は、ある患者の安全に関するすべての情報は、当該患者を含むすべての関係者の間で共有されるべきであることを明言している。同宣言が示すように、医療の安全を実現することと、患者・遺族に対する説明責任を果たすことは、密接不可分の関係にあり、本制度においてもその両立を図ることが極めて重要となる。

 そこで、本制度においても、当該医療機関から遺族に対しては、単に制度の概要の説明がなされるのみならず、当該医療機関からセンターに対して報告される予定の事項に関するすべての情報が提供されるべきである。

 従って、センターへの報告に先立つ遺族への説明事項としては、制度の概要、解剖・死後画像撮影の意義及び同意手続に関する事項、院内事故調査の実施計画(ただし第一報時点で説明可能な範囲で足りるものとする)に加えて、当該医療機関がセンターに対して第一報として報告を予定する事項のすべてを説明すべきである。

 また、同様に、当該医療機関がセンターに対して第一報以降の報告を行う際においても、遺族に対し、報告を予定する事項と同一の内容が説明されるべきである。

 

注1:WMA Declaration on Patient Safety

   http://www.wma.net/en/30publications/10policies/p6/ より

    "All information that concerns a patient's safety must be shared with all  

   relevant parties, including the patient. However, patient confidentiality must

   be strictly protected."

  なお、同宣言は日本医師会の提案により2002年の世界医師会総会で採択されたものであり、

 2012年にも再確認がなされている。日本医師会による上記条項の和訳は次のとおりである。

  「患者の安全に関わるすべての情報は、患者を含むすべての関係者と共有しなければならない。

 同時に、患者の秘密は厳密に保持されなくてはならない。」 

 (http://www.med.or.jp/anzen/jma.html)

第4 医療機関が行う医療事故調査の方法について

事故調査委員会を組織し、同委員会が調査を担当するべきであること(同資料1・7頁関連)

 事故の発生した医療機関が自ら事故調査を実施する場合には、第三者が調査する場合以上に、公正性・中立性・透明性の確保がより強く求められる。もし仮に、当該医療機関内に事故調査委員会が組織されないまま調査が実施された場合には、調査を担当する者の位置づけや、調査の手順等は極めてあいまいなものとなり、本制度の公正性・中立性・透明性に大きな疑義が生じる結果となるであろう。

 そのため、当該医療機関が調査を行う際には、事故調査委員会を組織し、同委員会が調査を担当することを必須とすべきである。

 これまでも、モデル事業においては、院内事故調査委員会が報告書を作成することが必要とされてきた。このことからも当該医療機関内に事故調査委員会を組織する必要性はあまりに明らかである。

 しかしながら、厚労省医療安全推進室の作成した同資料1・7頁においては、調査を担当する組織に関する事項が全く論点として挙げられていないため、事故調査委員会を組織することが必須であることを、強く指摘するものである。

当該医療機関の管理者は事故調査委員会の構成員となってはならないこと(同資料1・7頁関連)

 当該医療機関の管理者(病院長等)は、事故調査委員会の調査結果や再発防止策に基づき、院内のシステム改善や遺族らへの説明を決断すべき立場にある。かかる立場の者が事故調査委員会の構成員となることは、事故調査の公正性・中立性・透明性に疑義をもたらすこととなる。

 従って、当該医療機関の管理者は事故調査委員会の構成員となってはならない。

当該医療事故に関与した医療従事者は、事故調査委員会の構成員となってはならないこと(同資料1・7頁関連)

 当該医療事故に関与した医療従事者は、事故調査委員会が調査に際して実施するヒアリングの対象となる立場にある。かかる立場の者が事故調査委員会の構成員となることは、事故調査の公正性・中立性・透明性に疑義をもたらすこととなる。

 従って、当該医療事故に関与した医療従事者は、事故調査委員会の構成員となってはならない。

事故調査委員会には過半数の外部委員が加わり、外部委員が委員長を務めるべきであること(同資料1・7頁関連)

