産科麻酔の意識に大きな「断層」~無痛分娩の調査から見えてきたもの

堀康司(常任理事) (2018年1月センターニュース358号情報センター日誌より)

研究班が第2回公開討論会を開催

 昨年11月22日、厚労省「無痛分娩の実態把握及び安全管理体制の構築についての研究」班が第2回公開検討会を開催しました。今回の会合では、昨年6月に実施された日本産婦人科医会の実態調査結果の詳細が報告されました。

 

手法は硬膜外がほとんど

 全国の分娩取扱施設(病院1044+診療所1347=2391施設)を対象として行われた同医会の調査には、590の病院と833の診療所が回答しています(回収率59.5%)。過去3年間(H26-28)の分娩総数は182万354件で、硬膜外無痛分娩が9万6255件(5.3%)、その他の無痛分娩が1685件(0.09%)含まれていました。国内の無痛分娩の大半で、硬膜外麻酔による方法が採用されていることがわかります。

無痛分娩扱い病院は常勤医が少ない傾向?

 産科常勤医師数は無痛分娩有りの診療所の50%以上が1人で、80%以上は2名以下となっています。無痛分娩無しの診療所では60%以上が1人で、90%以上が2名以下ですので、無痛分娩を実施する診療所の方が、産科常勤医師数はやや多めとなっています。他方、無痛分娩有りの病院のうち10%以上が常勤1名で、20%以上が2名以下となっていますが、無痛分娩無しの常勤1名の病院は5%以下で、2名以下も20%以下となっており、無痛分娩を実施する病院の方が常勤医師数が少ないという、診療所とは逆の傾向が見られています。

産科麻酔と麻酔科医

 今回の調査では産科麻酔の実態把握も試みられました。その結果、帝王切開の場合には、診療所では8割以上で術者が麻酔管理を兼ねているが、病院では8割が麻酔科医による管理下で行われていることが明らかにされています。他方、無痛分娩については、やはり診療所では8割以上で産科医が管理していますが、病院でも6-7割は産科医が管理しており、麻酔科医の関与は47%に留まっています(重複あり)。
 帝切麻酔は麻酔科医が行うべきかとの質問には、全体で1423施設が回答し、「はい」が45%、いいえが47%という結果となっています。これを無痛分娩の扱いの有無で区別すると、無痛分娩を行わない施設の方が行う施設よりも「はい」と回答する率が高くなっています。
 麻酔科医は、出血等の不測の事態の際に母児救命の司令塔となりうる存在です。無痛分娩を通じて産科麻酔手技をより多く扱う施設の方が、産科領域における麻酔科医の必要性をより強く感じているのではと想像されるところですが、この調査では異なる傾向が示されています。

 

「断層」を埋める成果を

 無痛分娩の認定制度への賛否についてみると、病院の半数以上が賛意を示していますが、無痛分娩を行う診療所の実に44.6%が無痛分娩の認定制度を設けることに反対しており、賛成の比率(40.7%)を上回っています。
 このことからも、日本の産婦人科医は、医療機関の規模や無痛分娩扱いの有無によって、無痛分娩を含む産科麻酔に関する認識に、大きな相違が生じている可能性が示唆されます。
 このように、無痛分娩の死亡事故を契機として、日本の産婦人科医の間には、産科麻酔に関する意識に大きな「断層」が認められることが明らかとなってきました。安全なお産の実現のためにも、今回の検討によって、この「断層」を乗り越える成果がもたらされることを期待したいと思います。