日医、「院内調査費用保険」を創設

弁護士松山健(嘱託) (2015年8月センターニュース329号情報センター日誌より)

院内調査費用保険

 新医療事故調査制度の施行日である平成27年10月1日が近づいています。
 先月号の本稿では、平成27年6月12日、日本医師会(日医)が47都道府県医師会とともに、厚労省に、支援団体となるための申し出を一括して行った旨をご報告しましたが、その後、平成27年7月1日、日医は、医療事故調査制度に伴う「院内調査費用保険」を創設したことを公表しました(7月16日には、全国自治体病院協議会も同趣旨の保険制度を創設する方針を明らかにしています)。

調査費用の負担

 改正医療法・施行規則には調査の費用に関する規定はありません。
 医療機関や遺族の依頼により医療事故調査・支援センターが行う調査(いわゆる「センター調査」)については、「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」では、第三者機関の調査の費用については、学会・医療関係団体からの負担金や国からの補助金に加え、調査を申請した医療機関又は遺族からも負担を求めることとされ、「医療事故調査制度の施行に係る検討会」では、遺族が医療事故調査・支援センターに調査を依頼した際の遺族の費用負担が大きくならないよう、一律とし、数万円程度とし、医療機関が依頼した際の費用負担は、実費の範囲内で医療事故調査・支援センターが今後定めるとし、この方針を踏襲することが厚労省Q&Aでも示されています。
 他方で、調査の原則形態である院内調査の費用に関しては、医療機関が負担することが当然の前提とされ、医療側からは、院内調査に割かれる費用負担が医療機関にとって過大なものとなりかねないとの懸念が示されてきたところです。日医が新たに示した保険制度は、この医療機関の負担をカバーする趣旨のものです。

制度概要

制度の概要は次の通りです。
(仕組み)
 日医が従来から運営している医師賠償責任保険(医賠責保険)の枠組みを用いる。日医が自ら契約者となり、対象となるA①会員(病院・診療所の開設者、管理者およびそれに準じる会員)を被保険者とする契約を保険会社と結び、新たな保険料は徴収せず日医の会費収入によって賄うとします。
(保険の対象者)
 日医A①会員のうち、全ての診療所と99床以下の病院の開設者及び管理者(開設形態の個人、法人は不問。100床以上は今後検討)約7万7800名(本保険のA①会員のカバー率は約94%)で、補償の上限は年間500万円まで(平成27年10月1日から1年間、毎年更新)とします。
(支払いの対象となる調査費用)
 院内事故調査に関して、当該医療機関が外部に支払った費用(遺体の保管・搬送、Ai、解剖、院内調査の外部委員に対する謝金・交通費等)とします。

まとめ

 適正な調査を実施する上で費用がかかることは言うまでもなく、本保険制度がこの点をカバーする意義を有するのは確かでしょう。
 ただし、先月号の本稿でも触れているように、日医、都道府県医師会を始め、医療事故に関する損害賠償責任保険の運営に関わっている団体は、医療事故に関する損害賠償責任の有無に利害関係を有しており、中立公正な立場から医療事故調査の支援に当たる支援団体としての適格性に疑問が残るところです。調査費用に関する保険も医賠責保険と同じ枠組みが用いられるとなると、損害賠償責任の有無の審査に関わる団体が(制度の目的は異なるとはいえ)事故調査にかかる費用を填補する保険制度の運用にもかかわることになり、遺族側を含めた外部から見ての公正らしさに一層の靄がかかるといえます。
 日医等医師会が支援団体となる場合には、より徹底した「中立性が確保される仕組み」の構築が求められます。