 モデル事業や産科医療補償制度等の第三者による調査と比較して、当該医療機関が自ら事故調査を行う際には、公正性・中立性・透明性の確保が困難である。そこで少なくとも、事故調査委員会の構成員の過半数は外部委員であることを必要とすべきである。

 また、当該医療機関に所属する者が事故調査委員会の委員長を務めることは、調査の公正性・中立性・透明性に疑義をもたらすおそれが強い。そのため、委員長は外部委員が担当することを必須とすべきである。

事故調査委員会には、患者代理人としての業務に精通した弁護士を中心とした、医療関係者以外の者が構成員として加わるべきであること(同資料1・7頁)

 これまでに国内の主要な医療機関において実施されてきた院内医療事故調査や、モデル事業及び産科医療補償制度等においては、医療関係者以外の者、とりわけ患者代理人としての業務に精通した弁護士(当該事案の関係者の代理人である弁護士を除く)が加わり、患者側の視点からも検討すべき論点が指摘されることによって、調査結果の公正性・中立性・透明性が確保されてきた。

 そこで当該医療機関内に設置される事故調査委員会にも、同様に、医療関係者以外の領域の構成員、とりわけ患者側代理人としての業務に精通した弁護士を関与させることによって、公正性・中立性・透明性を確保するべきである。

 また、事故調査委員会では、診療録や関係者のヒアリング結果から事実関係を整理する必要がある。更には、報告書を作成するにあたって、いかなる事実にいかなる医学的知見を照らし合わせて結論を導いたのかを、論理的な文章で表現する必要がある。弁護士は事実認定や論理的な書面の作成の専門家であるため、これらの作業に弁護士が加わることは非常に有用であることが、モデル事業や産科医療補償制度等においても指摘されている。

 したがって、本制度の下でも、事故調査委員会には、医療関係者以外の者、とりわけ患者側代理人としての業務に精通した弁護士が構成員として加わることを必要とすべきである。

事故調査委員会による医療事故調査の際には、遺族からのヒアリングの実施を必須とすべきであること(同資料1・7頁関連)

 当該医療機関における事故調査委員会による調査に公正性・中立性・透明性をもたらすためには、遺族からのヒアリングが実施されることが極めて重要である。

 遺族は、医療事故被害で死亡した患者・胎児の最も身近な立場において、診療経過を直接現認し、あるいは患者自身や当該医療関係者から診療経過に関する話を聞く等の体験を経ていることが多い。かかる立場の遺族からヒアリングを行うことは、事実経過を正しく抽出するためにも不可欠である。これまでにも、多くの院内事故調査に際しては、遺族からのヒアリングが実際に実施されており、モデル事業や産科医療補償制度においても、遺族の側の事実認識に関する情報収集の努力が積み重ねられてきた。

 そこで、本制度における当該医療機関が行う事故調査においても、遺族からのヒアリングを原則として実施することを求めるべきである。

医療従事者の知識・経験・資質の問題が事故発生に関与しているかどうかについても、十分な調査が尽くされた上で、更に根本原因に遡った検討が行われるべきであること(同資料1・7頁関連)

 医療事故は、様々な要素が関与した上で発生する。単に結果発生に最も近い立場にあった医療従事者に関する要因だけが原因であると即断されてはならない。しかしながら、医療事故の中には、当該医療従事者の知識・経験・資質の不足が重要な要因となる事例も少なからず見受けられる(注2)。

 かかる事例においては、システム要因の分析等と並行して、当該医療従事者に十分な知識や経験が備わっていたのかどうかという点についても、十分な検討が不可欠である。

 その上で、当該医療従事者に十分な知識・経験・資質が備わっていなかったと判断された場合には、何故に当該医療従事者が、十分な知識・経験・資質が備わっていないまま当該診療行為を担当するに至ったのか、より根本的な要因にまで分析を深めていくという手順を辿るべきである。

 本制度に基づく事故調査のガイドラインにおいては、当該医療従事者の知識・経験・資質の問題の有無を正面から検討することが必要であることを明記すべきであり、事故調査の非懲罰性を強調するあまり、知識不足・経験不足・資質不足という事実の有無の検討が放置されてはならない。

