応招義務に関するとりまとめ

柄沢好宣(嘱託) (2020年2月センターニュース383号情報センター日誌より)

厚生労働省通知

 昨年12月25日付で、厚生労働省医政局長通知「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」(医政発1225第4号)が発出されました。
 2018年10月号において、厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」で研究班(主任研究者:岩田太氏・上智大学法学部教授)が立ち上がり、論点の中間整理がなされたことをご紹介しましたが、今般、検討結果が報告書にとりまとめられたため、その内容を踏まえて上記通知が発出されたところです。
 なお、報告書については、厚生労働省のホームページからもご確認いただけます。
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000581247.pdf

 

基本的な考え方

 通知で示されている基本的な考え方は、次の3点です。
1.診療の求めに対する医師個人の義務(応招義務)と医療機関の責務
2.労使協定・労働契約の範囲を超えた診療指示等について
3.診療の求めに応じないことが正当化される場合の考え方
 このうち、第1点目では、応招義務の法的性質について整理されており、医師・歯科医師が負担する公法上の義務であって、患者に対する私法上の義務でないというこれまでの理解が踏襲されています(千葉地裁判決昭和61年7月25日・判タ634号196頁参照。なお、同判決においても、「医師法一九条一項が患者の保護のために定められた規定であることに鑑み、医師が診療拒否によって患者に損害を与えた場合には、医師に過失があるとの一応の推定がなされ診療拒否に正当事由がある等の反証がないかぎり医師の民事責任が認められると解すべきである」とされています)。
 第2点目では、労使協定・労働契約の範囲を超えた診療指示等については労働関係法令上の問題であって、応招義務の問題ではないとされています。
 第3点目では、最も重要な考慮要素として、緊急対応が必要であるか否か(病状の深刻度)であるとされた上で、診療時間(医療機関として診療を提供することが予定されている時間)・勤務時間(医師・歯科医師が医療機関において勤務医として診療を提供することが予定されている時間)内であるかどうか、患者との信頼関係も重要な考慮要素であるとされています。

「正当な事由」の整理

 さらに、通知では、上記第3点目の具体的な事例についても整理されています。
 上記の整理に基づき、緊急性のある・なし、診療時間内・外で4類型に分類して整理しているほか、個別事例ごとの整理として、次の5点が挙げられています。
 ①患者の迷惑行為
 ②医療費不払い
 ③入院患者の退院や他の医療機関の紹介・転院等
 ④差別的な取扱い
 ⑤訪日外国人観光客をはじめとした外国人患者への対応
 紙幅の都合上、個々の詳細なご紹介はできませんが、いずれも診療を拒否できるのは、一般的な感覚からみてもやむを得ないような場合に限定されているように理解されますし、また、そのように解釈されるべきであろうと思います。