堀康司(常任理事) (2019年5月センターニュース374号情報センター日誌より)
2010年の出生年別統計の公表
産科医療補償制度を運営する日本医療機能評価機構は、本年3月に「原因分析がすべて終了した2010年出生児の概況」を公表しました。これは制度の対象となった脳性まひ事例のうち、原因分析がすべて終了した2010年出生児の事例382件の概況をとりまとめた資料です。出生年別統計が公表されるのは昨年3月の2009年出生児分419件に続く2回目となります。
約半数は緊急帝切
2010年の382件の娩出経路の内訳をみると、177件(46.3%)が緊急帝王切開であったとされています。2009年を見ても緊急帝王切開が419件中185件(44.2%)を占めており、補償対象児の半数近くは緊急帝王切開で娩出されていることがわかります。
緊急帝切決定から娩出までの所要時間をみると、2010年は30分未満が37件(20.9%)、30分以上~60分未満が44件(24.9%)、60分以上が52件(29.4%)となっており、2009年でも同様の傾向がみられます。
気になるのは、緊急帝王切開の決定時刻が不明であるものが2010年は44件(24.9%)、2009年も34件(18.4%)を占めていることです。脳性まひの再発防止を考える上で、帝切決定から娩出までの実情を把握することはとても重要です。その決定時期という重要な情報が診療記録上に明確に記載される必要があることは明らかです。
適応を超えた回数の吸引実施
吸引分娩例は2010年は59件(15.4%)、2009年も58件(13.8%)を占めています。このうち吸引回数が適応を超える6回以上であったものが、2010年が7件、2009年も3件となっています。適応を遵守せずに吸引が行われる例がなくなるよう、加入医療機関に周知徹底をはかる必要があります。
また吸引実施回数が不明とされた例も2009年に8件、2010年には12件に達しています。正しく原因分析を行うための前提情報が欠けた事例が認められることは大変に残念です。
臍帯血ガス不実施例も
脳性まひの原因分析を行う際の基礎情報の1つに臍帯血液ガス分析値があります。しかし、その実施がないもの(採取時期不明、動脈血・静脈血の区別不明を含む)は2009年には141件(33.7%)、2010年には91件(23.8%)と相当数に及んでいます。産科医療補償制度の定着に従って不実施例が減少してきていると考えたいところですが、それでも、およそ4例に1例は臍帯血液ガス分析値を正しく確認できないまま原因分析が行われていることになります。
4割を超す原因不明例を減らすためには
脳性まひ発症の主たる原因が不明あるいは特定困難とされた事例は、2009年は184件(43.9%)、2010年は165件(43.2%)となっています。これらの中には、十分な基礎情報が得られなかったために充実した原因分析作業を行い得なかった例が含まれているのではないでしょうか。
産科医療補償制度は脳性まひの再発防止を目的とする制度です。その目的を達成するためには、各医療機関において充実した診療情報の記録が残されるような指導を進めていく必要があります。