 

注2:ルシアン・リープ氏らは、下記論文において、医師のうちの1/3は、その医師としてのキャリア

  の中のある一時期に、安全な医療を提供する能力の欠けた状態に置かれていると推論している。

  同氏らは、この割合を医師が100人所属する病院に当てはめると、平均で年間に1~2人の医師

  が安全な医療を提供する能力の欠けた状態に置かれていることとなるとも指摘している。

   こうした事実認識に基づき、リープ氏らは、医師の知識不足・経験不足等を含む「パフォーマン

  ス・プロブレム」についての定期的・公的・積極的なモニタリングシステムの構築の必要性を強調し

  ている。

  Leape LL1, Fromson JA.

  Problem doctors : Is There a System-Level Solution? 

  Ann Intern Med. 2006 Jan 17;144(2):107-15.

第5 調査の結果について

1 事故調査委員会は必ず報告書を作成し、これをセンターに提出するとともに、遺族に対しても報告書を交付すべきであること(同資料1・7頁、同11頁関連) 

 上記のとおり、患者の安全に関する世界医師会宣言においては、医療安全に関するすべての情報が患者を含む関係者に提供されるべきであることが謳われている。医療安全を実現することと患者・遺族に対して説明責任を果たすことは、不可分の関係にあり、本制度の運用においても、その両立を目指すべきであることは当然である。

 従って、遺族に対しては事故調査委員会の作成した報告書が交付されるべきである。

 そもそも、事故調査委員会が調査結果をとりまとめるにあたっては、事故調査委員会の構成員の間に事実や評価に関する協議の内容についての共通認識が形成される必要がある。また、質の高い調査結果を実現するためには、調査結果に至った理由が論理的に説明されていなければならない。こうした点を実現するためには、単に委員会において口頭で協議を行うだけではなく、その結果を報告書という形式に整理し、認識を共通のものとするとともに、結論に至る過程の論理性を確保するという作業が不可欠である。

 実際に、これまでの我が国における院内事故調査の実践においても、報告書が作成され、これが遺族に交付されることによって、調査の公正性・中立性・透明性が確保されてきたのであり、第三者調査であるモデル事業・産科医療補償制度においても、報告書が当該医療機関のみならず遺族にも交付されてきた。

 そうでありながら、本制度において、当該医療機関がセンターに対して調査結果を報告する際には、報告書が提出されるにも関わらず、この報告書が遺族に交付されず、口頭での説明が診療録に付記されるだけに留まるようでは、本制度の公正性・中立性・透明性を確保することは全く不可能である。

 また、本制度では、法6条の17第1項により、遺族がセンターに対して調査の依頼を行うことができるものとされている。これは、遺族が当該医療機関の調査結果に合理的な疑問を持つ場合には、センターが調査を実施することによって、同制度の公正性・中立性・透明性を確保することを目的とした条項である。しかしながら、遺族に対して報告書が交付されなければ、当該医療機関が口頭で説明した内容(及び自ら開示請求して取得したカルテの写しに付記された説明内容の記述)のみを資料として、当該医療機関の実施した調査結果の適切性を判断しなければならないこととなる。これでは、調査結果に合理的な疑問点が存在するにも関わらず、遺族がそのことに気がつくことができず、不適切な調査結果が正されないまま放置される結果となり、本制度の公正性・中立性・透明性は著しく阻害される。

 また、仮に調査結果が適正なものであった場合でも、報告書が交付されない場合には、口頭での説明やカルテに付記された内容と報告書の内容に齟齬が生じるおそれがあり、不十分な口頭での説明がなされることによって、調査結果に対する不必要な疑義が生じるおそれもある。こうした問題は、作成された報告書を交付するという極めて単純かつ合理的な手段によって容易に解消される。

 以上のとおり、遺族にはすべての情報が提供されるべきであり、本制度の公正性・中立性・透明性確保のためにも、報告書は必ず遺族に交付されるべきである。

 同資料1・11頁は、「遺族への説明は、口頭(説明内容をカルテに記載)又は書面(報告書又は説明用の資料)の適切な方法を管理者が判断する」ととりまとめているが、これは管理者の判断によって報告書を遺族に交付しない余地を容認するものであって、極めて不当かつ不合理である。

