事故調スタートから3年、安全文化は道半ば

堀康司(常任理事) (2019年1月センターニュース370号情報センター日誌より)

機構が3年分の集計値を公表

 昨年12月7日、日本医療安全調査機構は医療事故調査制度開始3年の動向に関する情報を公表しました(https://www.medsafe.or.jp/uploads/uploads/files/houdoushiryo20181207.pdf)。これは平成27年10月に医療法上の医療事故調査制度がスタートして丸3年の状況をとりまとめたものです。このデータ上の注目点をご紹介します。

 

遺族の相談が急増、報告を推奨されても1/4は応じず

 機構への相談件数は年2000件程度で推移していますが、医療機関からの相談が減少傾向にある中、遺族からの相談が急増しています(1年目から順に525→738→979件)。特に3年目は遺族からの相談件数が医療機関からの相談件数(912件)を上回った点が注目されます。
 こうした相談に対して機構内で合議の上で「報告を推奨する」と助言したケースは3年で114件ありましたが、こうした助言を受けても報告しなかった医療機関が28件(24.6%)に及んでいます。

 

事故発生報告は100万人あたり年3.0件、地域格差が顕著

 医療事故発生報告件数は年300件後半で推移しており(388→363→378件)、大きな増減はみられませんが、地域格差は顕著です。
 人口100万人あたりの年間報告件数の全国平均は3.0件ですが、最大の宮崎県(5.8件/年)に対し最小は1.4件/年(宮城・山口)と、大きな開きがみられます。この値から本欄筆者が偏差値を算定したところ、偏差値が30台だったのは、宮城・山梨・福井・大阪・岡山・山口・香川・高知・鹿児島の9府県でした。
 特に人口の多い大阪府で1.9件/年に留まっていることは、隣接する京都府(4.5件/年)や兵庫県(3.4件/年)と比較しても相違が目立ち、大変に残念です。3年間の報告数の合計でも、大阪府は、東京(129件、以下同)、愛知(78)、千葉(70)、神奈川(69)、北海道(61)、兵庫(56)、福岡(52)に次ぐ8位(50)に留まっています。

 

解剖・Ai実施は半数以下

 院内調査結果報告件数は3年合計で817件(161→315→341件)ですが、うち解剖実施例は311件と全体の約4割に留まっています。また死後画像撮影件数は287件でした。解剖結果も死後画像もないまま調査が行われている例が352件と全体の4割を占めており、死因評価の基礎となる資料が十分得られないまま、調査が行われている実情がうかがわれます。

 

外部委員参加は定着、3名以上選任も1/3超に

 817件の報告中、1件を除いて調査委員会が設置されており、686件(84.1%)で外部委員の参加がありました。外部委員数が3名以上の例も増加しており、3年目では121件(同年の総数341件の35.5%)を占めています。

 

センター調査開始は全体の9.2%

 院内調査結果報告後にセンター調査の対象とされた件数は817件中75件(9.2%)で、年を追って増加しています(16→25→34件)。他方昨年11月末時点で、すでにセンター調査結果が報告されたものは11件に留まっており、67件がなお調査中です。

 

安全文化の普及に向け、さらなる進展を

 法律の裏付けのある制度自体が存在しなかった時期を振り返れば、まがりなりにも年間300件以上の死亡事故が公的に報告され、院内メンバーだけではなく、外部の視点を取り入れて調査を行うようになったことは、医療安全実現に向けた大きな進歩です。
 しかし、報告推奨に応じない医療機関がみられたり、報告数に著しい地域差が認められることからも明らかなように、事故調査の情報を広く共有して安全に繋げようという文化が医療界で定着したとは言えません。また、解剖やAiの情報が欠けたままでは、真の死因に迫ることがとても難しくなります。センター調査の実施体制充実も含め、さらなる進展のためには、山積した課題の解決が引き続き必要です。
 ともあれ、この3年の間に安全実現に向けて真摯な努力を続けた医療機関とそうでない医療機関との間には、すでに大きな経験の相違が生じていることは、今回の報告からも明らかです。良き安全文化を育む医療機関が周囲を牽引していくことを期待したいと思います。