施行に係る検討会、取りまとめを公表

弁護士松山健(嘱託) (2015年4月センターニュース325号情報センター日誌より)

取りまとめ公表

 「医療事故調査制度の施行に係る検討会」は、平成27年3月20日、取りまとめを公表しました。各論点ごとに法律と省令、通知を対応させて指針を示すものです(厚労省の検討会のウェブページからダウンロードできます)。

機能する調査制度となることが大前提

 事故事例の抽出という間口の問題や事故調査の主体や方法が実効的なものとして定まっていなければ、制度が動き始めても、本来調査すべき事故事例があがってこない、調査の公平性や適切な原因分析(再発防止策)に疑義が残るといった風になると早晩、制度として立ち行かなくなるので、これらの論点が中心的に検討されることが先決であることは当然であり、今後も制度施行まで、そして施行後も、絶えず、この点についての検証と改善が行われていくべきことは言うまでもありません。
 もっとも、本制度には、適正な調査がなされる制度として動き始めた上でさらに果たすべき機能があります。
 それは、生命に関わる事故から得たかけがえのない教訓を医療現場に還元することです。

再発防止策の医療現場への還元

 医療事故調査制度が、再三の挫折を経ながらも、今回の法制化に至る経緯となったのが、「医療の質の向上に資する無過失補償制度等のあり方に関する検討会」の下部検討会として医療安全に資するためのあるべき医療事故調査制度を検討するために設置された、「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」での議論が進んだからでした。
 この経緯を踏まえて、本制度の目的は、医療法の「第3章 医療の安全の確保」に位置づけられているとおり、医療の安全を確保するために、医療事故の再発防止を行うことにあります。
 いかに適正な調査制度が構築され、正確な原因分析と適切な再発防止策が策定され、詳細な内容の調査報告書が作成されたとしても、情報の一般的な医療現場への還元の仕組みが機能しなければ、再発防止の面では、司法的解決と大差のないものとなり、せっかくの調査成果が教訓として十分に生かしきれないことになります。
 その意味で、再発防止策を医療現場に還元する仕組みの構築は制度趣旨の実現のために欠かせない要素であることを忘れることはできません。

取りまとめの関連箇所

 この点、今回の取りまとめでは、センターが行う、院内事故調査結果の整理・分析とその結果の医療機関への報告について、法第6条の16「医療事故調査・支援センターは、次に掲げる業務を行うものとする。一 第6条の11第4項の規定による報告により収集した情報の整理及び分析を行うこと。二 第6条の11第4項の規定による報告をした病院等の管理者に対し、前号の情報の整理及び分析の結果の報告を行うこと。」につき、省令事項はなし、通知としては、「○報告された事例の匿名化・一般化を行い、データベース化、類型化するなどして類似事例を集積し、共通点・類似点を調べ、傾向や優先順位を勘案する。○個別事例についての報告ではなく、集積した情報に対する分析に基づき、一般化・普遍化した報告をすること。○医療機関の体制・規模等に配慮した再発防止策の検討を行うこと。」とし、センターが行う普及啓発については、法第6条の16Ⅵ「医療事故の再発の防止に資する普及啓発を行うこと」につき、省令事項はなし、通知としては、「○集積した情報に基づき、個別事例ではなく全体として得られた知見を繰り返し情報提供する。○誤薬が多い医薬品の商品名や表示の変更など、関係業界に対しての働きかけも行う。○再発防止策がどの程度医療機関に浸透し、適合しているか調査を行う。」との指針が示されています。
 今後、医療分野での先行事業である産科医療補償制度、日本医療安全調査機構の「警鐘事例」、日本医療機能評価機構の「医療安全情報」等のみならず、運輸安全委員会の「勧告・意見・安全勧告」や消費者庁の「事故情報データバンクシステム」等の他分野での工夫も参考により実効的なシステム作りが検討されるべきでしょう。

今 後

 厚労省は、これからパブリックコメントの募集を開始し、4月以降に省令や通知を発出し、続いて第三者機関の公募と指定が行われる見通しであり、これから10月1日の施行まで目が離せません。