2 「再発防止策の検討結果」は報告書の必要的記載事項とすべきであること(同資料1・7頁関連)

 本制度は、安全な医療の実現を目的とするものであるから、当該医療機関が行う医療事故調査の際に、再発防止策を検討することは必須の営みであり、医療機関から同センターへ調査結果を報告する際に提出される報告書には、必ず再発防止策に関する検討結果を記載すべきである。

 そもそも本制度において当該医療機関自身による調査が主体とされたのは、単に医療事故調査の件数が多いため第三者調査を行うことが困難であるという消極的理由に留まらず、当該医療機関自らが事故を調査することによって、当該医療機関の個別の実情を踏まえた最も適切な再発防止策が策定されることを期待しうるという積極的理由に基づくものであったはずである。

 個々の医療機関は、原因分析と再発防止を外部に丸投げしてはならず、自ら医療安全を実現するための経験を積み重ねることによって、個々の臨床現場に医療安全文化を定着させるよう、最大限の努力を重ねるべきであるから、再発防止策の検討結果は、報告書における必要的記載事項とすべきであることは当然である。

 なお、事例によっては再発防止策の策定できないこともありうるが、その場合は、再発防止策を検討した経緯と結論として策定に至らなかったことを記載すれば足りるから、再発防止策の策定に至らない事例があるとしても、再発防止策の検討結果を必要的記載事項から外す必要はない。

第6 支援団体の在り方について

支援団体として指定を受けるためには、公正性・中立性・透明性の確保された支援を行いうる体制の具備が必要とされるべきであること(同資料1・8頁及び9頁関連)

 参院附帯決議にもあるように、支援団体による支援のあり方については、公正性・中立性・透明性を確保することが不可欠である。

 本制度では、国がセンターを指定する際には、

「調査等業務以外の業務を行っているときは、その業務を行うことによって調査等業務の運営が不公正になるおそれがないこと」

「調査等業務について専門的知識又は識見を有する委員により構成される委員会を有すること」

「委員が調査等業務の実施について利害関係を有しないこと」

「公平かつ適正な調査等業務を行うことができる手続を定めていること」

等の要件が求められる予定である(同資料1・12頁)。

 これらの要件は、センターによる事故調査事業が恣意的なものとなることなく、公正性・中立性・透明性が確保されたものとして実施されるためには不可欠の要件であるものと理解されるが、その趣旨は、医療事故の調査を支援する立場(とりわけ中小医療機関における事故の調査においては大幅な関与が予定される立場)にある支援団体にも、全く同様に当てはまるはずである。

 とりわけ、同資料1・9頁において支援団体の案として掲げられている団体の中には、日本医師会・都道府県医師会をはじめとして、損害賠償責任保険に関連する事業をも業務に含む団体が複数含まれており、個別の事故調査結果に関して利益相反的立場にあることは明らかであるから、何らかの枠組みを設けなければ、公正性・中立性・透明性の確保は不可能である。

 以上を踏まえれば、国が職能団体・学会等を支援団体に指定する際には、最低限、次のような要件を充たすことを必要とすべきである。

 

①支援団体内部に、医療事故調査を支援するための委員会(医療事故調査支援委員会)が組織さ

 れていること

 

②支援団体の運営する他の業務により調査支援業務が不公正にならないよう、支援団体内部にお

 ける医療事故調査支援委員会の独立性が確保されていること(とりわけ、賠償責任保険事業から

 の独立性が十二分に確保されていること)

 

③医療事故支援委員会の構成員や調査の手続の規約等に関する重要な情報が公表されていること

 

④医療事故調査支援委員会の構成員には、外部有識者(とりわけ患者の視点から医療安全の問題

 について意見を述べうる法律家)が参加していること

 

⑤医療事故調査支援委員会による支援の状況についての重要な情報が、定期的に開示されること

 

