医療事故調査等支援団体、統一的な連絡協議会設置へ

松山 健(嘱託) (2016年6月センターニュース339号情報センター日誌より)

制度見直し

 昨年10月にスタートした医療事故調査制度ですが、当初届け出の件数として想定されていた年間1300~2000件に対して、本年4月までの7カ月間の累計報告件数は222件と、想定件数に遠く及ばない低調な件数での推移となっています。
 その背景には、対象とされる「医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産」であって、「当該死亡又は死産を予期しなかったもの」とされる「医療事故」に該当するかを病院等の管理者の判断に委ねる報告の仕組み自体の問題、遺族側からの届け出が認められていない点等が指摘されていました。
 平成28年5月24日、自民党の作業部会の提言を受け、厚生労働省が地域や医療機関ごとの届け出数のばらつきを是正するため、①「協議会」を設置して届け出対象の②「統一基準」を設けるとともに、③「遺族からの調査要求に対応する仕組み」も新たに設ける方針を固め、④6月にも関連省令を改正する見込みであるとの報道がなされました。

見直しの内容

 もっとも、報道機関によって「協議会」について、制度の見直しを検討する組織が設置されるものとして表現するものや支援団体の間の連絡協議会として表現するものがあり、また、遺族の意向反映についても、遺族からの調査依頼を受け付ける仕組みを新設するように表現するものや遺族の意向を当該医療機関に報告するものもあり、報道内容にブレがありました。
 そこで、厚労省の医療安全推進室に確認したところ、いまだ自民党のワーキングチーム内での議論であり、報道された内容には正確でない部分もあるとのことでしたので、以下、確認事項をご報告します。
①協議会
 「協議会」は、新たに厚労省の内部や医療事故調査・支援センター内、あるいは、第三者機関としての検討会を設置するものではなく、全国的に医療法上の支援団体間の認識の共有と意見交換を行う連絡協議会を設ける。
②解釈の統一化
 協議会では、医療法上の「医療事故」の定義を変えたり、現状で厚労省が示す解釈を変えて新たな判断基準を設けることを検討するのではなく、個々の医療機関からの具体的な事例の問い合わせに対して、各支援団体が助言する際の事例へのあてはめにばらつきが出ないように、各支援団体の間での解釈の統一化と院内調査の内容の標準化を目指す。
③遺族の意向への対応
 「調査を求める遺族からの相談を受け付ける仕組み」については、新たに遺族相談窓口や遺族からの事故報告を受け付ける制度を設けるものではない。現状でも遺族からの相談や問い合わせや調査希望が支援団体等になされることはあり、現在は、遺族から相談があっても、それを当該医療機関に伝えることはしていない。この運用を今後、遺族の同意の上、遺族からの相談等があった事実を当該医療機関に伝達する運用にすることで、医療機関からの報告の契機とする。
④見直し実施時期
 6月の可能性はあるが、具体的な時期は未定である。

 

 

まとめ

 このように、制度の枠組み自体の変更を検討する会議が設置されるわけではないようです。
 もっとも、これまで厚労省または医療事故調査・支援センターから具体的な形でガイドラインが提示されておらず、複数の医療団体が個別にガイドラインを作成することとなり、医療現場が依拠すべき基準やあてはめ方を示す統一的な指針がなく、医療機関から相談を受けた支援団体からの助言にも必ずしも統一性が保たれているとはいえず、混乱していたところ、全国的な連絡協議会が設置されることで届け出の判断のばらつきを招いていた解釈基準の標準化がなされ、医療機関や地域間の格差が解消することが期待できます。
 また、従来、なされることのなかった遺族からの相談を医療機関に伝えることで、調査実施につなげることも前進と評価できるでしょう。
 今後は、より直接的に遺族からの調査依頼を受け付ける窓口や、死亡事故があった医療機関の職員からの通報を受け付ける窓口の設置も検討されるべきでしょう。