医療事故調査制度~制度趣旨に則った運用に期待

柄沢好宣(常任理事) (2017年3月センターニュース348号情報センター日誌より)

係争事例でもセンター調査の対象に

 平成29年1月31日、一般社団法人日本医療安全調査機構の医療事故調査・支援事業運営委員会において、センター調査の実施判断にあたって、当該事例が係争事例であるかどうかは影響しないとの方針が確認されました。
 医療事故調査制度上の調査は、当該医療機関において行われる院内調査が基本ですが、当該医療機関またはご遺族から依頼があった場合に、医療事故調査・支援センターによる「センター調査」を行うことができるとされています。医療事故調査・支援センターには、平成27年8月に日本医療安全調査機構が指定を受けています。
 同機構によれば、そもそもセンター調査の実施にあたって、当該事例が係争事例かどうかの確認はとっておらず、仮にセンター調査実施中に当該医療事故事例が訴訟となった場合でも、それを理由としてセンター調査の対象から除外するものではないとの方針を確認したということでした。

 

医療事故調査制度が目指すもの

 上記のような内容で確認された理由として、日本医療安全調査機構は、医療事故調査制度の目的は再発防止と医療の安全にあることを挙げています。
 期せずして医療事故が起きてしまった場合、なぜ事故が起きてしまったのかという原因を調査・分析し、その結果をフィードバックしていくことは、次に同様の事故を起こさないために極めて重要なステップです。こうした再発防止に向けた取り組みをひとつひとつ積み重ねていくことが、ゆくゆくは医療安全という大きな目標につながってゆくのだと思います。
 「係争中だからセンター調査はやりません」というのでは、本来調査を尽くして次の医療に還元されるべき事項があるにも関わらず、調査が尽くされないままとなってしまうこともあり得ます。これでは、医療事故調査制度が目指す再発防止、医療安全にはつながっていきません。
 医療事故調査制度が目指す目標を振り返れば、当該事例が係争中であるか否かということは、同制度を運用していく上で、本来は無関係であるはずです。

 

センター調査の結果は?

 なお、日本医療安全調査機構のウェブサイトを見ると、センター調査の結果については、医療機関とご遺族の双方に報告書を交付する形で報告されるようです。既述のとおり、センター調査は、当該医療機関またはご遺族から依頼することができますが、日本医療安全調査機構によると、いずれから依頼があった場合でも、双方に報告書を交付しているということでした。

 

 

制度趣旨に軸足を置いた議論を

 今回、日本医療安全調査機構において確認された方針は、医療事故調査制度の根本をきちんと見据えたものであると思われます。
 医療事故調査制度は、運用が開始されてまだ1年半足らずです。今後も、様々なタイミングで運用方針を検討すべき局面が少なからずあるはずです。その時は、そもそもこの制度が何を目指しているのかという点に軸足を置いて議論されることが大いに期待されるところです。