医療事故調査制度、施行後の状況

弁護士松山健(嘱託) (2015年12月センターニュース333号情報センター日誌より)

医療事故調査・支援センターが公表

 平成27年11月13日、一般社団法人日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)が、平成27年10月1日のスタートから1カ月が経過した10月31日現在の制度施行状況を公表しました。

相談件数(250件)

 相談は遺族からよりも医療機関からが多く、相談のおよそ60%が医療機関からで、約15%は遺族からだったとのことです。
 内容による集計では274件(複数計上)、相談主体による集計では250件でした。
 相談内容は、「医療事故報告の範囲やその判断」に関する相談が約25%、支援の求め方に関することを含めた「院内調査」に関する相談が24%と多く、そのほか、相談や報告の「手続き」に関する内容が22%、「センター調査」に関する内容は5%であったとのことです。

医療事故報告受付件数(20件)

 これに対して、医療機関の管理者が本制度の「医療事故」に該当すると判断し医療事故として報告がなされた件数は20件でした。
 この20件を報告した医療機関の内訳は、病院15件、診療所・助産所5件でした。
 診療科別の内訳は、消化器外科5件、産科4件、その他が11件でした。
 「死亡」からセンターへ報告するまでの所要日数は3~25日で、平均すると11日とのことです。

事前予測との乖離と要因

 制度スタート前、厚労省が示していた診療行為に係る死亡事故症例数の推計は、年間1300~2000件であったところです(厚生労働省「診療行為に係る死亡事故症例の年間発生件数試算」(「第13回医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」平成25年5月29日資料3-1))。
 今回の1カ月経過時点での報告数は、当初の想定件数を月割りした数よりも大幅に少ないものとなっていますが、制度開始から間もないことや相談段階の事例もあることなどから、まだまだこの段階での件数をもって新制度についての評価を行うことは早計でしょう。
 ただし、単純に診療関連死全例をまずもって報告対象としてその後にふるいにかけるというのではなく、対象となる決して明解とはいえない「医療事故」(「医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産」であって、「当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったもの」)に該当するかどうかの判断を死亡の起こった当該医療機関の管理者の判断に委ねる仕組みが報告件数の伸び悩みの一つの要因となっているのは確かでしょう。

まとめ

 そもそも本来報告が義務付けられる「医療事故」に関する情報がスムースに現場から上がってくるようでなければ、院内調査の公正性・中立性の問題云々よりも以前のところで制度として立ち行かなくなってしまいかねません。
 日本医療安全調査機構には、医療事故調査・支援センターとして、さらなる医療現場への本制度に関する周知徹底が求められます。