⑥国の設置する支援団体連絡協議会(仮称。内容は後述のとおり)に参加すること

支援団体内に設置される医療事故調査支援委員会と賠償責任保険との間に、明確な独立性が確保されるべきであること(同資料1・8頁関連)

 本制度では当該医療機関の管理者が、支援団体に対し医療事故調査を行うために必要な支援を求めることとされている。参院附帯決議でも指摘されているとおり、支援団体が中立性を持って支援する仕組みがなければ、本制度に対する社会の信頼は大きく阻害される結果となる。

 上述のとおり、支援団体の案として挙げられた職能団体・学会等の中には、損害賠償責任保険の運営主体となっている団体も少なからず認められるところであり、とりわけ日本医師会及び都道府県医師会は、各種賠償責任保険の中でも実務的に重要な位置を占める日本医師会医師損害賠償責任保険の運営主体となっている。これらの団体が当該医療事故の調査に関与することは、保険支払いとの関係で利益相反的立場に立つことは明らかであり、支援団体としての適格性が欠けているものと言わざるを得ない。

 仮にこうした団体も支援団体に指定されるのであれば、最低限、医療事故調査支援委員会の構成員は損害賠償責任保険の運営に関与しないこと、何人も医療事故調査支援委員会の構成員に対して不適切な働きかけを行ってはならないこと等、医療事故調査支援委員会が損害賠償責任保険事業から独立して支援を行いうるだけの規約が整備されることを必須の要件とすべきである。

当該医療機関の管理者が支援団体に支援を求める際には、センターからの必要な情報の提供及び支援を踏まえた上で支援団体が選択されるべきであること(同資料1・8頁関連) 

 法6条の11・2項では、「病院等の管理者」が、支援団体に対して「必要な支援を求める」とされており、同資料1・8では医療機関の判断で支援団体が選択できるかのように理解しうる案が提示されている。しかしながら、当該医療機関の判断のみに基づいて支援団体が選択された場合には、支援団体の選択の恣意性に関する疑義が生じうるため、調査結果の公正性・中立性・透明性の確保は困難となる。

 本制度においては、当該医療機関はセンターに事例を報告し、センターは当該医療機関に対する必要な情報の提供と支援を行う業務を担うとされている。そこで、当該医療機関による恣意的な支援団体の選択がもたらす疑義を解消するために、当該医療機関の管理者が支援団体を選択する際には、センターからの情報の提供と支援を踏まえたものとすべきである。

国は、厚生労働省・センター・支援団体・医療事故被害者団体等によって構成される支援団体連絡協議会(仮称)を設置し、各支援団体による公正性・中立性・透明性の確保(とりわけ支援の恣意性や不統一性の解消)に努めるべきであること(資料1・8頁及び9頁関連)

 当該医療機関が自ら調査を行うことを柱とした本制度の運営に十分な公正性・中立性・透明性・専門性を確保するためには、支援団体による支援のあり方そのものについても、公正性・中立性・透明性・専門性が確保されるような仕組みを設ける必要がある。

 そのためには、各支援団体から支援状況に関する情報が定期的に公表されるとともに、医療事故被害者からの意見にも耳を傾け、支援団体が相互に経験交流を行うことができる場を設ける必要がある。


 そのためには、国は、厚生労働省・センター・支援団体・医療事故被害者団体等によって構成される支援団体連絡協議会(仮称)を設置し、各支援団体による公正性・中立性・透明性の確保(とりわけ支援の恣意性や不統一性の解消)に努めるべきである。

第7 医療事故調査・支援センターの組織について

医療安全を実現するためには、情報の集約が不可欠であり、複数のセンターが指定されるべきではないこと(同資料1・12頁関連)

 医療の安全を実現するためには、医療事故に関する全国の情報を集約する必要がある。そのためには、センターが複数乱立するような事態となることは、安全対策の質の面でも、また費用等の点でも、きわめて不合理である。

 従って、医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会の「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」が指摘するように、センターは全国で1つだけの機関とするべきである。

