混迷する新専門医制度

松山健(常任理事) (2018年7月センターニュース364号情報センター日誌より)

新制度4月からスタート

 本稿でもたびたび準備状況についてご紹介してきた新専門医制度が本年4月からスタートしています。
 平成29年8月に新制度の問題の要点を指摘した厚労大臣談話、すなわち、「〇実際の専攻医の応募の結果、各診療科の指導医や専攻医が基幹病院に集中することで地域医療に悪影響が生じるのではないか、〇専攻医がその意思に反し、望んでいる地域、内容での研修を行えなくなるのではないか」との懸念表明を受けてスタートが延期となっていたものですが、はたしてこの懸念は払拭できたのでしょうか。以下、地域医療への悪影響の点に絞ってご紹介します。

専攻医の登録・採用状況

 すでに専攻医の1次登録期間(平成29年10月10日~平成29年11月15日)、2次登録(一次登録で研修先が決まらなかった専攻医希望者)期間(平成29年12月16日~平成30年1月15日)は終了しています。
 登録状況については、厚労省の第7回「今後の医師養成の在り方と地域医療に関する検討会」(平成30年3月27日。以下「検討会」)で、一般社団法人日本専門医機構(以下「機構」)から「専攻医の採用状況について(概要)」として、別紙として、各都道府県の診療科別の登録・採用人数、過去5年の5大都市(東京、神奈川、愛知、大阪、福岡)の専攻医採用実績の平均値、平均値の根拠としての各地の各診療科の採用人数の年度別内訳、初期研修プログラム(または住所地)から見た採用状況とともに次の登録・採用人数が公表されています。
 1次登録については、平成29年11月15日の締切までに7,989人が登録、12月15日までにこのうち7,791人について採用を決定(その後18人が採用を辞退)し、2次登録については、平成30年1月15日の締切までに569人が新たに登録し、553人につき採用を決定し、2月16日から3月5日の締め切り(「概要」では、この追加募集については、1次登録や2次登録のように「3次登録」とは表示されていません)までに50人が登録し、採用者数及び登録者数の合計は8,394人となっています。

 

機構の楽観的評価

 機構は「概要」で、各都道府県の登録・採用状況について、過去の専攻医(後期研修医)採用実績と比較して、次の点から従来の採用実績と変わりはなく地域医療への悪影響はないという趣旨の評価を示しています。
① 都市部への集中を抑制する観点から、新専門医制度整備指針及び同運用細則において、5都府県(東京、神奈川、愛知、大阪、福岡)については、採用者数が過去5年の専攻医採用実績の平均値を超えないこととしている(この制限は「シーリング」と呼称されています)。
② 現時点における、5都府県の領域別の採用者数の合計は、いずれも過去5年の専攻医採用実績の平均値を超えておらず、都市部への集中は抑制されている。
③ また、上記の採用者数及び登録者数の合計の8,394人について、登録時(臨床研修2年目)の都道府県と専門研修の基幹施設の都道府県の対応関係からすると、専攻医は全国から東京に集中したのではなく、従前から連携のある都道府県間で所属を移したと考えられる。
④ 内科、外科等の領域別の専攻医数についても概ね過去5年の専攻医採用実績と一致している。

実際には都市部への集中が加速

 上記の機構の評価については、検討会でも、構成員から、シーリングが甘く設定されているのではないか、関東ブロックで見ると、初期研修医シェアは34.9%であったが、専攻医シェアは37.3%に上昇しており、都市部集中が増悪している、東京の人口比率10.6%に対して専攻医中の東京の登録者比率21.7%は、全診療科での東京への一極集中を明らかに示している等の指摘がなされ、機構と検討会構成員との間で、専攻医登録者数についての評価について大きな見解の相違が認められました。
 統計的データである厚労省の平成26年医師・歯科医師・薬剤師調査の特別集計の「主たる診療科・従業地による都道府県別医籍登録後3~5年目の医療施設従事医師数」では、東京の医籍登録後3~5年目の医療施設従事医師数の全国比は17.1%であり、これと比較して上記の21.7%は確かに東京への一極集中が進んでいることを示しています。

まとめ

 上記の機構の評価については、検討会でも、構成員から、シーリングが甘く設定されているのではないか、関東ブロックで見ると、初期研修医シェアは34.9%であったが、専攻医シェアは37.3%に上昇しており、都市部集中が増悪している、東京の人口比率10.6%に対して専攻医中の東京の登録者比率21.7%は、全診療科での東京への一極集中を明らかに示している等の指摘がなされ、機構と検討会構成員との間で、専攻医登録者数についての評価について大きな見解の相違が認められました。
 統計的データである厚労省の平成26年医師・歯科医師・薬剤師調査の特別集計の「主たる診療科・従業地による都道府県別医籍登録後3~5年目の医療施設従事医師数」では、東京の医籍登録後3~5年目の医療施設従事医師数の全国比は17.1%であり、これと比較して上記の21.7%は確かに東京への一極集中が進んでいることを示しています。