事故調査制度開始まで1ヶ月~支援団体のあり方の検討が急務

弁護士堀康司(常任理事) (2015年9月センターニュース330号情報センター日誌より)

調査・支援センターは日本医療安全調査機構に

 本年10月1日から医療法に基づく医療事故調査制度がスタートします。制度の要となる医療事故調査・支援センターには、本年8月17日付で、一般社団法人日本医療安全調査機構が指定されました。
 医療法では、医療事故調査・院内事故調査の支援の実施によって医療安全の確保を目的とする一般社団法人・一般財団法人を医療事故調査・支援センターとして指定することを予定しています。指定申請は本年5月22日に締め切られていましたが、新制度運営開始まで2ヶ月を切ってもなお指定がなされておらず、ようやくというタイミングでの指定となりました。制度開始までの準備・周知に関する作業の必要性に鑑みれば、半年程度の余裕を持って指定されるべきであり、制度運営の準備は相当に遅延していると言わざるを得ませんが、まずはあと1ヶ月の間で、可能な限りの準備を進めていただきたいと思います。

機構が全国7箇所で説明会

 センター指定翌日の8月18日、同機構は医療事故調査制度説明会を全国7箇所で開催すると発表しました(8/29東京、8/30岡山、8/31福岡、9/13宮城、9/21北海道、9/23愛知、9/24大阪)。開催場所は、いずれもこれまでモデル事業が実施されてきた地区となっています。誰でも参加可能とのことですので、弊センター正会員の先生方におかれては、是非足をお運び下さい。

広範囲に指定された支援団体

 さて、センターの指定に先立ち、本年8月6日付で、医療事故調査等支援団体が告示されました(平成27年8月6日付厚生労働省告示第343号)。支援団体は、個別医療機関からの要請に応じて院内調査を支援することが予定されており、厚労省が定めるとされています。
 新たな制度が院内事故調査を主体とした制度設計とされたことから、支援団体による調査支援のありようによって、院内事故調査の公正性・透明性・中立性・専門性が大きく左右されるだろうと予想されますが、今回の告示では、日本医師会・都道府県医師会等の職能団体、各種病院団体とその会員病院、各種学会等が極めて広範に支援団体に指定されています。個別の病院名は列記されていませんが、いくつかの病院団体については、会員病院も一律に支援団体に指定されており、非常に小規模な病院も含む形で支援団体が定められたものと理解されます。例えば、「日本病院会及びその会員が代表者である病院」が支援団体として告示されていますが、その会員病院数は愛知県下だけでも100を越えています。

支援団体の「指定条件」は?

 さて、調査・支援センターの指定にあたっては、次のような指定条件が定められ(医療法施行規則1条の13の4)、同機構はこれに適合するものとして指定を受けることとなりました。
一 営利を目的とするものでないこと。
二 調査等業務を行うことを当該法人の目的の一部としていること。
三 調査等業務を全国的に行う能力を有し、かつ、十分な活動実績を有すること。
四 調査等業務を全国的に、及び適確かつ円滑に実施するために必要な経理的基礎を有すること。
五 調査等業務の実施について利害関係を有しないこと。
六 調査等業務以外の業務を行つているときは、その業務を行うことによつて調査等業務の運営が不公正になるおそれがないこと。
七 役員の構成が調査等業務の公正な運営に支障を及ぼすおそれがないものであること。
八 調査等業務について専門的知識又は識見を有する委員により構成される委員会を有すること。
九 前号に規定する委員が調査等業務の実施について利害関係を有しないこと。
十 公平かつ適正な調査等業務を行うことができる手続を定めていること。
 他方、支援団体については、本年5月8日付で厚労省医政局総務課から都道府県宛ての事務連絡により、都道府県下の医療機関・関係団体に対し支援団体となることを希望する場合の申出方法を周知するよう要請されました。しかしその内容は、支援の内容と支援可能な対象地域を自己申告する書式が添付されるに留まっており、調査支援実施上の公正性の担保や、調査支援を担当する組織の設置や調査支援に関する手続の策定といったような指定要件は定められておらず、支援団体となった後の具体的支援のあり方に関するガイドラインや留意事項等も全く示されていません。

支援団体の中立性確保の仕組みを

 これまで医療事故情報センターでは、支援団体に中立性等を確保する仕組みが必要であることを繰り返し指摘してきました。医療法改正時の平成26年6月17日付参議院厚労委員会附帯決議においても、支援団体について地域間で事故調査内容や質の格差が生じないようにする観点から、中立性・専門性を確保する仕組みの検討が求められています。そうであるのに、現在まで、支援団体のあり方について、全くと言って良いほど議論や準備が進んでいないことに、強い危惧を感じます。
 上記のように、支援団体には、医師会・看護協会・各種学会等のように賠償責任保険制度の運用に関わる団体や、非常に小規模な組織の医療機関も含まれています。支援を依頼する先の如何によって調査の内容や質が左右されることのないよう、参院附帯決議の趣旨に沿った具体的な仕組みの実現が急務と言えます。