センターは、全国で8~10箇所程度の地方組織を設置するべきであること(同資料1・12頁関連)

 調査の対象となる事案の件数は、年間に1000件を超えることが予想されるため、センターが十分に情報を整理・分析するためには、中央組織の下に地方組織を設置するべきである。

 他方、地方組織を都道府県単位にまで分割すると、公正性・中立性・透明性の確保がかえって困難となり、情報集約や費用等の点からも不合理である。そこで、地方組織は全国に8~10箇所程度とするべきである。

センターは、院内事故調査の検証のみならず、必要に応じて、自ら第三者機関として調査を行うことができるだけの体制を備えるべきであること(同資料1・14頁関連)

 同資料1・14頁では、院内事故調査終了後にセンターが調査する場合は、院内調査の検証を中心に行うとされている。すでに院内事故調査結果が存在する場合には、その検証作業が不可欠であることは言うまでもないが、法6条の17は、センターが「必要な調査を行うことができる」と定めているのであるから、センターによる調査の範囲が、院内調査の検証のみに矮小化されることがあってはならない。

 センターが医療事故調査の実施に関する相談に応じ、必要な情報の提供及び支援を行う(法6条の16第4号)ためには、センター自身が、医療事故調査の実務に精通している必要がある。従って、本制度においては、センターが自ら具体的な調査作業実務(資料の収集、関係者のヒアリング、医学的内容の検討、報告書の作成等)を担当する経験を積み重ねることが必須である。

 従って、センター内には、センター自らが具体的な調査作業実務を行い得る委員会等の組織を設ける必要がある。そして、こうした委員会組織がセンター自身による調査を担当するに当たっては、一定の機動性も必要となるから、やはり、上記のように全国8~10箇所程度の地方組織の設置が不可欠である。

4 センターの行う調査についても、報告書が作成された上で、これが当該医療機関及び遺族の双方に必ず交付されるべきであること(同資料1・15頁)

 上述のとおり、患者の安全に関する世界医師会宣言は、ある患者に関する医療安全に関するすべての情報が、患者を含むすべての関係者の間で共有されることを求めている。

 従って、前項と同様に、センターが法6条の17に基づいて第三者として調査を行った場合においても、作成された報告書は、当該医療機関に交付されるとともに、必ず遺族に対して交付されるべきである。

 同資料1・15頁では、センターが当該医療機関及び遺族に対して「報告書の内容を説明する」とされており、報告書の内容を説明する以上、報告書を交付すべきことは当然の前提とされているはずであるが、疑義を招くことのないよう、報告書が遺族に交付された上でその内容の説明が行われるべきであることを通知上で明示すべきである。

 これまでに、モデル事業においても、産科医療補償制度においても、作成された報告書は、医療機関と遺族の双方に対して交付されることによって、調査結果の公正性・中立性・透明性が確保されてきた。報告書が交付されないままでは、遺族と医療機関に対する報告の内容の同一性に関して無用な疑義を生じるおそれがある等、本制度の公正性・中立性・透明性の確保を阻害する結果となることは明らかであるから、必ず報告書の内容の説明の際には、報告書が交付されるべきである。

5 センターが行う調査の費用を遺族に負担させることは適当でないこと(同資料1・16頁関連)

 本制度の目的は、医療安全という公益を実現するためのものであるから、公費によって実施されるべきであり、センターによる調査の費用を遺族に負担させるべきではない。

 また、遺族がセンターによる調査を依頼する事例の中には、少なからず当該医療機関による事故調査が不十分であるものが含まれるはずであり、遺族からの費用によって、医療機関による不十分な調査結果を補正することが必要となるのは、著しく不公正である。

 しかも、センターによる調査の費用を遺族に負担させることは、センターによる調査を依頼すること自体に対して抑制的な効果が生じるため、本来センターが調査すべき事案が埋もれる結果を招くおそれが強い。

 以上から、センターによる調査の費用を遺族に負担させるべきではなく、仮に負担させる場合においても、一律に負担させるのは不当であり、負担額についても依頼を抑制しない程度の金額を超えることがあってはならない。 

以 上