特商法改正

松山健(常任理事) (2019年3月センターニュース372号情報センター日誌より)

特商法改正

 2017年5月25日に「特定商取引に関する法律の一部を改正する法律」が可決成立し、同法及び特商法施行令の一部を改正する政令(平成29年政令第174号)及び特商法施行規則の一部を改正する命令(平成29年内閣府令・経産省令第1号)が同年12月1日から施行されています。施行からしばらく経ちますが、ご紹介します。
 従来、美容医療に関するトラブルに関する全国の消費者生活センターへの相談件数が年間2000件程度で推移し、エステサロンで結んだ長期契約は解約できるのに、医療機関でおこなう同様のサービスは対象になっておらず、医療脱毛のクーリングオフや中途解約ができないため、消費者保護に欠けるとの問題が指摘され法規制の必要性が議論されてきました(消費者委員会 特定商取引法専門調査会 報告書(2015 年 12 月 24 日))。改正によって、一定の美容医療契約が「特定継続的役務提供」に追加され、特商法の規定の適用を受けることとなりました。

 

改正特商法の対象となる美容医療は?

□対象となる契約(特商法施行令別表第4関係)
 「人の皮膚を清潔にし若しくは美化し、体型を整え、体重を減じ、又は歯牙を漂白するための医学的処置、手術及び治療を行うこと(美容を目的とするものであって、主務省令に定める方法によるものに限る)」を内容とする役務提供の期間が「1カ月」を超え、かつ金額が「5万円」を超える契約
 病院での治療が1回だけでも、1カ月を超えて無料でアフターサービスを提供するとしているような場合は「1カ月」の要件を満たすとされます(消費者庁「特定継続的役務提供(美容医療分野)Q&A」)。


□対象となる役務(特商法施行規則31条の4各号関係)
① 脱毛・・・光の照射又は針を通じて電気を流すことによる方法
② にきび、しみ、そばかす、ほくろ、入れ墨その他の皮膚に付着しているものの除去又は皮膚の活性化
③ 皮膚のしわ又はたるみの症状の軽減・・・薬剤の使用又は糸の挿入による方法
④ 脂肪の減少・・・光若しくは音波の照射、薬剤の使用又は機器を用いた刺激による方法
⑤ 歯牙の漂白・・・歯牙の漂白剤の塗布による方法
 

 機器を用いて直接的に脂肪の吸引を行う場合は該当しません(消費者庁「特定継続的役務提供(美容医療分野)Q&A」)。

 

適用による効果

 上記の要件を満たせば、特商法の規定の適用が認められます。

□書面交付義務
 契約締結前の当該契約の概要を記載した書面(概要書面)、締結後には、契約内容を明らかにした書面(契約書面)の交付が義務づけられます。両書面の記載事項には、クーリングオフや中途解約について、支払わなければならない金額(概要書面では概算額)、支払い時期、方法が含まれます。

 

□クーリングオフ、中途解約
 法定書面の交付を受けた日から起算して8日以内であればクーリングオフができます。法定書面が未交付、または法定記載事項不備の書面交付の場合、クーリングオフ期間が起算しないので、契約日から8日間を経過していてもいつでもクーリングオフができることになります。

 

□意思表示の取り消し
 事業者の不実告知や重要事実の不告知による取消権が認められます。

 

まとめ

 顔の整形手術や豊胸手術、脂肪吸引等は対象外で、特商法を使える範囲はいまだ限定的であり、将来的な拡大が望まれるところです。
 対象役務については、美容外科側での改正法の周知度も徹底してはおらず、いまだ法定書面の未交付や記載不備は多いと思われますので、クーリングオフが活用できるケースもあると思います。適用対象となるか微妙なケースについては、消費者庁のQ&Aをご参照ください。